観測対象指定――おっさん、国家に見つかる
――“異常”は、静かに世界へ広がる。
それは爆発ではない。
気づいたときには、もう手遅れになっている種類のものだった。
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■ダンジョン外・帰還直後
ダンジョンの入口から出た瞬間。
空気が変わった。
外の世界はいつも通りのはずなのに――
どこか“ざわついている”。
「……なんか、見られてますね」
直人が首をかしげる。
「見られてます」
美月は即答した。
スマホの画面には、異常な通知が並んでいる。
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■ネットの異常拡散
『ダンジョン内部で空間が消えた件』
『美月配信が途中でブラックアウト』
『謎の黒い人型存在』
『レベル1おっさん、またやらかす』
『国家機関が動いてるらしい』
コメントはすでに“祭り”ではない。
騒動になっていた。
「……これ、まずいですね」
美月が呟く。
「何がです?」
「あなたの映像、政府系アカウントに拾われてます」
「それはいいことですか?」
「普通は悪いことです」
「そうなんですね」
直人は相変わらず平然としている。
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■探索者協会・緊急会議
同時刻。
探索者協会本部。
巨大モニターに映像が流れていた。
――黒い“観測体”。
――空間の歪み。
――そして直人の一撃。
「……これは何だ?」
協会長が呟く。
「ダンジョンのバグか?」
「いいえ」
技術班が即答する。
「これは“ダンジョン側の反応”です」
「反応?」
「はい。対象を“危険”と認識した場合の隔離プロトコルです」
沈黙。
誰かが言った。
「つまり……あの男は」
技術班は答えた。
「ダンジョンにとって“異常”です」
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■美月の確信
夜。
ホテルの一室。
美月は映像を何度も見返していた。
黒い存在。
空間の歪み。
そして直人の一撃。
「……あり得ない」
彼女は呟く。
「人間が“観測対象”に指定されるなんて」
美月は机に手をついた。
震えている。
それでも目は逸らさない。
「佐伯さん」
彼はソファで寝ている。
普通に。
何も知らずに。
「あなた、本当に何なんですか……」
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■深夜・直人の部屋
「……ん?」
直人は目を覚ました。
スマホが光っている。
通知。
『緊急指定:観測対象レベルS』
「……何これ」
よく分からないまま閉じる。
再び寝ようとする。
そのとき。
窓の外。
“何か”がいた。
黒い影。
人の形。
しかし人ではない。
【再接続】
【対象:佐伯直人】
【監視継続】
直人はカーテンを開ける。
「……誰ですか?」
影は動かない。
ただ“見ている”。
「……勧誘ですか?」
沈黙。
そして――
影は消えた。
「……変な夢だな」
直人は布団に戻った。
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■翌朝・美月の決断
「上層ダンジョンに行きます」
朝一番。
美月はそう言った。
「昨日の続きですか?」
「違います」
彼女は直人を見た。
「あなたの“正体”を確認します」
「正体?」
「はい」
美月は静かに言う。
「あなたはもう、初心者ダンジョンにいるべき人間じゃない」
「そうなんですか?」
「そうです」
即答。
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■上層ダンジョン入口
そこは別世界だった。
空気が重い。
光が歪む。
入口の前に立つだけで、普通の探索者は震える。
『ここ上層だぞ……』
『Aランク以上しか入れないやつ』
『美月ソロでもキツい』
『おっさん死ぬだろ』
直人は周囲を見ている。
「なんか雰囲気違いますね」
「当たり前です」
美月は剣を握る。
「ここからは“本物”です」
「今までは偽物だったんですか?」
「そういう意味じゃありません」
ため息。
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■上層・第一階層
入った瞬間。
空気が変わる。
重力が増す。
視界が揺れる。
「……これは」
美月の顔が引き締まる。
「普通の人間なら立っていられません」
直人は立っている。
普通に。
「そうなんですか?」
「はい」
そのとき。
影が現れた。
巨大な獣。
四つの目。
黒い角。
上層ボス。
「……出ましたね」
美月が構える。
しかし――
獣は動かない。
直人を見ている。
“警戒”している。
「……え?」
美月が固まる。
「何で動かない?」
直人は首をかしげる。
「こんにちは」
その瞬間。
獣が後退した。
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■異常再発
『え?』
『逃げた?』
『上層ボスが?』
『美月よりおっさん怖がってる?』
美月は呟く。
「……やっぱり」
彼女は確信した。
「あなた、ダンジョンにとって“敵”です」
「敵?」
「はい」
美月は直人を見る。
「普通の探索者は“攻略対象”です」
「はい」
「でもあなたは違う」
「何が違うんです?」
美月は言った。
「あなたは――」
「“観測される側”です」
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■ラスト
ダンジョンの奥。
再び黒い影。
【対象確認】
【危険度:上昇】
【隔離準備】
そして――
どこかで声がした。
「……人類側に、イレギュラーが出たか」
影は笑った。
「面白い」
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■地上
直人は外に出る。
「今日は疲れましたね」
「あなたは疲れないはずです」
「そうですか?」
美月は空を見上げる。
そして言った。
「佐伯さん」
「はい」
「あなたはもう、“普通の生活”には戻れません」
直人は少し考えて。
「それは困りますね」
とだけ言った。
その言葉に。
美月は小さく笑った。
「……本当に、変な人」
そして――
世界は静かに動き始める。
“観測対象・佐伯直人”を中心に。
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