第三章 光と闇3
モネはサンの手を強く引き、庭の奥にある白いテーブルへと連れていった。
「ここ、座って」
甘さと命令が混ざった声。
サンは仕方なく椅子に腰を下ろす。
モネが顎をクイッと上げると、
控えていたメイドたちが一斉に動き出し、
香り高いお茶と宝石のような菓子が並べられた。
モネはサンをじっと見つめる。
その視線は、まるで“自分だけのもの”を見つめるように熱い。
だが──
サンはふと、ある違和感に気づく。
(……アンがいない)
胸の奥に冷たいものが落ちる。
「モネ王女。アン王女はどこに?」
その瞬間、
モネの表情が“怒り”に染まった。
バンッ!!
両手で机を叩き、
ティーカップが跳ね、皿がガシャンと音を立てる。
「なんで……なんで“あいつ”なのよ!」
嫉妬で濁った瞳がサンを射抜く。
「知らないわよ。
どこかで遊び呆けてるんじゃないの?」
その言葉に、サンの眉がわずかに動く。
だが次の瞬間、
モネの表情はころりと変わり、
無邪気な笑顔を浮かべた。
「ねぇ勇者様。
わたしに……あなたのお話、聞かせて?」
サンは静かに立ち上がった。
「悪い。用事を思い出した」
そのまま庭の出口へ向かう。
モネは慌てて立ち上がり、声を張り上げた。
「待って! お母様に言いつけるから!」
サンは振り返らない。
「後悔しても知らないんだから!」
叫び声が響くが、
サンの姿はもう見えなかった。
モネは唇を噛み、
そのまま王妃のもとへ駆け出した。
「お母様! 勇者様が……!」
王妃は目を細め、
ゆっくりと笑みを浮かべる。
「……少し懲らしめる必要があるわね」
その横で、教皇が耳元に囁いた。
「“あの件”を勇者に依頼してはどうでしょう」
王妃はニヤリと笑った。
サンは城を出ると、
苛立ちを隠さず呟いた。
「あいつら……先に帰りやがって」
ギルドへ向かい、扉を開ける。
そこには、
カウンター席で頭を抱えてうつむくルビーの姿があった。
「ルミナはいたのか?」
サンが尋ねると、
ルビーは顔を上げて叫ぶ。
「まったく……誰も見てないって言うのよ!」
しばらく考えたあと、
ぽつりと呟く。
「……あの子、迷子になってるんじゃないの……?」
立ち上がり、
今にも走り出しそうな勢い。
サンは声を強めた。
「落ち着け。
あいつに魔法教えただろ。
初級魔法が使えれば、そう簡単にはやられねぇよ」
ルビーはハッとし、
肩の力を抜いた。
「……そうだったわね。
どこにいるのかわからないんだし……しょうがないわよね」
そう言って座り直す。
そして、じとっとした目でサンを見る。
「で? 早かったじゃない。
モネ王女とデートだったんでしょ?」
「逃げてきた」
「ちょっと……大丈夫なの?」
ルビーは笑いながら言った。
その時──
「勇者様!」
受付嬢が割り込んできた。
「王様より指名依頼です」
依頼書をサンに差し出す。
サンは眉をひそめた。
(王は不在のはずだろ……)
依頼内容を見る。
『国境外れの村に異変あり。至急調査に向かえ』
ルビーが覗き込み、顔をしかめる。
「ちょっと……そこってかなり遠いわよ?」
サンはルビーに尋ねる。
「アリスは?」
「店でアイス食べてるんじゃないの?」
サンは街の甘味店へ向かった。
店の窓から見えるのは──
大きなパフェを抱え、幸せそうに頬を緩めるアリス。
「……あげないよ」
サンの姿を見た瞬間、
アリスはパフェを隠した。
「そんなのどうでもいい。来い」
サンはアリスの手を掴み、そのまま引っ張る。
「ちょ、ちょっと待って!
いやー! 久しぶりのパフェなのー!」
アリスの叫びが店中に響く。
ルビーは苦笑しながら、
アリスのパフェ代をレジに置いた。
「はいはい、行くわよアリス」
アリスは泣きそうな顔で引きずられ、
ルビーはその頭を優しく撫でた。
「……大丈夫よ。帰ってきたらまた食べましょ」
サンは振り返らず、
そのまま二人を連れて街を出た。
向かう先は──
国境外れの村。




