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月と二人の勇者  作者: あると


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第六章 獣人の村10


翌朝。


村長の家の扉を開けた瞬間、

冷たい朝の空気が二人の頬を撫でていった。


ルナはゆっくりと外へ出た。

だが、その背中にはいつもの覇気がない。

わずかに落ちた肩、焦点の合わない瞳。

その奥には、言葉にできない影が沈んでいた。


「……そろそろ行くか」


かすれた声だった。

まるで心の一部が、まだ昨日のまま時を止めているように。


ルミナの胸がちくりと痛む。

ルナの疲れは、身体だけじゃない。

心の底に沈んだ“重さ”が、声の端々に滲んでいた。


「ルナ……もう少し休んでもいいんだよ?」


「いや、いい」


短い返事。

その視線はどこか遠く、

まるでまだシンハの最期を見つめているかのようだった。


そこへ村長が現れ、深く頭を下げる。


「本当に……ありがとうございました。

あなたたちのおかげで、村は救われました」


震える声。

昨夜泣き腫らした跡が、まだ目元に残っている。


「また……いつでも訪ねてきてください」


その言葉には、感謝と同じくらいの“寂しさ”が混じっていた。


ルミナが尋ねる。


「村長……シロは?」


村長は静かに首を横に振った。


「……まだ部屋から出てこない。

今は、そっとしてやってほしい」


胸が締めつけられる。

ルミナは深く頭を下げ、ルナと共に村の入口へ向かった。


そのとき──


「すきありーーー!!」


頭上から声が落ちてきた。

影が降り、ルナの肩に爪が深く食い込む。


シロだった。


「なんで……避けねぇんだよ!」


荒い息で叫ぶシロ。

その声には怒りよりも、悲しみが混ざっていた。


ルナはゆっくりと目線を合わせ、

シロの頭を軽くこつんと叩く。


「……約束だったろ。

一撃入れたら、連れてくって」


優しい声だった。

昨日の傷を隠すような、静かな優しさ。


そして手を差し出す。


「来るか?」


シロはその手を払いのけた。


「ふざけんな!!

お情けで勝っても意味ねぇだろ!!」


声が震えている。


「……もうそんなこと、どうでもいい。

俺は……兄貴より強くなって……

この村を守るんだ……!」


言い終わる前に、

シロの目から涙が溢れた。


ぽたり。

ぽたり。


止まらない。

押し込めていたものが、堰を切ったように流れ落ちる。


「なんで……なんでこんなに……!」


子どものように震える声。


ルナはそっとシロの頭を抱き寄せ、胸に沈めた。


「泣け。

今だけは……泣いていい」


その一言で、

シロの心の堤防は完全に崩れた。


大泣きした。

声を上げ、昨日から押し込めていた感情を全部吐き出すように。


……どれほど時間が経っただろう。


やがてシロはルナの胸を押し返し、

涙でぐしゃぐしゃの顔で言った。


「……次に来た時は……

強くなって……

けちょんけちょんにしてやるからな!」


ニカッと笑い、拳を突き出す。


ルナも笑った。


「楽しみにしてる」


拳を合わせた瞬間、

風がそっと吹き抜けた。


その後ろに──

シンハが微笑んでいるような気がした。


シロはルミナにも拳を突き出す。


「お前には負けないからな」


ルミナは驚きつつも、

一瞬ルナを見てからいたずらっぽく笑った。


「私も負けないわよ」


拳を合わせると、

二人は同時にルナを見て笑う。


「……気持ちわりーなー、お前ら」


ルナは顔をしかめ、そっぽを向いた。


「早く行くぞ、ルミナ」


歩き出す背中に、ルミナが声をかける。


「ねえ、次はどこに行くの?」


ルナは振り返らずに答えた。


「……俺たちの家だ」


「……私の家でしょ」


小さく呟くルミナ。

ルナは完全に無視して歩く速度を上げる。


「ちょ、ちょっと待ってよ、ルナ!」


ルミナは村に深くお辞儀をし、

慌ててその背中を追いかけた。


二人の背中を、

獣人の村の静かな風が見送っていた。


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