失敗する妹――零が選んだ未来
――白い光。
世界を覆っていた。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ一つ。
直人の声だけが響いた。
「……零?」
返事はない。
「零!」
直人が走る。
白い空間の中を、
ひたすら前へ。
すると――
一人の少女が、
膝をついていた。
「……」
零だった。
しかし。
その身体には、
無数の亀裂が入っている。
「零!」
直人が駆け寄る。
零は顔を上げる。
「……お兄ちゃん」
「大丈夫ですか?」
「分からない」
「痛い?」
「……うん」
零は少し笑う。
「初めて」
「痛いって……こういうことなんだね」
⸻
■初めての「失敗」
直人は零の身体を見る。
「どうしてこんな……」
零は答える。
「私が、自分で壊したの」
「自分で?」
「うん」
零は胸に手を当てる。
「今までの私は、絶対に壊れなかった」
「だから――」
涙を流す。
「何も変われなかった」
直人は黙って聞いている。
「でも」
「お兄ちゃんを見てたら分かった」
「失敗することは」
零が笑う。
「悪いことじゃないんだね」
⸻
■直人の答え
「そうですよ」
直人は即答する。
「俺なんて失敗だらけです」
「本当に?」
「はい」
「何度も死にそうになった」
「はい」
「何度も負けた?」
「はい」
「それでも笑ってる」
「……まあ」
直人は頭をかく。
「そのほうが楽しいので」
零は少しだけ笑う。
「やっぱり変なお兄ちゃん」
「よく言われます」
⸻
■第七試験の続行
――その瞬間。
空から声が響いた。
『感情的接触を確認』
『試験継続』
零の身体が、
強制的に立ち上がる。
「……!」
直人が叫ぶ。
「やめろ!」
『対象二名のうち』
『一名を削除する』
零の瞳が赤く染まる。
「嫌……」
『戦闘を開始』
零の意思とは関係なく、
その身体が動く。
――ドン!
直人が吹き飛ばされる。
「直人!」
天音が叫ぶ。
美月も駆け出そうとする。
「助けないと!」
しかし。
見えない壁が、
四人の前を塞ぐ。
『試験参加者以外の干渉を禁止』
恒一が剣を振る。
――ガンッ!
弾き返される。
「くそっ!」
⸻
■零の涙
零は泣きながら、
直人を攻撃する。
「ごめん……!」
拳。
直人が受け止める。
「謝らなくていいです」
「でも……!」
「零は悪くない」
また拳が来る。
直人は避けない。
攻撃を受け止める。
「お兄ちゃん……!」
「大丈夫」
「私……止められない……!」
「なら」
直人は零の手を握る。
「止めなくていいです」
「……え?」
「俺が止めます」
⸻
■直人の新しい力
直人の右手が光る。
【因果干渉】
【対象:佐伯零】
【強制命令:解除】
しかし――
『拒否』
『対象は管理下』
直人の力が弾かれる。
「……」
直人は拳を見る。
「駄目ですか」
『お前に権限はない』
「じゃあ」
直人は少し考える。
「権限がなければ――」
拳を握る。
「作ればいい」
世界が震えた。
【新規概念生成】
【権限名――】
文字が現れる。
【兄妹権】
天城が目を見開く。
「……そんな権限など存在しない!」
直人が答える。
「今、作りました」
⸻
■兄妹権
直人の拳から、
光が零へ伸びる。
【佐伯直人】
【佐伯零】
【血縁因果:接続】
【存在因果:接続】
【運命因果:接続】
そして――
【兄妹関係:確定】
零の赤い瞳が、
元に戻る。
「……」
身体の動きが止まる。
『強制命令――』
『解除不能』
『なぜだ』
直人が笑う。
「だって」
「妹を守るのに」
「許可なんていらないでしょう?」
⸻
■零の選択
零は自由になった。
そして。
直人の前に立つ。
「お兄ちゃん」
「はい」
「私、決めた」
「何を?」
「もう誰かに作られた存在じゃない」
零は自分の胸に手を当てる。
「私は私になる」
直人が笑う。
「いいですね」
「それと」
零が直人を見る。
「お兄ちゃんの妹になる」
「それはもう決定です」
二人は笑う。
⸻
■第七試験――破壊
空に文字が浮かぶ。
【第七試験】
【失敗】
【対象二名】
【削除を開始】
零が空を見る。
「……また消そうとしてる」
直人が拳を構える。
「じゃあ」
零も拳を握る。
「一緒にやろう」
「はい」
兄妹が並ぶ。
そして――
同時に拳を振るった。
――ドォォォン!!
空間そのものが砕ける。
試験場が崩壊する。
管理システムが次々と消えていく。
『異常』
『兄妹因果が――』
『新しい概念を形成している』
『停止不能』
⸻
■世界管理局の崩壊
天城零は、
その光景を見つめていた。
「……」
直人が聞く。
「天城さん」
「何だ」
「これで終わりですか?」
天城は首を横に振る。
「違う」
「むしろ――」
空を見る。
「ここからが本当の戦いだ」
「どうして?」
「今の攻撃で」
天城の顔が青ざめる。
「世界管理局の“管理層”が破壊された」
「……?」
「つまり」
「世界を管理していた者たちが――」
言葉を止める。
「世界を管理できなくなった」
⸻
■自由になった世界
地上。
世界中のダンジョンが、
一斉に停止する。
魔物が動かなくなる。
空に浮かんでいた管理システムの文字も消える。
人々は、
何が起きたのか分からない。
しかし。
一つだけ変わった。
【世界管理権限】
【解除】
世界は――
初めて、
誰にも管理されない状態になった。
⸻
■しかし、異変
直人が空を見る。
「……?」
「どうしたの?」
天音が聞く。
「何か変です」
「何が?」
「世界が……」
直人は胸に手を当てる。
「静かすぎる」
その瞬間。
――ズン。
地面が揺れた。
もう一度。
――ズン。
さらに強く。
――ズン。
零が顔を上げる。
「……お兄ちゃん」
「はい」
「これ」
「何です?」
零が震えながら言う。
「世界が動いてる」
⸻
■世界そのものが目覚める
空が黒く染まる。
雲ではない。
空そのものが――
巨大な瞳へと変わっていく。
美月が震える。
「何……あれ……」
恒一が剣を握る。
「敵……なのか?」
蓮は答えない。
ただ。
天城が膝をついた。
「……来る」
直人が聞く。
「誰が?」
天城は空を見上げる。
「管理者でもない」
「創造主でもない」
「もっと上だ」
⸻
■最後の一文
世界中に、
巨大な声が響き渡る。
『管理を解除したか』
『試験を破壊したか』
『兄妹の因果を繋いだか』
空の巨大な瞳が、
直人を見つめる。
『ならば――』
世界が震える。
『最後の試験を始めよう』
直人の前に、
最後の文字が浮かぶ。
【最終試験】
【対象:佐伯直人】
【対象:佐伯零】
【試験内容】
【世界そのものを選択せよ】
そして。
その下に――
【選択肢】
【① 世界を救う】
【② 世界を捨てる】
【③ 世界になる】
直人は三つの文字を見つめる。
「……」
そして。
ゆっくり笑った。
「また三択ですか」
零が聞く。
「どうするの?」
直人は拳を握る。
「決まってます」
――世界の外側で、
何かが息を呑んだ。
「④を作ります」




