第三章 光と闇4
──勇者サンたちが街を出て国境の村へ向かった頃。
ルミナは、森の奥深くにいた。
木々に囲まれた小さな空き地に、
自分で組み上げた質素な木の家がぽつんと建っている。
誰とも関わらず、
誰にも迷惑をかけず、
ただ静かに生きるための場所。
初級魔法が使えるおかげで、生活には困らなかった。
水は川から汲み、
肉は魔物を狩って焼き、
野菜は山菜を摘んで食べる。
味付けは岩塩だけ。
それでも、不思議と気にならなかった。
(……誰かと関わると、また迷惑をかけちゃうから)
そう思うと、
街へ戻る勇気はどうしても出なかった。
ルミナは今日も、
家の前に座ってぼんやりと空を見上げていた。
風の音だけが、静かに耳を撫でる。
その時──
グォォォォォォォォッ!!
大地を揺らすような獣の咆哮が森に響いた。
空気が震え、
周囲の木々がざわめく。
「……なに?」
ルミナは立ち上がり、外へ出た。
正面の木々が、
巨大な何かに押し分けられるように倒れていく。
ズシン……ズシン……
そして──
三メートルを超える巨大な熊の化け物が姿を現した。
その圧力に、ルミナの呼吸が止まる。
(……動けない……)
熊が腕を軽く横に振った。
次の瞬間、
ルミナの体は宙を舞い、
背後の木に叩きつけられた。
「っ……あ……!」
視界が揺れ、意識が遠のく。
それでも、唇を噛んで耐えた。
(……死にたくない……!)
ルミナは氷の刃を作り、熊へ放つ。
氷刃は肩に突き刺さり、血が飛び散る。
だが熊は怯まず、爪を振り回して襲いかかる。
爪がルミナの肩をかすめ、
鮮血が飛び散った。
「っ……!」
炎を放つ。
焦げる匂いが広がるが、致命傷にはならない。
熊はさらに迫る。
(……ダメかも……)
一瞬、あの“鬼”の姿が脳裏をよぎる。
だが──
ルビーの顔が浮かんだ。
『普通は別々の属性を同時に使えないのよ』
(……わたしの武器は……これだ)
ルミナは覚悟を決めた。
集中すると、
周囲の枯れ葉が巻き上がり、
粉々になって熊の周囲に集まっていく。
空気が乾き、
静電気のような音がパチパチと響く。
熊が違和感に気づき、低く唸った。
「……ごめんね」
ルミナが炎を放つ。
次の瞬間──
ボンッ!!!
爆風が森を揺らし、
熊は炎に包まれて派手に燃え上がり、
そのまま崩れ落ちた。
地面には黒焦げの跡が残り、
周囲の木々も焦げていた。
「……確か……粉塵爆発……だっけ……」
転生前の知識が、
ぼんやりと頭をよぎる。
その時──
ザッ。
背後から気配。
ルミナが慌てて振り返ると、
黒い大剣を背負った男が立っていた。
長身で、無表情。
足音も気配もなく、そこに“現れた”ようだった。
「だ、誰なの……!」
ルミナは後ずさる。
男は両手を上げ、ゆっくりと近づかないようにしながら言った。
「待て待て。
助けに入ろうとしたんだけどよ……」
口元にわずかな笑み。
「必要なかったみたいだな」
男は熊の黒焦げの死体を見て、目を細めた。
「すげぇな。
今の……上級魔法ってやつか?」
ルミナは首を振った。
「……初級魔法よ」
男の目が大きく見開かれた。
「……は? 初級で……これ……?」




