第四章 迷いの森3
ルミナは像を見つめたまま、思考が追いつかずにぼーっと立ち尽くしていた。
自分と同じ姿。
自分と同じ耳。
自分と同じ肌の色。
(……どうして……?)
胸の奥がざわざわと波立つ。
その時、リーフが静かに声をかけた。
「ルミナ様、こちらです」
像のすぐそば──
淡い光に包まれた場所へ案内される。
そこには、木の根で編まれたような椅子に
**一人の少女**が静かに座っていた。
年齢はルミナと同じくらいに見える。
しかしその瞳は、底知れない深さを湛えていた。
少女は柔らかく微笑んだ。
「どうぞ、お座りください」
促されるまま、ルミナは少女の正面に座った。
少女はルミナをじっと見つめ、
まるで何万年も待ち続けた宝物を前にしたように、
静かに言った。
「……この時を、何万年も前からお待ちしていました」
ルミナの心臓が跳ねる。
「え……あの……この像のこと……?
私……何者なんですか……?」
震える声で問いかける。
少女は一瞬だけ目を伏せ、
そしてゆっくりと首を振った。
「……私から言えることはありません」
「えっ……」
「いずれ、すべてがわかる時が来るでしょう。
その時まで……どうか、焦らないでください」
ルミナは肩を落とした。
「そんな……教えてくれてもいいのに……」
少女はくすっと微笑んだ。
「あなたはまだ、知るには早すぎるのです。
ですが──」
少女はすっと立ち上がった。
「あなたに“見せたい場所”があります」
そう言って、像の足元へ向かう。
ルミナも慌てて立ち上がり、後を追った。
像の足元には、ただの木の床が広がっているように見えた。
しかし少女が手をかざすと──
木の紋様が淡く光り、
床が静かに開き始めた。
ルミナは息を呑む。
「……ここは……?」
少女は振り返り、優しく微笑んだ。
「さあ、ルミナ様。
……行きましょう」
階段を降りると、そこには──
地上とはまるで別世界のような“深い森”が広がっていた。
空気は重く、深く、そしてどこか懐かしい。
胸の奥がざわりと震える。
(……ここ……知ってる……?)
ルミナが圧倒されて立ち尽くしていると、
隣の少女──里長はクスッと微笑んだ。
「こちらです、ルミナ様」
その声に導かれ、ルミナは森の奥へ進む。
しばらく歩くと、視界がふっと開けた。
そこはぽっかりと空いた広場のような場所で、
中心には──
**巨大な一本の木**がそびえ立っていた。
ルミナは息を呑む。
「……これは……?」
少女は悲しそうに目を伏せた。
「...世界樹です....輪廻の環を司り....この世界を循環させてます」
その言葉に、ルミナの胸が強く締めつけられる。
近づくと、世界樹の樹皮は淡く光り、
しかしその光はどこか弱々しく、
今にも消えてしまいそうだった。
「……こんなに……弱って……」
ルミナはそっと手を伸ばし、樹皮に触れた。
その瞬間──
チリ……チリ……ッ
耳の奥で、かすかな声が響いた。
『……おね……がい……
ぼく……を……さが……し……て……』
ルミナはびくっと肩を震わせた。
「い、今の……声……?」
少女に振り返る。
「ねぇ、今……誰かが……」
しかし少女は首をかしげた。
「……声、ですか?
私は何も聞こえませんでしたが……」
ルミナは唇を震わせた。
「確かに……聞こえたの……
“ぼくを探して”って……」
少女の表情が一瞬だけ強張った。
しかしすぐに、穏やかな微笑みに戻る。
少女は世界樹を見上げ、静かに祈った。




