天音を救え! 世界が命じた殺害命令
――静寂。
直人と天音は、
互いを見つめていた。
空には、まだあの文字が残っている。
【第三試験】
【対象:佐伯直人】
【追加対象:天音】
【試験内容】
【天音を排除せよ】
美月が叫ぶ。
「そんなの無理です!」
恒一も剣を握る。
「直人にやらせるわけがない!」
蓮は空を睨む。
「……始まったか」
直人が聞く。
「蓮」
「何だ」
「これ、断ったらどうなります?」
蓮は答えない。
代わりに――
【拒否した場合】
【対象:美月】
【排除】
文字が変わった。
「……!」
美月が息を呑む。
さらに。
【対象:恒一】
【排除】
そして――
【対象:黒瀬蓮】
【排除】
全員が凍りつく。
⸻
■世界からの命令
声が響く。
『選択せよ』
『天音を排除するか』
『仲間全員を排除するか』
直人は黙っている。
美月が叫ぶ。
「直人さん! 絶対に従わないで!」
恒一も叫ぶ。
「俺たちのことは気にするな!」
蓮が言う。
「お前が選ぶ必要はない」
直人が振り返る。
「じゃあ、どうするんです?」
蓮は答える。
「戦う」
「誰と?」
蓮は空を指差す。
「この世界そのものとだ」
⸻
■天音の決意
天音が一歩前に出る。
「待って」
全員が天音を見る。
「私を殺せばいい」
「天音!」
美月が叫ぶ。
天音は笑う。
「そうすれば、みんな助かるんでしょ?」
直人は首を横に振る。
「嫌です」
「直人」
「嫌です」
「でも――」
「嫌です」
直人は天音の目を見る。
「三回言いました」
「……」
「だから、もう決定です」
天音の目に涙が浮かぶ。
「本当に……馬鹿だね」
「よく言われます」
⸻
■試験開始
【試験開始】
――ゴゴゴゴゴ……。
大地が揺れる。
空が黒く染まる。
遠くから巨大な存在が現れる。
それは魔物ではなかった。
人間でもない。
巨大な鎧を着た、
“処刑人”。
その手には一本の黒い剣。
剣先が――
天音を指している。
『対象:天音』
『排除を開始』
処刑人が動く。
「天音!」
直人が飛び出す。
――ガキィン!
黒い剣を拳で受け止める。
地面が陥没する。
「……重いですね」
処刑人が剣を振り抜く。
直人が吹き飛ぶ。
「直人!」
美月が叫ぶ。
直人は空中で体勢を立て直す。
「大丈夫です!」
着地。
拳を握る。
「今度はこっちの番ですね」
⸻
■世界の軍勢
しかし。
処刑人の後ろから、
さらに無数の敵が現れる。
「多すぎる……!」
恒一が叫ぶ。
蓮が前に出る。
「俺が止める」
黒い力が広がる。
――ドォン!
敵の軍勢が吹き飛ぶ。
「美月!」
「はい!」
「結界を!」
「分かりました!」
美月が魔法を展開する。
恒一が剣を振るう。
そして直人は、
一人で処刑人と向き合っていた。
⸻
■処刑人の正体
処刑人が口を開く。
『抵抗を確認』
『対象を変更』
直人の表情が変わる。
「……対象変更?」
『佐伯直人を排除する』
処刑人の剣が、
直人に向く。
「最初から俺が目的だったんですか?」
『否』
『お前が天音を守ることを予測していた』
「……」
『お前を守るために』
『天音を人質にした』
直人は黙る。
そして――
笑った。
「なるほど」
拳を握る。
「やっぱり」
「性格悪いですね」
⸻
■直人の新しい力
【概念干渉】
【運命干渉】
【世界改変】
直人の周囲に、
三つの力が同時に現れる。
蓮が目を見開く。
「……同時使用だと?」
直人は拳を見る。
「できるみたいです」
「いつ覚えた?」
「さっきです」
「……」
蓮は呆れる。
「お前は本当に――」
直人が処刑人を見る。
「行きます」
――ドン!
直人が消える。
一瞬で距離を詰める。
拳を振るう。
処刑人の剣と衝突。
――バァン!
空間が爆発する。
処刑人の腕が砕ける。
『損傷確認』
『再構築』
砕けた腕が戻る。
直人が驚く。
「再生するんですか」
『世界が存在する限り』
『私は再生する』
直人が笑う。
「じゃあ」
拳を構える。
「世界を消せばいいんですね」
蓮が叫ぶ。
「直人! それをやったら世界そのものが――!」
直人は止まらない。
「大丈夫です」
「世界を消すんじゃない」
拳に光が集まる。
「世界のルールを変えます」
⸻
■直人の選択
直人は空を見上げる。
「この世界のルール」
拳を握る。
「“天音を殺せ”」
その文字に向かって、
拳を突き出す。
「それを――」
――ドン。
「“天音を生かせ”に変える」
世界が震える。
【命令変更】
【第三試験条件――無効】
『……』
『あり得ない』
『試験条件そのものを――』
直人は笑う。
「上書きです」
⸻
■世界が悲鳴を上げる
空に亀裂が走る。
大地が震える。
処刑人の身体が崩れていく。
『命令権限を喪失』
『管理権限を喪失』
『対象:天音』
『保護対象へ変更』
天音の身体を覆っていた黒い紋様が、
一つずつ消えていく。
「……消えた」
天音が自分の手を見る。
直人が笑う。
「よかったですね」
「直人……」
天音が近づく。
「ありがとう」
「どういたしまして」
天音は直人の胸に顔を埋める。
直人は少し驚く。
「……天音?」
「少しだけ」
「はい」
「このままでいさせて」
「分かりました」
⸻
■しかし――
蓮だけが、
空を見ていた。
「……まだ終わってない」
直人が振り返る。
「何が?」
空に、
新しい文字が浮かぶ。
【第三試験:失敗】
【世界改変者による条件上書きを確認】
【上位管理層へ報告】
そして。
【第四試験を開始する】
美月が青ざめる。
「第四……?」
恒一が剣を握る。
「また来るのか」
蓮が呟く。
「違う」
「え?」
「次は、敵を送り込むんじゃない」
空が完全に黒くなる。
「世界そのものを変える」
⸻
■第四試験
声が響く。
『第四試験』
『対象:佐伯直人』
『試験内容――』
文字が一つずつ浮かぶ。
【佐伯直人が存在しない世界を構築する】
直人が固まる。
「……俺が?」
『そうだ』
『お前が最初から存在しなかった世界を作る』
美月が叫ぶ。
「そんなことしたら――」
『すべての記憶』
『すべての出会い』
『すべての関係』
『すべてを再構築する』
天音が直人を見る。
「直人……」
直人はしばらく黙る。
そして――
「それは」
ゆっくりと拳を握る。
「俺が一番、嫌なやつですね」
⸻
■最後の一文
世界が、
ゆっくりと書き換わっていく。
美月が直人を見る。
「……直人さん?」
恒一も。
「直人……?」
蓮も。
「おい、直人」
そして――
天音が直人の手を握る。
「忘れないから」
直人は笑う。
「はい」
だが。
次の瞬間。
全員の目から――
直人の姿が消えた。
世界から、
佐伯直人という存在だけが、
消え始めた。




