第四章 迷いの森7
翌朝──
ルミナが目を覚ますと、隣の布団は山のように盛り上がったまま動かない。
「……ルナ、起きて」
布団をめくると、ルナは顔をしかめて呻いた。
「……あたま……痛い……」
声はかすれ、目は半分死んでいる。
ルミナは呆れたように腰に手を当てた。
「もう、獣人の村に行くんでしょ。起きなさい」
「むり……二日酔いで気持ち悪いんだよ……」
「飲みすぎなのよ」
ルミナは水袋を差し出す。
ルナはふらふらと手を伸ばし、水を一気に飲み干した。
「……っはぁ……生き返る……」
しぶしぶ身支度を始めるルナを見て、ルミナはため息をついた。
門へ向かうと、里の人々が総出で二人を見送りに来ていた。
ただ──
リーフの姿だけがなかった。
ルミナが胸を痛めたその時、
里長の後ろからリーフがゆっくりと現れた。
下を向き、両手は固く握られ、わずかに震えている。
昨夜眠れなかったのが一目でわかった。
里長がそっと背中を押すと、
リーフは横を向いたまま、小さな声で言った。
「……昨日は、ごめんなさい」
ルナはあっさり答える。
「気にしてねぇよ」
リーフは驚いたようにルナを見上げ、
ぎこちない笑みを浮かべた。
それを見たルナは吹き出した。
「なんだよその笑い方、不細工だなー」
「なっ……!」
リーフは頬を赤くしながらも、
小さく息を整えて言った。
「……次に来た時は……きっと歓迎できるようにするわ」
ルナはにっと笑う。
「楽しみにしとく」
ルミナは微笑んだ。
「ルナ、楽しみが増えたね」
「おう」
その時、里長が深く頭を下げた。
「……勝手に人里へ降りて行った、もう一人のバカ娘のことも……どうかよろしくお願いします」
ルミナは困惑した。
「もう一人の……娘?」
ルナは小声で呟く。
「あいつ、バカ娘なんだってよ……」
「誰のこと?」
「教えてやんない」
「もーーー!」
ルミナは頬を膨らませた。
そして深く頭を下げる。
「みなさん、お世話になりました!」
ルナも手を振る。
「じゃあな!」
二人は獣人の村へ向かって歩き出した。
しばらく森を進んだところで、
ルミナがじと目でルナを見た。
「……ねぇ、本当に大丈夫なの?」
ルナは地図も見ずに前を指差す。
「確かこっち……いや、うーん……こっちだと思う……たぶん」
「たぶん!?」
ルミナは怒りながら地図を取り出した。
「やっぱり地図もらっておいてよかったわ!」
ルナは肩をすくめ、小さく呟いた。
「……ごめん」
ルミナはため息をつきながらも、
その背中を追いかけて歩き出した。




