第六章 獣人の村5
爆煙の中から現れた虎の青年を見た瞬間、
ルナの喉がひゅっと鳴った。
「お……お……お前は──」
言葉が続く前に、青年が先に口を開いた。
「久しいな、ルナ」
その声は低く、どこか懐かしい響きを帯びていた。
だが次の瞬間、青年は口角を上げ、挑発的に笑う。
「お前……弱くなったんじゃないのか?
怖くてブルってるなら、後ろで震えててもいいんだぞ」
その言葉に、ルナの眉が跳ね上がる。
「ふざけるな。これは武者震いだ」
吐き捨てるように言った瞬間、
ルナの震えはぴたりと止まっていた。
青年は満足げに鼻を鳴らす。
「……もう大丈夫だな」
そう言うと、腕に抱えていたシロをそっと下ろし、
ルミナの前へ歩み寄った。
「頼む。こいつを」
ルミナはシロを受け取りながら、青年を見上げる。
「あなたが……シンハ……?」
青年──シンハは軽く頷いた。
その名が響いた瞬間、周囲の獣人たちがざわめき始める。
「シンハだ……!」
「裏切ったんじゃなかったのか……?」
「なんでここに……まさか俺たちを……?」
疑念と恐怖と希望が入り混じった声が渦巻く。
シンハはそのざわめきを背に、
ゆっくりと魔族──リフレの前へ歩み出た。
「……約束が違うぞ、リフレ」
リフレは一つ目を細め、愉快そうに笑う。
「今まで襲わなかったじゃないですか。
それとも……私が“永久に”とは言いましたか?」
その声音は、嘲りと悪意に満ちていた。
シンハは悔しさに唇を噛みしめ、
怒りを押し殺した声で叫ぶ。
「ふざけるな……!」
その叫びに、周囲の獣人たちが息を呑む。
「シンハは裏切ったわけじゃ……ないのか……?」
「俺たちのために……?」
ざわめきは、疑いから希望へと変わり始めていた。
ルナはシンハの横に並び、
剣をリフレへ向けて突きつける。
「こいつを倒せばいいだけだろ」
シンハはふっと笑い、肩をすくめた。
「……それもそうだな」
両手の爪をむき出しにし、構えを取る。
ルナも剣を握り直し、
「行くぞ」と言いかけた、その瞬間──
リフレの姿が粉塵に包まれ、炎が弾けた。
「なっ──!」
ルナが振り返ると、
そこには手をかざしたルミナが立っていた。
「……私も忘れないでよ」
その瞳は、静かに燃えていた。




