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レベル1のおっさん、ダンジョン配信を始めたら世界最強だった  作者: tama


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20/61

直人がいない世界  消された記憶

――朝。


 窓から柔らかな光が差し込んでいる。


 美月は目を覚ました。


「……ん」


 いつもと変わらない朝。


 学校。


 街。


 人々。


 何も変わっていない。


「……」


 美月は時計を見る。


「今日も遅刻しそう……」


 ベッドから起き上がる。


 しかし。


 なぜか胸が苦しい。


「……何だろう」


 理由が分からない。


 ただ――


 誰かを忘れている。


 そんな気がした。


⸻


■存在しない少年


 教室。


 美月は席につく。


 隣の席では友人たちが話している。


「昨日のダンジョン配信見た?」


「見た見た」


「すごかったよね」


 美月も会話に入る。


 しかし。


 頭の片隅に、


 奇妙な違和感がある。


「……ねえ」


「何?」


「このクラスって」


「うん?」


「あと一人、いなかった?」


 友人が首をかしげる。


「誰?」


「……」


 美月は答えられない。


 名前が出てこない。


 顔も思い出せない。


 なのに。


 確かに――


 誰かがいた。


⸻


■恒一


 同じ頃。


 恒一はダンジョンの入口に立っていた。


 剣を握る。


「……」


 妙な感覚がある。


 何かを忘れている。


 誰かと一緒に戦っていた。


 何度も。


 何度も。


 しかし。


「……誰だった?」


 記憶を探す。


 出てこない。


 それでも。


 剣を握る手だけが、


 なぜか覚えている。


「俺は……」


 誰かを守るために、


 この剣を持っていた。


 その誰かが、


 思い出せない。


⸻


■蓮


 蓮だけは違った。


 彼は一人、


 街の屋上に立っていた。


「……」


 空を見る。


 そして呟く。


「佐伯……」


 名前が出た。


「……直人」


 蓮は目を閉じる。


「やっぱり」


 記憶が消されている。


 だが。


 自分の中に、


 わずかな抵抗が残っていた。


「お前は……」


 拳を握る。


「まだいる」


⸻


■天音


 そして。


 天音は――


 一人で歩いていた。


 街を。


 学校を。


 ダンジョンを。


 何度も。


 何度も。


 何かを探していた。


「……」


 足が止まる。


 目の前には、


 誰もいない場所。


 なのに。


 天音はそこを見る。


「……ここ」


 胸が痛い。


「ここで……」


 誰かと話した。


 誰かと笑った。


 誰かと戦った。


 誰かに――


 守られた。


「誰……?」


 涙が落ちる。


「私は……誰を忘れてるの?」


⸻


■残されたもの


 天音がポケットに手を入れる。


 何かが触れた。


「……?」


 取り出す。


 小さな金属片。


 それは――


 直人が以前使っていた、


 古いキーホルダーだった。


「……」


 天音はそれを握る。


 頭の中に、


 一瞬だけ映像が走る。


 笑っている少年。


「大丈夫です」


 声。


「俺がやりますから」


 天音の目が見開かれる。


「……直人」


 その名前が、


 口から出た。


⸻


■世界のエラー


 ――ピッ。


 空に小さな文字が浮かぶ。


【警告】


【記憶復元を確認】


【対象:天音】


【消去処理を再実行】


 天音の頭に激痛が走る。


「……っ!」


 膝をつく。


「嫌……!」


 映像が消えていく。


 直人の顔。


 声。


 笑顔。


 すべてが遠ざかる。


「忘れたくない……!」


 天音は頭を抱える。


「私は……」


「私は――」


 涙を流しながら叫ぶ。


「直人を知ってる!」


⸻


■世界の抵抗


 空が暗くなる。


『記憶異常を確認』


『対象:天音』


『修正を開始』


 天音の前に、


 黒い扉が現れる。


 扉には文字。


【佐伯直人を忘れれば、元の世界へ戻れる】


 天音は扉を見る。


「……」


 その向こうには、


 平和な世界がある。


 誰も傷つかない。


 ダンジョンもない。


 戦いもない。


 直人だけが存在しない。


 天音は首を振る。


「嫌」


『選択してください』


「嫌」


『拒否した場合――』


「知ってる」


 天音は涙を拭く。


「それでも嫌」


⸻


■美月の記憶


 その頃。


 美月は机の中から、


 一枚の写真を見つけた。


「……これ」


 写真には、


 美月。


 恒一。


 天音。


 蓮。


 そして――


 中央に大きな空白がある。


「……誰?」


 美月は写真を見つめる。


 しかし。


 写真の空白部分に、


 指を置いた瞬間。


「……!」


 頭の中に声が響く。


『大丈夫です』


 美月の目から涙が落ちる。


「……何で」


 写真を抱きしめる。


「知らない人なのに……」


 涙が止まらない。


「何で……こんなに会いたいの?」


⸻


■恒一の剣


 恒一にも異変が起きる。


 彼の剣が、


 突然震え始めた。


「……何だ?」


 剣に文字が浮かぶ。


【記憶残存】


【契約者:佐伯直人】


 恒一が目を見開く。


「……佐伯?」


 その名前を口にした瞬間。


 すべての記憶が、


 一瞬だけ戻った。


 直人と出会った日。


 戦った日。


 笑った日。


 そして――


 世界を殴った瞬間。


「……そうだ」


 恒一は笑う。


「俺たちは……」


 剣を握る。


「一緒に戦ってたんだ」


⸻


■四人の記憶


 蓮。


 天音。


 美月。


 恒一。


 それぞれの中で、


 少しずつ記憶が戻り始める。


 そして。


 四人の視界に、


 同じ文字が浮かぶ。


【佐伯直人】


【存在:削除済み】


【記憶:削除済み】


【復元可能性:0%】


 しかし。


 その下に――


【例外】


 という文字が表示された。


⸻


■直人


 世界の外側。


 そこには、


 一人の少年が立っていた。


「……」


 直人。


 しかし。


 そこには世界がない。


 空も。


 大地も。


 時間もない。


 完全な暗闇。


「……ここ、どこですかね」


 返事はない。


 直人は歩く。


 何もない場所を。


 しばらく歩くと、


 一つの扉が見えた。


 扉には文字。


【存在しない者】


 直人は首をかしげる。


「俺のことですか?」


 扉が開く。


 その先には――


 無数の世界があった。


 そして。


 それぞれの世界に、


 “直人”がいる。


「……俺?」


 しかし。


 どの直人も、


 少しずつ違う。


 強い直人。


 弱い直人。


 戦わない直人。


 世界を支配する直人。


 そして――


 何も知らずに普通に生きている直人。


「……」


 直人は呟く。


「俺って、こんなにいるんですね」


⸻


■声


 背後から声がする。


『違う』


 直人が振り返る。


「誰です?」


『お前たちは、すべて同じ存在だ』


「どういう意味です?」


『世界が違うだけだ』


「……」


『そして』


 暗闇から、


 一人の少女が現れる。


 顔は見えない。


 ただ。


 声だけが――


 どこか天音に似ていた。


『お前は、そのすべてを繋ぐ“中心”だ』


 直人が目を細める。


「中心?」


『そう』


『だから世界は、お前を消せない』


「でも消されたんじゃ?」


『表側からは』


 少女が笑う。


『しかし――』


 直人の足元に、


 巨大な光が広がる。


『世界の裏側には』


『まだ、お前が存在している』


⸻


■覚醒の兆し


 直人の右手に、


 小さな光が灯る。


【存在定義:不完全】


【消去:失敗】


【再構築:開始】


 直人が拳を見る。


「……」


 そして笑った。


「なるほど」


 拳を握る。


「まだ殴れるんですね」


 少女は答えない。


 直人は前を見る。


「じゃあ」


「戻ります」


⸻


■最後の一文


 その瞬間。


 世界中で、


 四人が同時に顔を上げた。


 天音が呟く。


「……直人」


 美月が涙を流す。


「……帰ってきて」


 恒一が剣を握る。


「待ってるぞ」


 蓮が笑う。


「遅いぞ、佐伯」


 そして――


 世界の外側で。


 直人の拳が、


 ゆっくりと光り始めた。


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