表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月と二人の勇者  作者: あると


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/68

第六章 獣人の村2

森の奥へ進むにつれ、木々の密度がゆっくりと薄れていった。

やがて視界が開け、獣人の村を囲む巨大な木製の門が姿を現す。

ルナは迷いのない足取りで門へ向かい、門番に片手を挙げた。

「よぉ、久しぶり」

「おう、生きてたかルナ!」

軽口を交わしながら門をくぐった、その瞬間だった。

──影が落ちてきた。

「ルナ、危ない!」

ルミナの叫びより早く、ルナは反射的に剣を抜き、

落ちてきた影を横へ弾き飛ばした。

「イタタタ……もうちょいだったのに!」

地面に転がったのは、虎の獣人の少女──シロだった。

尻尾をばたつかせながら、悔しそうに立ち上がる。

「バーカ。ワンパターンなんだよ」

ルナが呆れたように言うと、シロはむっとして睨み返す。

だがすぐにルミナの存在に気づき、目を丸くした。

「な、なんなんだこいつは!」

「仲間なんだ」

ルナがそう言った瞬間、シロの表情が一気に険しくなる。

「なんで俺はダメで、こいつはいいんだよ!」

怒りに任せて爪をむき出しにし、

ルミナへ飛びかかろうとする。

「ちょ、ちょっと待っ──」

戸惑うルミナに向かって一直線。

だが、シロの体は途中でぴたりと止まった。

ルナが尻尾を掴んでいた。

「はなせ! はなせってば!」

暴れるシロに、ルナは低い声で問う。

「……シンハは?」

その一言で、シロの動きが止まる。

尻尾も、爪も、表情も、すべてが固まった。

短い沈黙のあと、

シロは唇を噛みしめ、絞り出すように言った。

「……死んだ」

「まさか。あいつが死ぬわけ──」

「うるせぇ!! 死んだって言ったら死んだんだよ!!」

叫び声を残し、シロは走り去った。

シロが走り去ったあと、

村の空気が、ゆっくりと、しかし確実に変わっていった。

さっきまで穏やかだったざわめきが、

どこか刺々しく、湿った重さを帯び始める。

──ルナが「シンハ」の名を口にした瞬間からだ。

村人たちの視線が、ちらちらとこちらへ向けられる。

目が合うと、すぐに逸らされる。

ひそひそ声が、風に混じって耳に刺さった。

ルナは眉をひそめ、近くの男に声をかけた。

「……なんだよ、さっきから」

男は一瞬たじろぎ、しかし吐き捨てるように言った。

「あいつは……俺たちを捨てたんだ。裏切ったんだよ」

「裏切った? シンハが? 死んだんじゃねぇのか」

ルナの声が低く沈む。

男は首を振り、苦々しい表情で続けた。

「違う。あいつは……魔族の仲間になったんだ」

「……は?」

ルナの表情が凍りつく。

男は続ける。

その声は怒りよりも、恐怖と失望が混じっていた。

「金に目がくらんだんだよ。魔族に取り入って、好き勝手やって……俺たちを見捨てたんだ」

「嘘つけよ」

気づけば、ルナは男の胸ぐらを掴んでいた。

手が震えている。

怒りか、動揺か、自分でも分からない。

「シンハがそんな奴なわけねぇだろ!」

男は怯えたように目をそらし、

それでも言葉を吐き捨てる。

「本当だ……! みんな見たんだよ……! 離せ!」

ルナの手を振り払い、男は逃げるように去っていった。

残されたルナは、しばらくその場に立ち尽くした。

風が吹き抜ける。

村人たちの視線が刺さる。

胸の奥が、じわりと痛んだ。

「……嘘だろ」

ぽつりと漏れた声は、

信じたいものと信じたくないものの狭間で揺れていた。

ルミナがそっと近づく。

「ルナ……大丈夫?」

その声に、ルナははっと顔を上げた。

目の奥に、焦りと苛立ちと、言葉にできない不安が渦巻いている。

「……村長のところに行く」

短くそう言うと、早足で歩き出した。

「ま、待ってよ!」

ルミナは慌ててその背中を追いかける。

ルナの歩幅はいつもより大きく、

その肩は、どこか震えているように見えた。

ルナは村長の家へ向かって早足で歩いた。

その背中は、怒りとも不安ともつかない震えを帯びている。

ルミナは必死に追いかけながら、

村の空気がどんどん重く沈んでいくのを感じていた。

やがて、村の中心にある大きな家の前にたどり着く。

ルナはためらいもなく拳を握りしめ──

ドンッ!

乱暴なほど強く扉を叩いた。

しばらくして、軋む音とともに扉が開く。

現れたのは、虎の獣人──村長だった。

年齢を重ねた体つきだが、眼光は鋭い。

「……ルナか。久しいな」

その声を聞くなり、ルナは一歩踏み込んだ。

「シンハはどこだ!」

村長の表情が、わずかに揺れた。

悔しさと、言葉にできない痛みが滲む。

「……あのバカ息子は……」

そう呟くと、村長はルナから目を逸らした。

その視線が、ふとルナの後ろへ向く。

ルミナを見た瞬間──

村長の目が大きく見開かれた。

「……まさか……まさか……あなたは……」

声が震えている。

「いや……あなた様は……伝承の……」

言葉の続きを飲み込み、

村長はすぐに我に返った。

「……こちらへ。中で話そう」

そう言い残し、奥へと消えていく。

家の中へ招かれた二人は、思わず顔を見合わせた。

「なんだ……?」

「なに……?」

まったく同じタイミングで呟き、

互いにさらに困惑する。

村の空気は重く、

村長の反応は異様で、

シンハの真相は闇の中。

二人は無言のまま、村長の後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ