16 見慣れない景色
「どうした高嶺?体調でもすぐれないのか?」
「いえ、少し病院で検診をさせてください。」
「......わ、分かった。じゃあ、今日は欠席な?」
「はい、よろしくお願いします!」
先生との事務的な会話をしたのち、高嶺は顔に張り付けていた笑顔の表情を剥がす。剥がされて露わになった顔は、何かを諦めたような清々しいさを含んでいた。
(......ほ、本当に大丈夫なのか.....な?)
高嶺の頭の中が不安で埋め尽くされる中、ふと何かを思い出して服のポケットに手を突っ込む。ペン、付箋、クシ...ポケットの中には普段から触り慣れている物があった。
だが、その中に1つ....馴染みのない物があるーー。
『北陸新幹線 富山駅』
手に握られているのは新幹線の切符。
高嶺はそれを一瞥すると、学校の廊下を一歩一歩と踏みしめて進んでいく。
その足跡にはしっかりと覚悟の跡があった。
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「....ついたな。」
「う、うん.....。」
神代と高嶺は新幹線やバスを乗り継いで、ある場所まで来ていた。
そこは普段、一面を銀世界で覆われていて観光客が多く訪れる場所。田舎のような街並みだが、裏を返せば趣があってどこか心に刻まれる景色。一瞬で白という色に心を奪われていく...。
だが、
神代たちが来たタイミングは5月の下旬。そんな季節に雪が残っているわけがない。
「ねぇ.....神代。」
「....なんだ?」
「ついさ、勢いで来ちゃったけど.....本当にこんな村で殺し合いが始まるの?」
「....言っただろ、場所だけじゃなく時間も関係あるんだ。」
神代はそう言って高嶺を落ち着かせる。ところが、神代自身もとても緊張している部分はあった。なぜなら、神代が東京駅で行った『薬剤殺争』は神代1人であり、2人以上の殺し合いの状況はまだ分からないからだ。
どうやって戦うか、どんな相手なのか、また連れてきた高嶺をどうするのか....時刻が明日の朝方なので、神代は夜にじっくり考えることを決めた。
「とりあえず、宿泊所探すぞ...。」
「.....分かったわ。」
2人は歩き出す。
1人はついていくように。
1人は目標に突き進むように。
それぞれが違った意味を持つ歩きだが、2つは同じ道を歩いている。
その先がどうなっているかは知らないままーー。
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「わぁ!....きれい!」
高嶺がカバンを玄関にほっぽり投げると、宿舎についている囲炉裏の周りを走り始める。
「おい、危ねぇぞ。....野口秀雄みたいになるぞ。」
「.....なにそれ...?」
神代の意味不明な一言に思わず動きを止めて硬直してしまう高嶺。それに対して神代は自分が何をしたかも分からず、別の意味で硬直していた。
「な、なんで野口秀雄が出てくるの?」
「....知らないのか?...野口秀雄が医者を目指した理由。」
「....?」
「野口秀雄が小さい頃に足を滑らせて、誤って囲炉裏に手を入れてしまったんだ。」
「えっ、ヤバいじゃん....。」
「まぁな....で、火によって指の皮膚が溶けて、囲炉裏から手を抜いた時にそれが冷めて....人差し指と中指が指がくっ付いたんだ。」
「....。」
「まぁ、そこから色々あって....手術によって治ったんだ、その時に助けられたから医者を目指したらしいぞ。」
「へぇ....。」
神代がスラスラと野口秀雄の話をしていたが、それに対して赤嶺は興味がありつつも眠たそうな顔をしていた。
「まぁ、つまり走り回るなよ。」
「最初からそれ言えばいいじゃん。」
神代の言葉を高嶺は軽く要約する。それにぐうの音も出ないのか、神代は自分と高峰の靴をそろえる。
その後、囲炉裏の方へやってくると、床に座って火を見つめる。それに気づき、高嶺はそれに寄り添うようにすぐ横に座る。
「.....ねぇ、神代。」
「.....。」
「.....ごめんね、本当に...。」
高嶺は火をまっすぐ見つめながらも言葉を発する。突然の謝罪の言葉に驚いたのか、神代は火から高峰の瞳へと視線を変える。神代がそこでみたのは、後悔と悲しさで満ちた少女の潤んだ瞳だった。
「あぁ.....別にいい。もう怒ってねぇし。....俺もお前の友を殴ったから何も言えねぇ。」
「けど、最初に始めたのは私だったから.....あんたは何一つ悪くないのよ?」
ゆっくりとそう呟く高嶺の声が、神代への申し訳なさを表している。神代自身もそれをひしひしと感じているのか、心の中で何かが渦巻くような感じがしている。
「.....なあ、高嶺。」
「.....?」
「お前、親友っていたか....?」
高嶺は神代の急な言葉に息が詰まる。なにか、首元を掴まれるような気持ち悪い感じがまとわりつく。
「.....いない。」
そう、それが答えだ。
高嶺麗華には親友はいない。ただウザくて、最強で.....孤高。それをずっと演じてきていた。
ましてや、あの別れでは神代の心には最低女としか残ってーー。
「....俺はいるんだ、1人だけ。」
神代から発せられた言葉に、高嶺が即座に振り向いて反応する。頭の中では自分ではないと分かっていても、心では期待してしまっているんだろうか?
本当につくづく最低な女だ。
「その親友って.....芳泉くん?」
「いいや、あいつは違う。」
「じゃあーー。」
「お前は知らないだろうけど....。」
「本当にいたんだ、俺にも.....一年前まで親友がーー。」
その瞬間、滝波の心が揺れ動いた。
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