17 戻れない過去を彷徨う
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神代は話し始めた。
滝波との出会いから、いきなりの別れまで。些細なことでも神代は一つもこぼさず、高嶺に伝えた。
(あぁ.....あったなそんなこと....懐かしいなぁ。)
時々、高嶺が記憶にないことも言うので疑問に思うところもあったが、どうやら滝波は神代の親友のままだったらしい。
「そう.....じゃあ、彼女...急にいなくなっちゃったんだね?」
「.....まぁな。」
神代の顔が曇ると共に、高嶺の顔も暗くなっていく。それに気づいた神代が高嶺に声をかける。
「あっ.....あぁ、ごめんな。おもんなかったかーー。」
「.....けて。」
「えっ?」
「続けて」
「.....あぁ。」
まるで自分のことかのように真剣に聞く高嶺を見て、神代は普段の学校生活での高嶺とのギャップを感じてしまう。学校ではあれほど神代にキツく当たっているくせに、今となっては紳士に聞いてくれる良い友達になっている。
「......正直びっくりしたんだよ。」
「えっ?」
「いつも見てるお前と違って、裏ではお前.....めちゃくちゃ優しいんじゃないかと思ってな....。」
「....。」
「最初は誘うのもやめておこうと思ったんだ。けど....お前に会ったら反射的に誘ってた....。こういうのが見えてたのかもな。」
そこまで言うと、自然と恥ずかしさが込み上げてくる。人間自体、何かしたことの所以を話すことは結構恥ずかしい。ましてや、相手は女子。
「.....ふふっ、神代.....あんた、顔真っ赤だよ。」
「!!.....ちょっ、ちょっと外の空気を吸ってくる!その間お風呂に入っといて!」
「はいはーい。」
神代は高嶺の了承を確認すると、早歩きで外に出ていく。その足取りは不安定でおぼつかず、誰が見てもダサい動きをしている。だが、それでも神代を後ろから見た滝波は小声で呟いた。
「......ありがとう....透...。」
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紅く火照った顔に寒く鋭い夜風が当たる。神代はそんな状況で左右を畑に挟まれながら歩いていた。
(....ったく!自分でも訳分かんないこと言っちまった...。)
神代は自分で自分にイラつきつつも、深呼吸をして落ち着こうとする。
先程まで自分だけが面白い話をずっと話し続けていたため、高嶺には申し訳なく思う。しかも終始相槌を打ってくれたり、質問をして会話を広げようとしてくれていた。それは退屈だろうし、苦痛にすらなる。
(.....そうだ、もう滝波はいないんだ。....本当にいつまで追い求めてるんだよ...俺は...。)
滝波の幻影を追う自身の心を、神代は心の奥底に沈めていく。いまさら考えても意味はないのに気がついたら考えてしまっている。
(.....どこに行っちまったんだよーー。)
「そこの人ー!...すいません、ちょっといいですか?」
「!!」
突如、神代の背後から男の声が聞こえる。慌てて後ろを振り向くと、そこにいたのは背中に長い猟銃のようなものを背負った少し大柄な男が立っていた。
猟銃の迫力に神代は怯むも、なぜ自分に声をかけたのかという謎が勝って男へと声をかける。
「.....えっと...俺に何か用が?」
「あっ.....あぁ、別にこれっていう用はないんだが....こんな夜中に一人でほっつき歩いてるのを心配したんだ。」
その後も話を聞いてみると、どうやら帰宅途中に神代が1人で歩いてるのに心配して声をかけてくれたそうだ。側から見ても優しくて親切な人だと思うが、神代はある一点が引っかかっていた。
(この人....なんか態度がやけによそよそしいな....なんか隠してるのか?)
神代は腕を組んで考えていると、男から声をかけられる。
「ど、どうした...?気分でもすぐれないのか?」
「あっ、いえ、大丈夫です。」
「そうか....身なり的に観光客みたいだし、早めに宿舎に帰った方がいいぞ。」
男はそこまで言うと、後ろを振り向いて歩き始める。その背中には大きな猟銃....それを再度見た瞬間、何かが神代の中で弾けた。
「うわぁ....大きな猟銃ですね!...今日、使ったんですか?」
「ッ!!.....あっ、あぁ、そうだ。今日使ったんだが、収穫がゼロでね....悲しい限りだよ。」
「へぇ....どんな動物を捕まえるんですか?....ヒグマとかですか?」
「おう!ヒグマはたまにやってるぞ。....でも、デカいから持って帰るのは大変だそ。」
「へぇ....そうなんですね...。」
男は神代の質問が終わったのを察すると、今度こそ後ろを振り向いて歩き出す。
「....元気でな、にいちゃん...獣には気をつけるんだぞ。」
最後まで神代に忠告を残して立ち去っていく姿。それは良心の鏡に見え、常人なら『素晴らしい人』と思うのだろう。
そう、常人ならーー。
「....待てよ、『犯罪者』。」
「....そ、それは私に言っているのか?」
唐突な犯罪者呼ばわりに男は反射的に振り返る。そこには夜風を満遍に浴びて、月明かりの下笑っている少年がいた。
「よぉ、犯罪者。」
「....いきなり人に向かって犯罪者か....いったいどんな教育をーー。」
「ははっ、お前こそ勉強してんのかよ?....おい、犯罪者....今、何月だと思う?」
「....5月だ.....なっ!」
ようやく自分の過ちに気づいた男は睨むように神代を見つめる。それに対して神代はただ楽しそうに笑っているばかり。
「えっとな....ただいまの日付は5月30日。....狩猟期間外だぞ?」
男の顔がその言葉によって歪んでいく。神代はさらに追い打ちをかけるために、今度は別視点で話を続ける。
「しかも、ヒグマぁ?....お前の狩猟は相当遠距離なんだな?」
「お、お前...!」
「ヒグマは日本だったら北海道にしかいねぇよ。」
「それを知っててわざと聞いたのかっ...!?」
「しーかーもっ、ここは白川郷だぞ?...世界遺産周辺で発砲が許されるわけねぇだろ。」
神代が全てを言い終わると、両者の間に緊張と静寂が訪れる。今となっては先ほどまで聞こえなかった草木が揺れる音がしっかりと鼓膜に届く。
「さてと....さっき言った言葉を言い換えようか?」
神代はそう言うと、右足を一歩前に出す。
「俺に何のようだ?...犯罪者ぁ!!」
それに応えるように男も言葉を発した。
「....ったく、今さっき気をつけろと言っただろ?」
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