第六章 獣人の村7
シロは震える手で地面を掴み、
兄の倒れた姿を見つめたまま、声を絞り出した。
「……ごめん……よ……兄貴……
兄ちゃん……やだよ……」
涙が止まらない。
頬を伝い、地面に落ちても、次から次へと溢れてくる。
リフレはその様子を見て、鼻で笑った。
「馬鹿なやつ。お前が死んでどうするんだ?」
その冷たい声が、シロの心をさらにえぐる。
「もう……やめて!!」
ルミナが叫んだ。
声が震えていた。
「私の……せいだ……
私が……シロをちゃんと見てなかったから……
頼まれたのに……!」
涙が視界を滲ませ、
ルミナは膝から崩れ落ちた。
ルナも剣を握ったまま、空を見上げて呟く。
「……嘘だろ……」
その目は焦点を失い、
現実を受け止められずにいた。
そのとき──
「……ルナ……ルミナ……しっかりしろ」
弱々しい声が響いた。
シンハだ。
腹に爪を刺されたまま、
それでも彼は二人を諭すように言った。
「敵は……まだいるんだ……」
そして、シロの顔を見て微笑む。
「……バカな兄で……ごめんな……」
その笑みは、どこまでも優しかった。
「それと……親父に……よろしくと言ってくれ……
お前を……ずっと……見守ってる……」
「やだよ……やだよ……兄ちゃん……
ねえ……もうどこにも行かないでよ……!」
シロの叫びは、悲鳴に近かった。
その声を聞きながら、
シンハはゆっくりとリフレを睨む。
「……お前だけは……道連れに……」
リフレは鼻で笑った。
「死に損ないが……」
爪を抜こうとする。
だが──抜けない。
「……なんだ?」
リフレが目を見開いた瞬間、
シンハは残った力を振り絞り、
両腕の爪をリフレの身体へ深々と突き刺した。
「ぐあああああああっ!!」
リフレが初めて苦痛の叫びをあげる。
「なんで……なんでこいつに……こんな力が……!」
リフレが呻くように叫んだ瞬間、
その身体が激しく痙攣した。
苦しみに顔を歪めながら、
リフレはシンハの背中へ爪を何度も何度も叩き込む。
ズッ、ズッ、ズッ──!
肉を裂く鈍い音が連続し、
シンハの背中から黒い血が飛び散った。
それでもシンハは、
苦痛に歪んだ顔のまま、どこか笑っていた。
「……へっ……まだ……だ……」
震える足で地面を踏みしめ──
ドンッ!
シンハは地面を強く蹴りつけた。
その瞬間、
二人の身体は凄まじい速度で後方へ吹き飛び、
森の奥へと消えていく。
「シンハ!!」
ルミナが叫び、ルナの腕を掴む。
「しっかりして……追うわよ!!」
ルナは歯を食いしばり、頷いた。
「……わかってる」
二人は同時に駆け出した。




