直人の過去――すべての始まり
――映像。
そこに映っていたのは、
幼い直人だった。
まだ小さな子供。
そして。
その隣には、
一人の少女が立っている。
白い服。
長い髪。
顔は見えない。
「……誰です?」
直人が呟く。
少女は、
幼い直人の手を握っている。
そして――
笑っていた。
⸻
■記憶ではない
天音が映像を見る。
「これ……」
美月も息を呑む。
「直人さんの過去?」
蓮は首を横に振る。
「違う」
「え?」
「これは記憶じゃない」
蓮は空を睨む。
「記録だ」
天城零が頷く。
「その通り」
直人が振り返る。
「どういう意味です?」
「お前自身が知らない過去だ」
「……」
「つまり――」
天城が言う。
「お前が生まれる前から存在していた記録だ」
⸻
■幼い直人
映像が進む。
幼い直人が、
森の中を走っている。
「待ってよ!」
少女が後ろから追いかける。
「直人、危ないよ」
「大丈夫!」
幼い直人が笑う。
その笑顔は――
今の直人と同じだった。
「……」
天音が小さく呟く。
「昔から変わらないんだ」
美月が笑う。
「本当ですね」
恒一も頷く。
「馬鹿みたいに真っ直ぐだ」
直人が苦笑する。
「褒めてます?」
「褒めてない」
⸻
■少女の名前
映像の中で、
幼い直人が少女に聞く。
「ねえ」
「なに?」
「君の名前は?」
少女が笑う。
「まだ教えられない」
「なんで?」
「いつか会うから」
「誰と?」
少女は直人の胸に手を当てる。
「未来のあなたと」
映像が止まる。
「……」
直人は黙る。
「未来の俺?」
天城が答える。
「そうだ」
「この少女は誰なんです?」
天城は言わない。
代わりに――
映像の少女がこちらを振り向いた。
そして。
直人を見る。
「……!」
直人が息を呑む。
少女の顔が、
初めて見える。
⸻
■少女の正体
「……天音?」
直人の声が震える。
そこに映っていたのは――
幼い天音だった。
「え……?」
天音自身が驚く。
「私……?」
美月も混乱する。
「どういうこと?」
恒一が天城を見る。
「説明しろ!」
天城は静かに言う。
「当然だ」
「彼女は――」
天城が天音を見る。
「お前と同じ世界の出身ではない」
天音が凍る。
「……え?」
⸻
■別の世界
天城が続ける。
「天音は、この世界に生まれた人間ではない」
「そんな……」
「正確には」
天城が空を指す。
「別世界から送られた“観測者”だ」
天音は何も言えない。
「私が……観測者?」
「そう」
「何を観測するの?」
天城は直人を見る。
「佐伯直人」
⸻
■最初の試験
直人が目を見開く。
「俺を?」
「お前が生まれる前から」
天城は言う。
「世界管理局は、お前を観測していた」
「なぜ?」
「異常だったからだ」
空に文字が浮かぶ。
【対象:佐伯直人】
【誕生時点】
【適応率:異常】
【存在安定度:測定不能】
【成長限界:存在せず】
美月が息を呑む。
「生まれた時から……?」
「そう」
天城が答える。
「お前には最初から、“限界”がなかった」
⸻
■無限適応の秘密
直人は自分の手を見る。
「じゃあ」
「俺の力って――」
天城が答える。
「能力ではない」
「……え?」
「お前の本質だ」
空に文字が浮かぶ。
【無限適応】
【外部情報を吸収】
【環境に適応】
【能力を獲得】
【概念を理解】
【概念を超越】
直人が黙る。
天城は続ける。
「普通の人間は、世界に合わせて生きる」
「だが、お前は違う」
「世界のほうが、お前に合わせて変わる」
⸻
■天音の役割
天音が震える。
「じゃあ私は……」
「お前は監視役だった」
天城が言う。
「直人の成長を観測するために、この世界へ送られた」
「……」
「そして」
天城が続ける。
「お前は観測者として、直人の最も近くにいた」
天音が直人を見る。
「私……」
「はい」
「最初から……あなたを見てたんだ」
直人は少し考える。
「そうだったんですね」
「怒らないの?」
「何でですか?」
「騙してたんだよ」
直人は笑う。
「でも」
「今、一緒にいるじゃないですか」
天音の目から涙が落ちる。
⸻
■観測者の失敗
天城の表情が変わる。
「しかし」
「観測は失敗した」
直人が聞く。
「どうして?」
「観測者が対象に感情を持ったからだ」
天音が俯く。
「……」
「本来、観測者は対象と接触してはいけない」
「だが」
天城が天音を見る。
「お前は直人を守るようになった」
直人が言う。
「それって――」
「規則違反だ」
⸻
■消された記憶
天城が手を上げる。
映像が変わる。
幼い天音が泣いている。
幼い直人が、
その手を握っている。
「大丈夫」
「俺がいるから」
天音が目を見開く。
「……」
映像の中で、
何かが起こる。
白い光。
そして――
天音の記憶が、
消されていく。
「嫌……!」
天音が頭を抱える。
「私……」
「この記憶を……」
天城が言う。
「消した」
⸻
■直人の約束
映像の最後。
幼い直人が、
泣いている天音に言う。
「また会おうね」
「……うん」
「絶対だよ」
「絶対?」
「うん」
幼い直人は笑う。
「俺、忘れないから」
映像が消える。
天音は涙を流している。
「……覚えてなかった」
直人が言う。
「俺もです」
「でも……」
直人は天音を見る。
「約束は覚えてたのかもしれませんね」
⸻
■第五試験の本当の意味
天城が静かに言う。
「だから第五試験を行う」
直人が振り返る。
「何を?」
「お前に選ばせる」
空に文字が浮かぶ。
【第五試験】
【対象:佐伯直人】
【最重要選択】
【観測者・天音】
【世界】
直人が見る。
「……」
天城が言う。
「天音を選べば、世界が崩壊する」
「世界を選べば、天音は消える」
美月が叫ぶ。
「そんなの卑怯です!」
恒一も怒る。
「直人に選ばせるな!」
蓮が剣を構える。
「天城……」
「何だ?」
「お前たちは何を恐れている?」
天城は黙る。
そして。
「直人だ」
⸻
■恐怖
天城が初めて、
感情を見せる。
「世界を壊す存在なら、まだ対処できる」
「だが――」
直人を見る。
「世界よりも大切なものを選べる存在は」
「管理できない」
直人が聞く。
「それが怖い?」
「そうだ」
天城は答える。
「だからお前を試す」
⸻
■直人の答え
直人は、
天音を見る。
天音は首を横に振る。
「直人」
「はい」
「私を選ばないで」
「……」
「世界を選んで」
直人は黙っている。
「私一人が消えれば」
「みんなが助かる」
「だから――」
直人が天音の手を握る。
「嫌です」
「直人……」
「俺は」
直人は笑う。
「天音も」
「みんなも」
「世界も」
「全部選びます」
天城が目を見開く。
「……不可能だ」
直人は拳を握る。
「だったら」
世界が震える。
「可能にします」
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■新たな力
【概念干渉】
【運命干渉】
【世界改変】
さらに――
【因果干渉】
新しい文字が浮かぶ。
【獲得】
蓮が驚く。
「因果まで……」
直人は拳を見る。
「これで」
天音を見る。
「全部助けられますか?」
天城は答えない。
ただ。
初めて後退した。
⸻
■最後の一文
世界の外側。
さらにその奥。
誰も存在を知らない場所で――
一つの目が開く。
『……因果干渉まで到達したか』
別の声が響く。
『予測値を超えています』
『ならば』
巨大な存在が立ち上がる。
『最後の試験を開始する』
そして。
【第六試験】
【対象:佐伯直人】
【試験内容――】
【“自分自身”を倒せ】
直人の目の前に、
もう一人の「佐伯直人」が現れた。




