最初の失敗作――もう一人の佐伯直人
――黒い塔。
世界の外側に存在する、
巨大な建造物。
その頂上に、
一人の少女が立っていた。
長い黒髪。
白い服。
そして――
直人と同じ瞳。
『お兄ちゃん』
その声が響く。
「……俺に妹?」
直人は呆然としている。
天音も。
美月も。
恒一も。
蓮も。
誰も言葉を出せない。
⸻
■少女の名前
少女が微笑む。
『私の名前は――』
少しだけ間を置く。
『佐伯零』
直人が目を見開く。
「佐伯……」
『そう』
「俺と同じ?」
『当然だよ』
少女は笑う。
『だって私は』
胸に手を当てる。
『あなたより先に作られたから』
⸻
■最初の実験
天城が険しい顔をする。
「……話すつもりか」
零は天城を見る。
『もう隠す必要はないでしょう?』
「まだ試験は終わっていない」
『違うよ』
零が笑う。
『終わらせるために話すんだよ』
直人が聞く。
「俺は何なんです?」
零は答える。
『実験体』
「……」
『世界を維持するための“器”』
『それが、私たち』
⸻
■二人の器
空中に映像が現れる。
巨大な研究施設。
無数の装置。
その中央に――
二つの培養槽。
中には、
二人の子供。
一人目。
少女。
佐伯零。
二人目。
少年。
佐伯直人。
美月が息を呑む。
「二人とも……」
零が続ける。
『世界は一つの器を必要としていた』
『だから最初に私が作られた』
映像の少女が成長していく。
『でも――』
画面に赤い文字。
【安定性:低】
【成長性:低】
【適応率:限界】
『私は失敗した』
⸻
■失敗作
直人が聞く。
「だから失敗作?」
『そう』
「何が駄目だったんです?」
零は少し笑う。
『私は完成しすぎていた』
「……?」
『成長しない』
『変化しない』
『壊れない』
『完璧に安定していた』
零の声が少し寂しくなる。
『でも』
『世界は変化する』
『だから私は、世界についていけなかった』
⸻
■二人目
映像が切り替わる。
幼い直人。
泣いている。
笑っている。
転んでいる。
立ち上がる。
何度も。
何度も。
成長していく。
【適応率:上昇】
【成長率:異常】
【限界値:測定不能】
【存在安定度:変動】
零が言う。
『あなたは私と正反対だった』
『安定しない』
『完成しない』
『でも――』
直人の映像が、
笑う。
『止まらなかった』
⸻
■無限適応
直人が拳を見る。
「だから俺は……」
『そう』
零が答える。
『あなたは“未完成”だった』
『だから世界に合わせて変化できた』
『そして――』
零が笑う。
『世界そのものを超えられるようになった』
天音が呟く。
「未完成だから……最強になった」
零が答える。
『そういうこと』
⸻
■直人の違和感
直人はしばらく黙っている。
そして。
「じゃあ」
「俺たちを作ったのは誰です?」
零の表情が消える。
『……』
「世界管理局?」
『違う』
「天城?」
『違う』
零が空を見る。
『もっと上』
空のさらに上。
そこに巨大な影が現れる。
『世界を作った存在』
⸻
■創造主
美月が震える。
「世界を……作った?」
零が頷く。
『世界管理局は、世界を管理するだけ』
『私たちを作った存在は――』
黒い塔の奥。
巨大な扉が開く。
『“創造主”』
恒一が剣を握る。
「神ってことか?」
『神とは違う』
「じゃあ何だ?」
『世界の外にいる存在』
『世界を作り』
『世界を消し』
『新しい世界を作る』
直人が聞く。
「じゃあ、その人が全部の黒幕?」
零は笑う。
『違う』
「……え?」
『創造主ですら』
『誰かに作られた』
⸻
■さらに上
全員が絶句する。
天城が初めて声を荒げる。
「やめろ、零!」
『どうして?』
「これ以上話せば――」
『何?』
零が笑う。
『“上”に気づかれる?』
その瞬間。
空が裂けた。
巨大な目が現れる。
『――警告』
声が響く。
『情報階層違反』
零が笑う。
『ほら』
『来た』
⸻
■創造主の使者
空から、
一人の男が降りてくる。
黒い服。
白い髪。
無表情。
その存在だけで、
世界が静かになる。
天城が膝をつく。
「……執行官より上」
蓮が聞く。
「何者だ?」
天城は答える。
「創造主直属――」
「“終端執行者”」
男が直人を見る。
「対象、佐伯直人」
直人が聞く。
「はい」
「命令を伝える」
男の目が赤く光る。
「第七試験を開始する」
⸻
■第七試験
空に文字が浮かぶ。
【第七試験】
【対象:佐伯直人】
【対戦対象:佐伯零】
【勝利条件】
【どちらか一方の消滅】
直人が固まる。
「……」
零は笑っている。
『私を殺せばいい』
「嫌です」
『どうして?』
「妹だから」
零の笑顔が止まる。
「会ったばかりですけど」
「俺の妹なんですよね?」
直人は拳を握る。
「だったら」
「殺す理由がない」
⸻
■零の涙
零は初めて、
悲しそうな顔をした。
『……やっぱり』
「?」
『あなたは優しいね』
「普通だと思いますけど」
『それが私にはなかった』
零の身体から、
黒い光が溢れる。
『だから私は』
『あなたを殺す』
直人が構える。
「……分かりました」
天音が叫ぶ。
「直人!」
「大丈夫です」
直人は零を見る。
「助けますから」
⸻
■兄妹対決
――ドンッ!
零の姿が消える。
直人の目の前に現れる。
拳。
直人が受け止める。
――バァン!
衝撃で空間が割れる。
「強い……」
直人が呟く。
零が笑う。
『当然だよ』
『私はお兄ちゃんより先に完成してるから』
連続攻撃。
直人が防ぐ。
避ける。
反撃する。
しかし――
零はすべて読んでいる。
「……」
直人が距離を取る。
『どうしたの?』
「いや」
「妹って、強いんですね」
『妹だからって甘く見ないで』
「分かりました」
直人が笑う。
「じゃあ本気で行きます」
⸻
■覚醒する零
零の身体から、
白い光が噴き出す。
【完全安定】
【全能力固定】
【存在崩壊率:0%】
直人が目を見開く。
「……」
蓮が呟く。
「零は“完全”なのか」
天城が答える。
「そうだ」
「だから直人には勝てない」
蓮が振り返る。
「なぜ?」
天城は言う。
「完全な存在は――」
直人を見る。
「成長できない」
⸻
■未完成 vs 完全
零が突進する。
直人は避ける。
一度。
二度。
三度。
そして――
直人の動きが変わる。
「……!」
零が驚く。
『さっきより速い』
「そうですか?」
『また適応した……』
直人が拳を振る。
零が防ぐ。
――ドン!
零が吹き飛ぶ。
『……!』
直人が追う。
「さっきの攻撃」
「もう覚えました」
『……』
「だから」
拳を握る。
「次は効かないです」
⸻
■零の本音
零が立ち上がる。
口元から血。
『……ずるい』
「え?」
『私はずっと』
『完璧になるために頑張った』
『失敗しないように』
『壊れないように』
『変わらないように』
涙が落ちる。
『でも』
『あなたは――』
零が笑う。
『失敗するたびに強くなった』
直人は黙る。
『ずるいよ、お兄ちゃん』
⸻
■最後の一文
零が、
ゆっくりと両手を広げる。
『だから――』
世界が白く染まる。
『今度は私も』
『失敗してみる』
零の身体に、
初めて亀裂が入った。
直人が目を見開く。
「零……?」
零は笑う。
『お兄ちゃん』
『私を――』
白い光が爆発する。
『ちゃんと“妹”にして』




