もう一人の直人――最強の敵は自分自身
――静寂。
直人の目の前に、
一人の男が立っていた。
顔。
髪。
体格。
声。
すべてが同じ。
「……俺?」
もう一人の直人が答える。
「そう」
直人は首をかしげる。
「なんか変な感じですね」
「俺も同じことを思っている」
美月が叫ぶ。
「直人さんが二人!?」
恒一が剣を構える。
「どっちが本物だ!」
蓮が答える。
「両方だ」
「何?」
「どちらも“佐伯直人”だ」
⸻
■もう一人の直人
もう一人の直人は、
静かに拳を握る。
「俺は、お前の可能性だ」
「可能性?」
「そう」
その身体から、
無数の光が溢れる。
【世界改変】
【運命干渉】
【因果干渉】
【概念干渉】
直人が目を見開く。
「……全部使えるんですか?」
「お前がこれから覚える力も、すべて使える」
「それはずるいですね」
もう一人の直人が笑う。
「違う」
「俺は――」
一歩踏み出す。
「お前が“仲間を持たなかった場合”の姿だ」
⸻
■孤独な直人
映像が浮かぶ。
そこには別の世界があった。
一人で戦う直人。
誰にも頼らない。
誰も守らない。
ただ強くなる。
魔物を倒す。
ダンジョンを破壊する。
世界を壊す。
そして――
誰もいなくなった。
「……」
直人は映像を見る。
「寂しいですね」
もう一人の直人が答える。
「寂しくない」
「嘘です」
「……」
「顔が寂しそうです」
もう一人の直人は黙った。
⸻
■戦闘開始
「なら」
もう一人の直人が構える。
「確かめよう」
「何を?」
「お前が俺より強い理由を」
――ドン!
二人の姿が消える。
拳と拳がぶつかる。
――バァン!
空間が吹き飛ぶ。
美月が叫ぶ。
「速すぎる!」
恒一も目で追えない。
「見えない……!」
蓮だけが二人の動きを追っていた。
「同じ能力」
「同じ速度」
「同じ力」
天音が聞く。
「じゃあ……どうなるの?」
蓮は答える。
「能力では決着がつかない」
⸻
■同じ力
直人が拳を振るう。
もう一人の直人も同じ拳を振るう。
――ドン!
二人とも吹き飛ぶ。
同時に立ち上がる。
「……痛いですね」
「当然だ」
「俺も痛いです」
「当たり前だ」
二人が同時に笑う。
そして。
「「もう一回」」
同時に走り出す。
⸻
■世界改変
直人が手を広げる。
【世界改変】
大地が変化する。
もう一人も同じ能力を使う。
【世界改変】
世界が元に戻る。
「……」
「……」
互いに同じことをする。
攻撃。
防御。
再構築。
運命改変。
因果改変。
すべてが同時に打ち消される。
「終わらない……」
美月が呟く。
蓮が答える。
「当然だ」
「二人とも同じ存在だからな」
⸻
■もう一人の直人の問い
戦いながら、
もう一人の直人が言う。
「お前はなぜ戦う?」
「みんなを守るためです」
「なぜ?」
「仲間だから」
「なぜ仲間が必要なんだ?」
「……」
直人が黙る。
「俺は一人でも生きられる」
「俺も」
「世界を壊せる」
「俺も」
「誰にも負けない」
「俺も」
もう一人の直人が拳を握る。
「だったら――」
拳が直人の腹に入る。
――ドン!
「何のために仲間がいる?」
直人が吹き飛ぶ。
⸻
■直人の答え
直人は立ち上がる。
口元から血が流れる。
「……」
「答えろ」
直人は笑う。
「一人だと」
「つまらないからです」
もう一人の直人が止まる。
「……何?」
「一人で強くなっても」
直人は拳を握る。
「誰かと笑えないなら」
「意味がないじゃないですか」
天音が目を見開く。
美月が涙を浮かべる。
恒一が笑う。
蓮は静かに目を閉じた。
⸻
■もう一人の直人が怒る
「……くだらない」
もう一人の直人の身体から、
凄まじい力が噴き出す。
【限界解除】
【完全適応】
【全能力最大出力】
世界が震える。
「そんなものは弱さだ!」
直人に向かって突進する。
「仲間など必要ない!」
直人は動かない。
「一人でいい!」
拳が迫る。
「一人で全部できる!」
直人は――
拳を構える。
「でも」
――ドン!
二人の拳がぶつかる。
「一人じゃ」
直人が押し返す。
「俺は俺になれない」
⸻
■仲間の力
その瞬間。
直人の背後に、
四人の姿が現れる。
美月。
恒一。
蓮。
天音。
それぞれの力が、
直人に重なる。
【仲間との因果】
【共有記憶】
【共有経験】
【存在リンク】
直人の力が、
一気に跳ね上がる。
もう一人の直人が驚く。
「何だ……それは?」
直人が答える。
「俺一人の力じゃないです」
「みんなと一緒に戦ってきた力です」
⸻
■決着
直人が拳を引く。
もう一人の直人も拳を構える。
「これで終わりだ」
「はい」
二人が同時に踏み込む。
――ドォォォン!
世界そのものが揺れる。
もう一人の直人の拳が、
直人の胸を貫く。
「……!」
しかし。
直人の拳も、
もう一人の胸を貫いていた。
静寂。
もう一人の直人が笑う。
「……やっぱり」
「同じだな」
直人も笑う。
「はい」
「なら――」
もう一人の直人の身体が、
光になって崩れていく。
「お前に任せる」
直人が聞く。
「何を?」
「俺が選ばなかった未来を」
そして。
「俺の分まで――」
「仲間と笑え」
消えた。
⸻
■第六試験終了
【第六試験】
【終了】
【判定】
【合格】
世界が静かになる。
直人は拳を見る。
「……」
天音が近づく。
「直人」
「はい」
「勝ったの?」
「たぶん」
「どうして泣いてるの?」
「……」
直人は自分の頬に触れる。
本当に涙が流れていた。
「分かりません」
⸻
■残されたもの
そのとき。
直人の手の中に、
一つの小さな光が現れる。
「これ……」
天城が言う。
「もう一人のお前の残したものだ」
「何ですか?」
「記憶だ」
直人が光に触れる。
一瞬。
もう一人の直人が見てきた、
無数の世界が流れ込む。
その中には――
まだ見たことのない世界。
そして。
巨大な黒い塔。
塔の頂上に、
一人の少女が立っている。
「……この子は?」
天城の顔色が変わる。
「それは――」
しかし。
そこで言葉が途切れる。
⸻
■新たな真実
少女がこちらを見る。
そして。
直人と同じ顔で笑った。
「……え?」
天音が息を呑む。
「直人?」
直人も動けない。
少女の声が、
世界中に響く。
『お兄ちゃん』
直人の目が見開かれる。
『やっと会えるね』
天城が叫ぶ。
「全員、下がれ!」
空が黒く染まる。
『私は――』
少女が笑う。
『佐伯直人の“最初の失敗作”』
⸻
■最後の一文
世界の外側。
黒い塔の頂上で。
少女は、
ゆっくりと目を開いた。
『第七試験を開始します』
そして。
『今度は――』
『私を殺して』




