第三章 光と闇6
ルミナはルナを自分の家に招き入れ、
素朴だが温かい料理をテーブルに並べた。
「どうぞ……召し上がって」
ルナは椅子に座るなり、
まるで飢えた獣のように勢いよく食べ始めた。
「うまっ……! これ……本当にうまい!」
その姿を見て、ルミナはふっと微笑んだ。
「……誰かと一緒に食べるの、久しぶり」
ぽつりと漏れたその言葉は、
静かな森の中でやけに大きく響いた。
ルナは一瞬だけ手を止めたが──
次の瞬間。
「……っ!? ぐっ……!」
ルナの顔が青ざめ、
胸を押さえて苦しみ始めた。
「ちょ、ちょっと!? どうしたの!?」
「の、喉……つまっ……!」
ルミナは呆れたようにため息をつき、
水を差し出した。
「もう……誰も取らないんだから、落ち着いて食べなさいよ」
ルナは水を飲み干し、
ようやく呼吸を整えた。
「……助かった……死ぬかと思った……」
ルミナは苦笑しながら、
ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。
「ねぇ……さっき“嫌われ者同士”って言ってたけど……
あなたは勇者なのに、なんで嫌われてるの?
勇者って……いったい何なの?」
その瞬間──
ルナの眉がピクリと動いた。
空気が、わずかに震えた。
ルナはゆっくりと息を吐き、
静かに語り始めた。
「……勇者ってのはな。
“魔王を殺すためだけに作られた、女神の呪い”だ」
ルミナの心臓が跳ねる。
ルナは続けた。
「あいつら──人間は、魔族と同じくらいクソだ。
初めは勇者が二人生まれたってんで大喜びしてたよ。
“魔王なんてすぐ倒せる”ってな」
ルナの声には、怒りと悔しさが混ざっていた。
「だがな……
俺たち勇者は、伝承にあるような“最強の存在”じゃなかった。
……冒険者よりちょっと強い程度だ。
人間たちが期待した“伝説の勇者”とは程遠かった」
ルミナの胸が痛くなる。
ルナは拳を握りしめた。
「俺が“闇の勇者”ってだけで……
全部、俺のせいにされた。
“お前が闇だから、勇者の力が弱いんだ”ってな」
その声は震えていた。
悔しさと、孤独と、怒りが滲んでいた。
ルミナは悲しそうに目を伏せた。
「……そんな……」
ルナはその顔を見て、
わざと明るく言った。
「おい、そんな顔すんな。
だからこそ──光の勇者より先に魔王を倒して、
アイツらを見返してやるんだよ」
その言葉には、
怒りでも復讐でもない、
“生きるための意地”が宿っていた。
そしてルナは深く頭を下げた。
「だから……手を貸してくれ。
お前の力が必要だ」
ルミナは迷った。
人間を信じられなくなっていた。
街で受けた仕打ちが、まだ胸に残っている。
でも──
ルナは違った。
孤独で、傷ついていて、
それでも前に進もうとしている。
(……この人は……信じてもいい気がする)
ルミナは微笑んだ。
「……わかったわ。
で、これからどうするの?」
ルナは顔を上げ、
少し照れくさそうに笑った。
「行きたいところがあるんだ。
その前に……」
また料理を口に運ぶ。
そして──
「……っ!? ぐぅぅ……!」
また喉に詰まらせた。
ルミナは吹き出した。
「だから、ゆっくり食べなさいってば!」
ルナは涙目で水を飲みながら、
「うぅ……」と情けない声を漏らした。
その声が、
なぜかルミナにはとても愛おしく感じられた。




