第七章 コントラスト
ルミナの家に戻ってから、
二人はしばらく穏やかな日々を過ごした。
けれど──
その静けさは、少しずつ崩れていった。
ルナは何も言わずに外へ出ることが増えた。
三日出かけて、一日だけ帰ってくる。
また三日いなくなり、半日だけ戻る。
そんな生活が続き──
今回は、一週間も帰ってこなかった。
ルミナは窓際に座り、
空をぼんやり眺めながらため息をついた。
「……いつ帰ってくるんだろう」
ぽつりと漏れた声は、
静かな部屋にやけに大きく響いた。
膝を抱えたまま、
これまでの出来事が頭の中をゆっくり巡る。
森で倒れていた自分を、
ルビーたちが助けてくれたこと。
王都での、あの息苦しい日々。
アンは今どうしているのだろう。
ルナと出会い、
一緒に旅をしたこと。
エルフの里での戸惑い。
獣人の村での喪失。
思い出すたびに、
笑ったり、悲しくなったり、
ルミナの表情はころころ変わった。
そのとき──
「……なに、顔をコロコロ変えて遊んでんだよ」
不意に声がして、
ルミナはびくっと振り返った。
「ルナ……!」
そこには、
ケーキの箱と大きな袋を抱えたルナが立っていた。
ルナは袋をルミナに押しつけるように渡し、
そっぽを向いた。
「……これ」
「え、なにこれ?」
ルミナが袋を開けると──
中には服が入っていた。
「これ……どうしたの?」
「……今までの礼だよ」
ルナは目を合わせずに言った。
胸が熱くなり、
ルミナは思わず涙がこぼれそうになった。
服をそっと広げる。
──ドレスだった。
だが、涙は一瞬で引いた。
それはドレスというより、
革の鎧にドレスの布を無理やり縫い付けたような、
とんでもなく不格好な代物だった。
「……え?」
ルミナが固まると、
ルナは慌てて奪い返そうとした。
「気に入らねぇならいいんだよ!返せ!」
「だ、だめっ!」
ルミナは脇に隠し、
ぎゅっと抱きしめた。
「……嬉しい……っ」
ぽろぽろと涙がこぼれた。
ルナは照れ隠しのように咳払いし、
ケーキの箱を開けた。
「……ケーキ食うぞ」
ルミナは涙を拭き、
お茶を淹れて席についた。
二人はケーキを食べながら、
これまでの旅のことを笑い合った。
気づけば──夜中になっていた。
「……そろそろ寝るぞ」
ルナが立ち上がり、
二人はそれぞれの部屋に入った。
ルミナはドレスを嬉しそうに眺め、
くすっと笑った。
「……この不格好なドレス……ルナらしい」
そう呟き、ベッドに潜り込んだ。
−−−
翌朝−−−
珍しく、ルミナはゆっくり目を覚ました。
昨日もらったドレスを着て、
村長にもらったピアスをつける。
鏡の前で鼻歌を歌いながらポーズをとる。
「ルナ、喜んでくれるかな……
でも、なんか鎧みたい……」
くすっと笑い、
ルナを探しに家を出た。
リビングにいない。
部屋の扉を叩いても反応がない。
「入るよー?」
ドアを開けるが、
部屋は空っぽだった。
「……外かな?」
玄関の扉を開けた瞬間──
ルミナは息を呑んだ。
遠くの草原で、
ルナが背中越しに剣を構えていた。
その肩越しに──
魔族が立っていた。
あの、
シンハを殺した魔族。
空気が一瞬で冷えた。
風が止まり、鳥の声が消える。
ルミナの心臓が跳ね上がる。
「なんで……ここに……」
魔族はゆっくりと振り返り、
不気味な笑みを浮かべた。
「ごきげんよう、勇者。
そして──ダークエルフの女」
その声は、
あの日と同じ冷たさだった。
魔族は口角を吊り上げ、
ゆっくりとルミナへ向き直る。




