第五章 辺境の村
その頃──
サンたちは国境付近の村へと続く街道を歩いていた。
「もーーーー! なんでこんなに歩かなきゃいけないのよーーー!」
アリスは杖を地面に突きながら、全身で不満を撒き散らしていた。
ルビーは苦笑しつつ、額の汗を拭う。
「村に着いたら、少し休みたいわね……足が棒よ」
サンは無言で先頭を歩いていたが、ふと足を止めた。
「……?」
ルビーが首をかしげる。
「どうしたの、サン?」
サンは遠くの空を睨んだ。
村の方向──
空に、黒い煙がいくつも立ち上っている。
風に乗って、焦げた匂いが微かに漂ってきた。
「……嫌な予感がする」
ルビーが息を呑む。
「まさか……火事?」
アリスは目を丸くし、声を裏返らせた。
「え、え、え!? なにあれ!? 魔物!? 爆発!? やだやだやだ!」
サンは短く言い放った。
「急ぐぞ」
その声には、いつもの柔らかさが一切なかった。
ルビーはすぐに追いかけ、
アリスは「もーーー!」と叫びながら慌てて後を追った。
村に近づくにつれ、空気が変わった。
焦げた木々が倒れ、炎がまだ燻っている。
地面には、黒焦げの鎧を着た騎士たちが何人も倒れていた。
その鎧は──
**隣国ルーテシア王国のものだった。**
ルビーは口元を押さえた。
「……ひどい……」
アリスも震える声で呟く。
「これ……戦場じゃない……」
サンは表情を固くし、さらに奥へと進んだ。
村の入口で、ボロボロにやつれた男が立っていた。
「……この村の村長をしています」
男は深く頭を下げた。
「勇者様……こんな僻地まで、よくお越しくださいました……」
サンが状況を聞こうとしたその時──
村長の後ろから、十歳ほどの少年が飛び出してきた。
「お前ら……何しに来たんだよ!」
村長が慌てて制止する。
「やめなさい!」
だが少年は涙を浮かべ、叫び続けた。
「お前たち……神聖国は……俺たちを見捨てた!
誰も助けに来なかった!
隣のルーテシア王国の騎士たちが助けに来てくれたから……
俺たちは生きてるんだ……!」
声が震え、涙が地面に落ちる。
「帰れよ……!
もう……帰れよ……!」
サンは絶句した。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
アリスは怒りで震え、
ルビーは唇を噛みしめた。
村長は少年を叱りつけたが、
サンは気まずそうに小さく笑って首を振った。
「……いいんです。気持ちは、わかります」
落ち着いたところで、村長はサンたちを村の中心へ案内した。
そこには、倒れた騎士たちが集められた集会場があった。
扉を開けると──
中央の机に広げられた地図を囲み、
ルーテシア王国の騎士たちが険しい顔で会議をしていた。
村長が深く頭を下げ、サンを紹介する。
「こちらが……神聖国の勇者様です」
隊長らしき男が顔を上げ、サンを睨むように見た。
「これはこれは……勇者様。
遠いところ、わざわざお越しいただき……ありがとうございます」
その声には、明らかな皮肉が混じっていた。
アリスはムッとして前に出ようとしたが、
サンが手で制した。
「……戦況は?」
隊長は地図を指しながら答えた。
「あまりよろしくない。
雑魚はなんとかなるが……魔族の幹部が出てきている。
あれはどうにもならん。
我々もそろそろ撤退を考えていたところだ」
村長は青ざめた。
「そ、そんな……!」
隊長は肩をすくめ、冷たく言った。
「それに……勇者様が来られたのなら、
我々など必要ないのでは?」




