第四章 迷いの森2
先頭を歩くエルフの少女リーフが、静かに振り返った。
「……ルミナ様。里長がお待ちです。どうぞこちらへ」
そう言うと、迷いのない足取りで森の奥へ進み始める。
ルナも当然のように後を追おうとしたが──
「お前はこっちだ」
低い声が背後から飛んだ。
振り返ると、ルナのすぐ後ろに立っていたエルフの男──ラクマが、冷たい目でルナを見下ろしていた。
「は? ふざけんなよ。俺はルミナと──」
言い終わる前に、周囲のエルフたちが一斉に剣と矢を向けた。
空気が一瞬で張り詰める。
ルナは両手を上げ、肩をすくめた。
「……はいはい、わかりましたよ。行けばいいんだろ」
ラクマは無言で踵を返し、ルナを別の道へと連れていく。
ルミナは心配そうにその背中を見つめた。
「……ルナ、大丈夫かな……?」
リーフは優しく微笑んだ。
「ご安心ください。危害は加えません。
ただ……人間は、里の奥へは入れないのです」
その言葉に、ルミナの胸がざわつく。
リーフに案内され、ルミナは里の中心部へ向かった。
そこはまるで“木でできた迷宮”のようだった。
螺旋を描くように上へ、上へと続く通路。
枝と根が絡み合い、自然そのものが作り出した神殿のような空間。
「……すごい……」
ルミナは思わず息を呑んだ。
どれほど歩いただろうか。
やがて、行き止まりのような巨大な木の壁に突き当たった。
「ここです」
リーフが静かに手を伸ばし、木の表面に触れる。
すると──
ゴォォ……ッ
木が左右に割れ、隠された扉が姿を現した。
ルミナは目を見開く。
「……こんな……」
「どうぞ、中へ」
リーフが扉を押し開ける。
中は広大な空間だった。
天井は高く、木々の枝が天蓋のように広がり、
中央には淡い光が満ちている。
そして──
正面の奥。
そこに立つ“木でできた像”が、ルミナの目に飛び込んだ。
ルミナは息を止めた。
「……え……?」
近づくほどに、心臓が早鐘を打つ。
その像は──
**自分とまったく同じ姿をしていた。**
黒い肌。
長い耳。
深い瞳。
ルミナは震える声で呟いた。
「……これ……私……?」
リーフは静かに首を振った。
「いいえ。
……」
ルミナは振り返る。
リーフの表情は、どこか祈るように厳かだった。




