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第4話 4/15(月) 赤城の過去 後編

 赤城は7年前の出来事の前に、自分の家族について話し始めた。


「俺には父さんと母さんの他に、少し年の離れた兄貴がいたんだ」


 赤城の兄については、正記はちゃんと何者なのかわかっていた。


「赤城光さん。サッカーのU-20日本代表に選ばれてた人だよね? 『日本サッカー界稀代の天才』って言われてた……」


 赤城は頷き、話を続ける。


「7年前、その兄貴の練習帰り……」




 話は7年前に遡る。赤城の兄・光は、その日も才能を光らせ、ファンにも期待の眼差しを向けられていた。

 練習を終わらせ、ファンサービスをする光の元に、当時小学生の赤城が来て、光のユニフォームの裾を引っ張る。


「兄ちゃん! 限定シュークリーム売り切れちゃう! 早く行こうよ!」


 弟に甘えられた光は、ファンに挨拶をして、一緒に両親の待つ駐車場に向かった。


 移動中の車の中は、実に平和だった。皆、光の話で盛り上がっていた。


「俺も兄ちゃんみたいに、すごいシュート打てるようになる! いつか、兄ちゃんと一緒に日本代表の選手になるんだ!」


 光はそれを聞き、赤城の頭を撫でながらこう言った。


「じゃあ、いっぱい練習するんだぞ! あと、シュークリームばっか食べてないで、野菜もちゃんと食べないとな!」


「やだ! 美味しくないから!」


 そんな他愛もない会話を聞き、両親も笑っていた。その時は、こんな時間がずっと続くと思っていた。


 悲劇が起きたのは、その直後だった。


 車を運転していた赤城の父が、真っ先に異変に気づいた。先程まで公道を走っていたのに、いつの間にか、赤い空の広がる不気味な平原にいたからだ。

 助手席にいた母がカーナビを操作しようとしたが、何も反応しない。

 その様子を見て、赤城は不安になり、光の手を握った。


「兄ちゃん……」


「大丈夫。きっと道を間違えたんだよ」


 光が赤城のことをなだめた、その時だった。

 いきなり前の座席の窓ガラスが割れ、『ナイトメア』の怪物たちが姿を見せた。そして一瞬の間に、両親が怪物たちが持っていたナイフで貫かれた。そして、車はいつの間にか、怪物に囲まれていた。

 前の座席が血に染まったのを見て、赤城は戦慄し、目から涙がこぼれた。

 しかし、光は赤城の手を強く握り、こう言った。


「明、俺が合図したら、全力で走れ。いいな?」


 しかし、赤城は恐怖のあまり、光が何を言っているかわからなかった。

 光は赤城の恐怖を和らげるために、笑顔を作って語りかけた。


「大丈夫。兄ちゃんを信じろ」


 赤城はようやく頷き、光を信じることにした。

 すると、光は車のドアを思い切り強く開け、ドアの周囲にいた怪物たちを蹴散らした。そして、光は赤城の手を引っ張り、車の外に脱出した。

 怪物たちが赤城兄弟に気づき、ナイフを携え追いかけてくる。2人は全力で走った。どこかから元の場所に戻れると信じて。

 しかし、どれだけ走っても、続くのは赤い空と広い平原ばかり。そのせいもあったのか、赤城の体力が底をつき、足がもつれて転んでしまった。

 赤城の先を走っていた光が転んだ音に気づき振り返ると、怪物たちが赤城のすぐそこまで迫ってきていた。


「明!」


 赤城は怪物たちが迫ってくるのを見て、自分の運命を悟り目を閉じた。そして、ナイフで刺す音が聞こえた。

 赤城が目を開けると、自分が無傷なのがわかった。そして目の前に、血だらけの光が倒れていた。


「兄ちゃん!」


 赤城が光に近づくと、光の背中に刺し傷が複数あることに気づいた。


 まさか兄ちゃん、自分を庇って……!


 赤城が悲しむのを気にも留めず、怪物たちは赤城に襲いかかろうとした。赤城は何度も光に呼びかけるが、反応はない。


 そして赤城は全てを察し、天に向かって泣き叫んだ。


「うあああぁぁぁ!」


 すると、赤城の手から炎が出現した。異能力の発現だ。赤城はその炎で、迫り来る怪物たちを焼き尽くした。

 焼かれた怪物たちは灰となり散った。赤城は大きく息切れをしたまま、その場に倒れてしまった。




「その後千賀さんたちが救出してくれて、気がついたらHNBの救護室だった。その後は少し部屋に閉じこもってた時期もあったが、中学生になると同時に、HNBへの入隊した、って感じだ」


 正記はあまりの壮絶さに、言葉が出なかった。赤城は、自分の手を見つめながら話を続ける。


「だから俺は、復讐のために戦ってる。家族の、兄貴の仇を討つために。それが、兄貴の未来を奪った俺にできることだから」


 その言葉を聞き、正記は思わずこう言った。


「お兄さんは、そんなこと思ってないよ!」


「お前に何がわかるんだよ!」


 赤城は感情任せに叫んだ。正記は怯んだが、それでも話し続ける。


「わかるんだ。僕の父さんが、そうだったから」


 赤城はその言葉を聞き、正記の方を見た。今度は正記が話す番だ。


「僕の父さんもね、7年前に亡くなったんだ。飲酒運転のトラックに轢かれて……」


 赤城はそれを聞き、驚きの表情を見せた。しかし、正記の父親の話は、それだけではなかった。


「僕も赤城くんみたいに塞ぎ込んだ。でも、ある日、僕の家に訪ねてきた人がいるんだ」




 正記は父が亡くなってから毎日、父のことを思い出し泣いていた。正記の母も、正記のために気丈に振る舞っていたようだった。

 そんな日々が続いて10日が経った時、家のインターホンが鳴り、母が出ると、そこには正記と同い年くらいの少年を連れた母親がいた。


「阿久津さんのお宅で、合っていますか?」


 全く面識のない人だ。正記の母も、少し動揺しながら答える。


「はい……何か、ご用でしょうか?」


 今度は、少年が話し始める。


「あのね、ごめんなさいって言いにきたの。おじさん、僕を守ってくれたのに、『ありがとう』って言えなかったから……」


 困惑する正記の母に、少年の母親が説明する。


「旦那さん、トラックに轢かれそうになったうちの子を庇って、事故に遭ったそうなんです。今日はそのお礼と、お詫びに参りました」


 部屋の奥でそれを聞いていた正記は、それを聞いて、部屋の扉を開いて玄関の方を覗いた。

 少年の母親が頭を下げる。


「旦那さんが亡くなった原因は、こちらにもあります! 本当に申し訳ありませんでした!」


 正記はその時思った。自分の父は、正義感の強い人だった。


 父は、その正義感で、あの子を守ったのだと。




「父さんが亡くなったのはショックだったよ。でも、その親子が来てくれたおかげで、父さんのことを、すごく誇りに思えた。自分も、そうありたいって思ったんだ」


 悲しい話の連続だったが、正記は堂々と話し続ける。


「だからきっと、赤城くんのお兄さんも、赤城くんを守りたいっていう、自分の正義感に従ったんだと思う。僕の完全な憶測だけど……」


 赤城はそれを聞き、不思議な感覚を感じた。自分の荒んだ心に、何か優しいものが混ざるような、そんな感覚が。


 兄貴の死を、そんな風に考えたこと、なかったな……


 そして、明は椅子から立ち上がり、部屋の扉の方へ向かった。そして、少し照れながらこう言った。


「一緒に来てくれ。千賀さんに怒鳴ったこと、謝りたい。立ち会ってほしい」


 正記は快く返事をして、一緒に千賀の元へ向かった。



 正記と赤城は、千賀のいる救護室へ向かった。千賀はまたベッドの上で書類整理をしていたが、正記と赤城に気づくと、すぐに手を止めた。


「明……」


 気まずい空気が流れる。そんな中、赤城は千賀に頭を下げた。


「ごめん! 感情に任せて怒鳴って! 俺の悪いところだって、自覚してるのに……!」


 千賀は驚いたが、すぐに優しい表情になり、赤城の頭を撫でた。


「いいんだよ。仮にも7年、明の父親をやってきたんだ。慣れっこさ」


 赤城は頭を上げたが、正記が一緒なのを思い出し、慌てて千賀から離れた。

 そして、千賀にこう告げた。


「でも、これから無茶すること、もっと増えるかもしれない。頼れる相棒ができたから」


 そう言って赤城は、正記の方を見た。え? 相棒って……? 

 赤城は少し顔を赤くして、恥ずかしそうに話す。


「お前って、こういう時鈍感だよな。ったく、バディになるって言ってるんだ! 正記、お前と一緒に、『ナイトメア』に立ち向かうって!」


 正記はその言葉を聞き、一瞬固まったが、すぐに嬉しい気持ちでいっぱいになった。初めて下の名前で呼んでくれた!


「こちらこそよろしく! 明くん!」


 明はまだ恥ずかしいのか、正記から目を逸らしている。

 そんな2人を見て、千賀は微笑ましく思った。きっと2人は、いいバディになると。


 ここから、正記と明、正反対の2人による、少し奇妙な高校生活が始まる!

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