第4話 4/15(月) 赤城の過去 前編
「兄ちゃん! 兄ちゃん!」
まだ小学生くらいの赤城が、倒れている兄に必死に呼びかけている。兄の体からは大量の血が流れており、目線の先からは『ナイトメア』の怪物たちが迫ってくる。
「うあああぁぁぁぁ!」
赤城が怒り混じりに泣き叫ぶと、手から異能力の炎が発現し、その場の全てを焼き尽くした。
赤城はベッドから慌てて起き上がった。気がつくと、そこは赤城の部屋だった。
また、この夢か……赤城は自分の手を見つめ、握り締めた。忘れもしない、7年前のあの日……
「兄貴……」
その日の朝、夢見沢学園の校門あたりで、正記は前を歩く赤城の姿を見つけた。ちょっと、声をかけてみようか。
「赤城くん、おはよう!」
しかし、赤城は正記を睨みつけ、そのまま行ってしまった。今日は一段と機嫌が悪そうだ……
赤城が転校してきて1週間が経つが、この調子のため、他の生徒に完全に距離を置かれている。正記は、そんな赤城が少し心配だった。
それに、先日の赤城の言葉が引っかかっている。
『お前を、俺の『復讐』に付き合わせられない』
復讐……赤城くんは、何かに恨みがあるってことなのかな? なぜだろう、胸騒ぎがする。
正記は複雑な気持ちのまま、教室へ向かった。
そして昼休み、正記が男子トイレから出ると、目線の先に赤城がいた。復讐について、そしてバディの件について、聞きたいことはいろいろあるが、聞くべきなのかな? 正記は深呼吸して、赤城に話しかけようとした。しかし……
「よう、お前が赤城か?」
正記が話しかけるより先に、3人組の男子生徒が赤城に話しかけた。あの人たち、同じ学年の目立つグループだ! 標的にした生徒を『イジる』という名目でいじめたりもする!
まさか、赤城くんを標的に……⁉︎
赤城は物怖じせずに返答する。
「何か用か?」
男子生徒の1人がニヤニヤしながら話し続ける。
「生意気な転校生がいるっていうから、ツラ拝みに来てやったんだよ。しかも実際に見たら結構イケメンじゃん? 許しがたいねぇ?」
確かに赤城は整った顔をしている。目つきの悪さと態度を矯正すれば、普通にモテるんじゃないかくらいの。
それはさておき、赤城はため息をついた。
「それだけか? 俺も暇じゃないんだ。じゃあな」
赤城はその場を去ろうとしたが、グループのリーダー格の男子生徒が、壁に足を当て、赤城の行く手を塞いだ。
「まぁ待てよ。お前、『赤城光』の弟だろ?」
赤城はその名前に反応を示した。
正記は物陰から様子を伺っていたが、今の話に出てきた『赤城光』という名前に聞き覚えがあった。どこでだっけ?
正記が考えている間にも、目立つグループの3人は赤城に詰め寄る。
「前にお兄さんのインタビュー見たんだけどさ、出来損ないの弟がいる、みたいなこと言ってたんだよねぇ! ウケる! お兄さんに信頼されてないんだね!」
「お前が兄貴の何を知ってるってんだ!」
まずい! 正記は焦った。このままだと赤城は感情任せに暴力を振るいかねない! 止めないと! えっと、えっと……! すると、正記はある方法を閃き、そのまま物陰から叫んだ。
「先生! こっちです! 赤城くんがいじめられてます!」
目立つグループの生徒たちは、それを聞き、慌てて去っていった。正記は3人がいなくなったのを確認し、赤城の元へ駆けつけた。
「赤城くん、大丈夫だった⁉︎」
赤城は表情一つ変えないまま去ろうとした。しかし、正記とすれ違う際、小さな声でこう言った。
「……ありがとな」
正記は驚いて去っていく赤城の後ろ姿を見た。そして、徐々に嬉しさが込み上げてきた。赤城くんの力になれた、んだよね……⁉︎ 現実世界では初めてのことだ。
一歩前進、できたかな?
そして放課後、下校時刻になったら、赤城はすぐに帰ってしまった。多分HNBの施設に行くのかな? 正記は今日は日直だったため、やることを終えてから、赤城より少し遅れて教室を出た。
正記は教室を出てから下駄箱まで行く途中、ずっとあることを考えていた。目立つグループの生徒が言っていた『赤城光』という名前……僕が知っているということは、多分有名人が何かなんだろう。
正記は下駄箱で靴を変え、校門に向かう途中も、その事が頭から離れなかった。スッキリしないな、と思いながら目に留まったのは、グラウンドで練習しているサッカー部の生徒たちだった。
赤城光……サッカー……
「ああーーーっ!」
正記は赤城光が何者なのかを思い出し、思わず大きな声が出てしまった。周辺にいた生徒たちの注目を浴びてしまった正記は、足早にその場を去った。
場所は変わって、HNBの施設前。正記は赤城に掛ける言葉を考え、意を決して中に入った。
しかし、中に入ってすぐのエントランスで、赤城と車椅子に乗った千賀が何やら言い合っていた。でも、怒っているのは赤城だけだった。
「そういうのがお節介だって言ってるだろ⁉︎」
「でも明、そんな戦い方を続けていたら、いつか周りの人か、自分が死ぬかもしれないんだよ? それをわかってて、見過ごせる訳ないだろう?」
何やら議題は重たいようだ……2人は正記に気づかないまま言い合いを続ける。
「明、無茶をしてほしくないんだ。HNBのリーダーとしてだけではなく、父親としても」
「こういう時だけ父親面かよ! もういい! 命令だとしても、従う気は無いからな!」
赤城はそう言い残し、施設の奥へ行ってしまった。
千賀はため息をつき、頭を抱えた。正記はこんなに落ち込んでいる千賀を見るのは初めてだった。
すると、千賀がこちらに気づき、無理矢理笑顔を作った。
「正記、来ていたのか。……ちなみに、いつからそこに?」
正記は盗み聞きしたのを申し訳なく思い、正直に話した。
「『明が死ぬかもしれない』のあたり、ですかね? それと……」
正記は先程の言い合いで、気になったことをおそるおそる尋ねた。
「千賀さん、赤城くんに『父親』って……」
千賀は「聞かれていたか」と、今度は取り繕っていない、自然な笑顔になった。
「隠すつもりはなかったんだけどね。そうだよ。わたしが、明の父親なんだ」




