第六章 獣人の村9
……。
ルミナがゆっくりと目を開けると、
見覚えのない木の天井が視界いっぱいに広がっていた。
(……ここ……どこ……?)
柔らかい布の感触。
身体を包む温もり。
「ベッド……?」
そう思った瞬間、
記憶が一気に押し寄せた。
崖。
激流。
ルナの叫び。
伸ばした手。
届かなかった指先。
「ルナーーーー!!」
反射的に叫んだ。
「なんだよ、うるせぇな」
聞き慣れた声が横から返ってきた。
ルミナが振り向くと、
びしょ濡れのルナがタオルで頭をガシガシ拭いていた。
「……ルナ……?」
「おう」
その瞬間、
胸の奥がじんわり熱くなり、
涙がこぼれそうになった。
「よかった……ほんとに……」
だが、よく見るとルナの身体は傷だらけだった。
服は破れ、腕には深い切り傷。
その痛々しい姿に、ルミナの心臓がきゅっと縮む。
「ね、ねえ……あの後……どうなったの……?」
ルミナは慌てて尋ねた。
ルナはタオルを止め、
少しだけ目を逸らして笑った。
「……あいつ、強すぎるよな。
俺も限界で……逃げてきた。
あいつも傷だらけだったから、追ってこなかっただけだ」
その笑顔は、どこかぎこちなかった。
胸がちくりと痛む。
ルミナが口を開きかけたそのとき──
「おや、起きていたのか」
村長が薬の入った盆を持って部屋に入ってきた。
「魔族を追い返してくれて、本当にありがとう」
ルミナは思わず目を伏せた。
「……シンハさんのこと……ごめんなさい……」
村長は少し寂しそうに笑った。
「いいんだ。
あいつは……村を守れて、きっと喜んでいるよ」
その声は震えていた。
村長は古い木箱を取り出し、
そっとルナの前に置いた。
「これは……あなたが持っていたほうがいい」
箱を開けると、
村長の家の像がつけていた“耳飾り”が入っていた。
古い銀色のピアス。
どこか神聖で、どこか禍々しい光を放っている。
ルナがそれを見た瞬間──
瞳の色が、わずかに揺れた。
「ルナ……?」
ルミナが呼ぶと、
ルナはすぐに目を逸らし、村長へ向き直った。
「……シロは?」
村長は重く息をついた。
「あいつは……部屋に引きこもっている。
今は……一人にしてやってくれ」
ルナは短く「そうか」と呟いた。
その声は、
どこか遠く、
どこか痛みに満ちていた。




