第六章 獣人の村3
村長の背中を追って奥へ進むと、
家の中とは思えないほど広い空間が広がっていた。
空気が重い。
長い年月の祈りが積もり、沈殿したような静けさが漂っている。
その奥に──
ひときわ大きな像が立っていた。
松明の揺れる光に照らされ、
その像はまるで生きているかのように影を落とす。
ルナは息を呑んだ。
「……あれ、ルミナか……?
なんでルミナの像が……!」
驚きが声になり、ルナは思わずルミナを振り返る。
だがルミナはルナを見ず、
像の前に静かに座る村長へ歩み寄った。
「この像……なんなんですか?
エルフの里にもありました」
村長はゆっくりと微笑む。
「まあ、まずは座りなさい」
焦る気持ちを抑え、二人は村長の前に座った。
座るや否や、ルミナは堪えきれず問いかける。
「なんで……私と同じ姿なんですか?」
村長はルミナを見つめ、静かに問い返した。
「……エルフの少女は、なんと言っておった?」
ルミナは口を噤む。
「……“その時が来ればわかる”と……」
村長はふっと笑い、
遠くエルフの里の方向へ視線を向けた。
「あの子がそう言うのなら、わしからは何も言えん」
「えぇ〜……」
ルミナは肩を落とす。
村長は寂しげに続けた。
「あの子は辛い役目を果たしておる。
わしらはただ、この伝承を未来へ繋ぐ語り部じゃ」
その声には、長い年月の重みが滲んでいた。
「……エルフほど長命ではない。
だから村の者はもう、あなたを見ても何も感じんじゃろう」
その言葉には、
“忘れられていく伝承”への哀しみが宿っていた。
静寂を破ったのは、ルナだった。
「……シンハはどこだ」
村長の表情が一瞬で険しくなる。
「……あいつは──」
吐き捨てるような声。
その続きを言う前に──
外から大きな騒ぎ声が響いた。
「村長!!」
ドアが勢いよく開き、村人が飛び込んでくる。
「大変です! 魔族が……魔族が攻めてきました!!」
村長の顔色が変わる。
「……なんで……なんでじゃ……
約束が……違う……」
震える声で呟く村長。
「約束……?」
ルナが眉をひそめたその時──
奥の部屋からシロが飛び出してきた。
「兄貴か!? 兄貴が来たのか!?」
叫ぶなり、シロは外へ駆け出す。
「ルミナ、急ぐぞ!」
ルナも立ち上がり、走り出した。
「ま、待って!」
ルミナは慌ててその背中を追いかける。
外では、すでに戦いの気配が満ち始めていた。




