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レベル1のおっさん、ダンジョン配信を始めたら世界最強だった  作者: tama


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23/61

もう一人の直人――最強の敵は自分自身

 ――静寂。


 直人の目の前に、


 一人の男が立っていた。


 顔。


 髪。


 体格。


 声。


 すべてが同じ。


「……俺?」


 もう一人の直人が答える。


「そう」


 直人は首をかしげる。


「なんか変な感じですね」


「俺も同じことを思っている」


 美月が叫ぶ。


「直人さんが二人!?」


 恒一が剣を構える。


「どっちが本物だ!」


 蓮が答える。


「両方だ」


「何?」


「どちらも“佐伯直人”だ」


⸻


■もう一人の直人


 もう一人の直人は、


 静かに拳を握る。


「俺は、お前の可能性だ」


「可能性?」


「そう」


 その身体から、


 無数の光が溢れる。


【世界改変】


【運命干渉】


【因果干渉】


【概念干渉】


 直人が目を見開く。


「……全部使えるんですか?」


「お前がこれから覚える力も、すべて使える」


「それはずるいですね」


 もう一人の直人が笑う。


「違う」


「俺は――」


 一歩踏み出す。


「お前が“仲間を持たなかった場合”の姿だ」


⸻


■孤独な直人


 映像が浮かぶ。


 そこには別の世界があった。


 一人で戦う直人。


 誰にも頼らない。


 誰も守らない。


 ただ強くなる。


 魔物を倒す。


 ダンジョンを破壊する。


 世界を壊す。


 そして――


 誰もいなくなった。


「……」


 直人は映像を見る。


「寂しいですね」


 もう一人の直人が答える。


「寂しくない」


「嘘です」


「……」


「顔が寂しそうです」


 もう一人の直人は黙った。


⸻


■戦闘開始


「なら」


 もう一人の直人が構える。


「確かめよう」


「何を?」


「お前が俺より強い理由を」


 ――ドン!


 二人の姿が消える。


 拳と拳がぶつかる。


 ――バァン!


 空間が吹き飛ぶ。


 美月が叫ぶ。


「速すぎる!」


 恒一も目で追えない。


「見えない……!」


 蓮だけが二人の動きを追っていた。


「同じ能力」


「同じ速度」


「同じ力」


 天音が聞く。


「じゃあ……どうなるの?」


 蓮は答える。


「能力では決着がつかない」


⸻


■同じ力


 直人が拳を振るう。


 もう一人の直人も同じ拳を振るう。


 ――ドン!


 二人とも吹き飛ぶ。


 同時に立ち上がる。


「……痛いですね」


「当然だ」


「俺も痛いです」


「当たり前だ」


 二人が同時に笑う。


 そして。


「「もう一回」」


 同時に走り出す。


⸻


■世界改変


 直人が手を広げる。


【世界改変】


 大地が変化する。


 もう一人も同じ能力を使う。


【世界改変】


 世界が元に戻る。


「……」


「……」


 互いに同じことをする。


 攻撃。


 防御。


 再構築。


 運命改変。


 因果改変。


 すべてが同時に打ち消される。


「終わらない……」


 美月が呟く。


 蓮が答える。


「当然だ」


「二人とも同じ存在だからな」


⸻


■もう一人の直人の問い


 戦いながら、


 もう一人の直人が言う。


「お前はなぜ戦う?」


「みんなを守るためです」


「なぜ?」


「仲間だから」


「なぜ仲間が必要なんだ?」


「……」


 直人が黙る。


「俺は一人でも生きられる」


「俺も」


「世界を壊せる」


「俺も」


「誰にも負けない」


「俺も」


 もう一人の直人が拳を握る。


「だったら――」


 拳が直人の腹に入る。


 ――ドン!


「何のために仲間がいる?」


 直人が吹き飛ぶ。


⸻


■直人の答え


 直人は立ち上がる。


 口元から血が流れる。


「……」


「答えろ」


 直人は笑う。


「一人だと」


「つまらないからです」


 もう一人の直人が止まる。


「……何?」


「一人で強くなっても」


 直人は拳を握る。


「誰かと笑えないなら」


「意味がないじゃないですか」


 天音が目を見開く。


 美月が涙を浮かべる。


 恒一が笑う。


 蓮は静かに目を閉じた。


⸻


■もう一人の直人が怒る


「……くだらない」


 もう一人の直人の身体から、


 凄まじい力が噴き出す。


【限界解除】


【完全適応】


【全能力最大出力】


 世界が震える。


「そんなものは弱さだ!」


 直人に向かって突進する。


「仲間など必要ない!」


 直人は動かない。


「一人でいい!」


 拳が迫る。


「一人で全部できる!」


 直人は――


 拳を構える。


「でも」


 ――ドン!


 二人の拳がぶつかる。


「一人じゃ」


 直人が押し返す。


「俺は俺になれない」


⸻


■仲間の力


 その瞬間。


 直人の背後に、


 四人の姿が現れる。


 美月。


 恒一。


 蓮。


 天音。


 それぞれの力が、


 直人に重なる。


【仲間との因果】


【共有記憶】


【共有経験】


【存在リンク】


 直人の力が、


 一気に跳ね上がる。


 もう一人の直人が驚く。


「何だ……それは?」


 直人が答える。


「俺一人の力じゃないです」


「みんなと一緒に戦ってきた力です」


⸻


■決着


 直人が拳を引く。


 もう一人の直人も拳を構える。


「これで終わりだ」


「はい」


 二人が同時に踏み込む。


 ――ドォォォン!


 世界そのものが揺れる。


 もう一人の直人の拳が、


 直人の胸を貫く。


「……!」


 しかし。


 直人の拳も、


 もう一人の胸を貫いていた。


 静寂。


 もう一人の直人が笑う。


「……やっぱり」


「同じだな」


 直人も笑う。


「はい」


「なら――」


 もう一人の直人の身体が、


 光になって崩れていく。


「お前に任せる」


 直人が聞く。


「何を?」


「俺が選ばなかった未来を」


 そして。


「俺の分まで――」


「仲間と笑え」


 消えた。


⸻


■第六試験終了


【第六試験】


【終了】


【判定】


【合格】


 世界が静かになる。


 直人は拳を見る。


「……」


 天音が近づく。


「直人」


「はい」


「勝ったの?」


「たぶん」


「どうして泣いてるの?」


「……」


 直人は自分の頬に触れる。


 本当に涙が流れていた。


「分かりません」


⸻


■残されたもの


 そのとき。


 直人の手の中に、


 一つの小さな光が現れる。


「これ……」


 天城が言う。


「もう一人のお前の残したものだ」


「何ですか?」


「記憶だ」


 直人が光に触れる。


 一瞬。


 もう一人の直人が見てきた、


 無数の世界が流れ込む。


 その中には――


 まだ見たことのない世界。


 そして。


 巨大な黒い塔。


 塔の頂上に、


 一人の少女が立っている。


「……この子は?」


 天城の顔色が変わる。


「それは――」


 しかし。


 そこで言葉が途切れる。


⸻


■新たな真実


 少女がこちらを見る。


 そして。


 直人と同じ顔で笑った。


「……え?」


 天音が息を呑む。


「直人?」


 直人も動けない。


 少女の声が、


 世界中に響く。


『お兄ちゃん』


 直人の目が見開かれる。


『やっと会えるね』


 天城が叫ぶ。


「全員、下がれ!」


 空が黒く染まる。


『私は――』


 少女が笑う。


『佐伯直人の“最初の失敗作”』


⸻


■最後の一文


 世界の外側。


 黒い塔の頂上で。


 少女は、


 ゆっくりと目を開いた。


『第七試験を開始します』


 そして。


『今度は――』


『私を殺して』

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