第4話 4/15(月) 赤城の過去 中編
千賀さんが、赤城くんの父親……⁉︎
でも、正記は疑問に思うことがあった。赤城は千賀と会話する時はいつも敬語だし、何より、2人は名字が違う。
何か深い事情があるのか……?
1人で考え込む正記を見て、千賀はクスッと笑った。
「こればっかりは、考えても答えは出てこないよ。立ち話も何だし、中に行こうか。明には怒られるかもしれないけど、ちゃんと話さないとね」
千賀に連れられ、正記は中央ホールの隔離スペースに案内された。
千賀の口から語られたのは、赤城の過去だった。
「明から聞いた話だから、実際にはどうだったのかわからない。明は7年前、『ナイトメア』に巻き込まれて、怪物の襲撃で家族を全員失ったんだ」
そんな……! そんなことがあったら、赤城くん、ショックどころじゃ……!
千賀は悲しそうな顔で話を続ける。
「わたしと他の隊員が救出に向かった時には、既に生き残っていたのは明だけだった。駆けつける前に異能力が発現したおかげで、怪物を倒すことができたらしい。その後、保護した明をわたしが引き取って、義理だけと親子になった、というわけだ」
そうだったんだ……赤城があまり人に心を開かない理由が、よくわかった気がする。
それと、千賀と赤城の関係も複雑なものだ。僕が見た感じでは、赤城くん、千賀さんにも心を開いていないんだろうな……
話を聞き、正記にも悲しい気持ちが込み上げてきた。赤城が背負っていたのは、想像を絶するものだった。
一瞬でも赤城くんの力になれると思った僕は、無神経でバカだな……
千賀は、正記の表情が曇ったのを見て、とある提案をした。
「正記、料理はできるかい?」
え、料理……? なんで今?
「家でたまにやったりしますけど……」
千賀は車椅子で移動し、隔離スペースの扉を開けた。
「ちょっと手伝ってくれないか? 明の大好物を作ってあげたいんだ」
正記はそのまま千賀に連れられ、HNBの施設内にあるキッチンにやってきた。
話の流れだと、赤城の大好物を作る感じだ。千賀がレシピ本を持ってきて、ページを開く。
「あった! 正記、作りたいのはこれなんだけど……」
赤城くん、何が好きなんだろう?
レシピ本に書いてある赤城の大好物、それは……
「明の大好物、シュークリームだ!」
まさかのスイーツ! 想像の斜め上だった! 赤城の大好物を知った正記は、赤城が少し可愛く思えた。
しかし、正記はスイーツ作りの経験がなかった。しかもシュークリームって、確か作るのが難しかったはず……!
すると、千賀が正記の肩に手を置いた。
「正記は頭が先に動いて、立ち止まってしまうところがあるね。緊張しなくて大丈夫。わたしもちゃんとフォローするから、当たって砕けろの精神でやってみてくれ」
当たって砕けろ……今まで正記が抱いてこなかった精神だ。
赤城くんのために、頑張ってみよう!
正記は生地作りを担当し、千賀はカスタードを作りながら、正記に生地作りを教えていた。
生地作りがかなり難しい……! 牛乳やバター等を加えた生地を熱した鍋で混ぜるのだが、鍋の温度調整や生地の混ぜ方に、正記はとても苦戦していた。
一方千賀は涼しい顔をしながら、手際よくカスタードを作っており、その傍ら正記への教え方はとても丁寧だった。これが大人の余裕というやつか……!
そして、なんとか生地が完成し、オーブンで焼く工程までこぎつけた。千賀はカスタードを作りながら、オーブンの予熱もしっかりしていたようだ。抜かりがない。
そのオーブンに、丸型に絞った生地を入れていく。千賀によると、生地は高温で一気に焼き上げる、らしい。
すると、千賀が正記にこんなことを聞いた。
「明の大好物、意外だっただろ?」
正記は激しく同意した。むしろ、赤城にそんな一面があったことを知れて嬉しい気持ちもあった。
千賀が話を続ける。
「わたしも、知った時は驚いたよ。ちょうど、7年前に明を引き取った後だったかな」
千賀は、7年前の赤城について話し始めた。
7年前、家族を失った傷もあり、赤城は部屋から出てこなかった。千賀自身も、父親としてなのか、事情を知る者としてなのか、どう接するべきなのかわからなかった。
しかし、赤城に食事だけでもしっかり食べてもらいたかった千賀は、慣れない料理を必死に勉強し、作った料理を赤城の部屋の前に置いていた。最初は手をつけなかった赤城も、少しずつ食べるようになってくれた。時々、
「胡椒が効きすぎ。辛い」
と、口を開くようになった。
時には甘いものも食べたいかもしれないと、千賀はスイーツ作りも勉強し始めた。そしてある日、シュークリームを作った時だった。
部屋の前に置いた皿が空になっているのを確認した千賀は、いつも通り皿を回収しようとした。
その時、部屋の扉が開き、食べかけのシュークリームを持った小学生の赤城が出てきた。そして照れながらこう言った。
「……俺の大好物だから、もっと美味しく作れ」
千賀は嬉しくなり、シュークリームを美味しく作れるように試行錯誤を重ねた。赤城は表情を表には出さなかったものの、千賀がたどり着いた今のレシピに満足したようだった。
「明がわたしに未だに心を開ききっていないのはわかっている。でも、せめて大好物を食べている時だけは、幸せであってほしいんだ」
正記はその話に感動を覚えた。きっと赤城にとっても、千賀にとっても、シュークリームはただの大好物じゃないんだろうな。
そして、さらに数分経って、シュークリームの生地が焼き上がった……が、中にはうまく膨らまなかった生地もあった。
正記は上手くできなかったことに落ち込んだが、千賀はその生地にもカスタードをのせ始めた。
「不恰好なシュークリームもご愛嬌だ。失敗を重ねて、良くする道を見つける。これも料理の醍醐味だからね」
そして、カスタードがのった生地の上に、さらに生地を重ねて、手作りシュークリームが完成した。
赤城のところに届けるために、シュークリームを皿に盛り付け終わった、ちょうどその時だった。扉をノックする音が聞こえ、HNBの女性隊員が1人入ってきた。
「リーダー、ここにいたんですね。そろそろ足の治療の時間ですよ」
千賀の足は良くなってきているようだが、まだ車椅子が必要だ。千賀はHNBを支える大事なリーダーだ。だから……
「行ってきてください! 赤城くんには、僕が届けます!」
正記にそう言われて、千賀も少し安心したようだ。シュークリームを正記に託し、女性隊員に車椅子を押してもらい、治療に向かった。
あ、そういえば……! 正記は大事なことを聞き忘れていた。
「千賀さん、赤城くんって、今どこに?」
正記はシュークリームの皿を持って、HNBの施設内にある居住スペースにやってきた。住み込みで任務にあたる隊員もいるようだ。赤城もここに住んでいると、千賀から聞いた。
赤城の部屋は、確かここを左に……ここかな? 部屋の前に、『A.AKAGI』という札があった。間違いないようだ。
正記は部屋の扉をノックし、声をかけた。
「赤城くん、正記です」
部屋の扉が開き、赤城が姿をみせた。
「何の用だ……」
赤城はすぐに、正記が持っているシュークリームの皿に目がいった。そして全てを察し、少し顔が赤くなった。
「あのバカ……! なんで教えるんだよ……!」
どうやら、シュークリームが好きなことを恥ずかしく思っているらしい。正記はフォローのつもりでこう言った。
「僕も好きだよ、シュークリーム」
「アホか! お前とじゃいろいろ違うんだよ!」
何か、初めて赤城の年相応なところを見た気がする。
赤城は取り乱したことに気づいて、すぐに冷静になり、いつもの調子に戻った。
「とりあえず、入れ」
そして2人で、シュークリームを頬張った。赤城は生地が上手く膨らまなかった、不恰好なシュークリームを食べていたが、「まあまあいける」と、夢中で食べてくれた。本当に好きなんだな。
そして、シュークリームを食べ終えた時、赤城が口を開いた。
「千賀さんに聞いたんだろ? 7年前のこと」
バレてた……正記はそのことに、あまり介入しない方がいいと思っていたが、赤城はシュークリームのおかげもあってか、少し心がほぐれているようだ。
「俺からも話す。お前には話した方がいいと思う。7年前の、あの日のことを……」




