第七章 コントラスト2
「死になさい」
リフレが指を鳴らした瞬間、
空気が震えた。
無数の衝撃波が、白い軌跡を描いて放たれる。
地面が黒焦げになり、
木々が粉々に砕け散る。
「っ……!」
足元で衝撃波が爆ぜ、
土が大きく抉れた。
耳がキーンと鳴り、
視界が揺れる。
ルミナは悲鳴を上げ、
体勢を崩した。
「おい、集中しろ!」
ルナの声が飛ぶ。
その声に振り向いた瞬間──
「バカ、前を見ろ!!」
はっとして前を向く。
巨大な衝撃波が、
一直線に私へ迫っていた。
――死ぬ。
本能がそう叫んだ。
反射的に目を固く閉じる。
次の瞬間。
バコンッ!!
鈍い衝撃音。
風圧が頬を切り裂き、砂埃が舞う。
恐る恐る目を開けると──
ルナが私の前に立ち、
衝撃波を弾き飛ばしていた。
「……ありがとう」
震える声でそう言うと、
ルナはゆっくりとこちらを振り返った。
その顔は──
いつもと違った。
怒ってもいない。
笑ってもいない。
ただ、
何かを決意したような、
静かな無表情。
胸がざわつく。
「え……?」
ルナの手が、わずかに震えていた。
何かを言いかけて、
唇が動く。
でも、言葉にはならなかった。
その無表情のまま──
ルナの剣が、私の胸を切り裂いた。
「――っ!」
生暖かいものが飛び散り、
視界が赤く染まる。
痛みよりも、
理解できないという感情が先に来た。
なんで。
どうして。
私、何かした?
「……やだ……やだよ……」
声にならない声が喉で震える。
呼吸が苦しい。
胸の奥が冷たくなっていく。
ルナの顔がぼやける。
その目が──
揺れているように見えた。
悲しそうに。
「……なんで……?」
手を伸ばそうとした。
でも、力が入らない。
指先が震え、
空を掴むように宙を彷徨う。
世界の音が遠ざかる。
衝撃波の轟音も、
リフレの笑い声も、
ルナの息遣いも。
全部、薄い膜の向こう側に消えていく。
心臓の鼓動がゆっくりになる。
ドクン……
……ドクン……
…………ドクン。
視界の端が白く滲む。
その瞬間。
光が弾けた。
走馬灯のように、
この世界で起きたすべてが、
最初から頭の中を駆け巡る。
そして私は、
ゆっくりと地面に倒れ込んだ。
---
ルミナは地面に倒れ込み、
薄れゆく意識の中で、遠くで何かが爆ぜる音を聞いた。
「……っ」
爆風が背中を押し、
私は薄く目を開けた。
横目に映ったのは──
燃えている家。
私の家。
私たちの家。
焦げた木の匂いが、
鼻の奥を刺すように入り込んでくる。
パチパチと弾ける音が、
まるで家が泣いているように響いた。
熱風が頬を刺し、巻き上がった砂埃と黒い煙が視界を奪っていく。
涙が乾く前にまた溢れた。
「……やだ……やだよ……
私たちの……思い出なのに……」
弱々しい声が漏れた。
そのとき。
ルナが、
私に向けて剣を構えた。
ゆっくりと、
迷いなく、
振り下ろすために。
時間がゆっくり流れた。
胸の奥がぎゅっと縮む。
怖い。
怖いに決まってる。
死ぬのは嫌だ。
痛いのも嫌だ。
まだやりたいことも、言いたいことも、たくさんある。
でも──
燃える家の赤い光に照らされたルナの横顔を見た瞬間、
胸の奥の恐怖が、すっと薄れていった。
ああ……そっか。
怖い……
でも……
ルナなら、いいや……
そう思った。
寂しそうに微笑んだ。
その微笑みは、
涙がこぼれる直前の、
壊れそうなほど弱い笑みだった。




