第7話 4/25(木) 頼れる仲間たち 前編
赤い空が広がる平原に、爆発音が響く。
今日、正記と明は、放課後になって早々『ナイトメア』の中で、ヌシと戦っていた。
ヌシはバラのような姿をしており、葉のような手から棘を飛ばして攻撃してくる。
明が放った火炎弾に、正記が『書換』の詠唱を行う。
「『書換』温度、上昇!」
火炎弾の温度が一気に上昇し、ヌシに命中して焼き尽くす。
すると、ヌシが最期の抵抗に、棘を1本放った。その棘が、正記の左腕をかすめた。
「うっ!」
そのままヌシは灰となって散り、『ナイトメア』は消え去った。しかし、正記の制服には、血が滲んでいた。
明が正記に駆け寄り、傷の状態を確認する。
「これくらいなら、救護班のところに行けば、すぐ治る。とりあえず応急処置だけする。そしたらHNBに戻るぞ」
そう言って、明はカバンから包帯を取り出し、正記の左腕に巻いた。
しかし、正記は少し不安を感じていた。血が出るようなケガ、HNBの救護班の人が優秀でも、すぐに治るものなのだろうか? でも、明はこんな時に嘘は言わない。明のことは、何があっても信じてるから。
そして2人は、HNBの施設へと戻っていった。
そして、HNBの施設内にある救護室に到着した正記は、驚くべき光景を目にした。
「明! 正記! おかえり!」
足をケガしていた千賀が、普通に立って、歩いていたのだ。正記は驚きのあまり、自分のケガの痛みを忘れた。
千賀の傷は深く、回復には何ヶ月もかかりそうだったのに、何で……⁉︎
すると、明が千賀に、こんなことを聞いた。
「千賀さん、紗良さんいます? 正記がケガしたんですけど」
紗良さん? 救護班の人かな?
すると、奥から女の人の声が聞こえた。
「呼んだ? ケガって聞こえたけど?」
救護室のカーテンが開き、若い女性が姿を見せた。千賀が女性を紹介してくれた。
「彼女は柏木紗良。救護班の班長だ。そういえば、正記に紗良の力を見せたことがなかったね。紗良、後は任せてもいいかい?」
紗良は笑顔で返答した。
「任されました。正記くん、『擬似ナイトメア』まで行ける? 明くんは、側にいてあげて」
正記はそのまま、明と紗良に連れられ、訓練所の『擬似ナイトメア』空間にやってきた。外で明が見守る中、紗良は正記のケガの状態を確認する。
紗良が正記のケガに触れると、正記は思わずうめき声を出した。ケガは浅いが、出血もしたため、それなりに痛かった。
紗良は正記のケガから少し手を離すと、こう言った。
「大丈夫、すぐに治してあげるから」
すると、紗良の手から光の玉が出現した。紗良はそれを、ケガを撫でるようにかざした。少しして、正記のケガは跡形もなく消え、痛みも感じなくなった。まるで最初から、ケガなんてなかったかのように。
目を丸くして驚く正記に、紗良が状況を説明する。
「わたしの異能力は『治癒』。その名の通り、ケガを治す力よ。でも、『治癒』にはあなたとわたしの体力と気力を使うから、ケガの具合によっては、少しふらつくかも。気をつけてね」
正記は紗良の力を見て、明が「すぐ治る」と言ったこと、千賀のケガの治りが早かったこと、全てに納得がいった。
しかし、紗良の言った通り、体力と気力を使うせいか、少し疲れた感じがする。正記は、ケガはするものじゃないと、心から思った。
正記と紗良は、少し休んでから『擬似ナイトメア』空間を出た。
すると、『擬似ナイトメア』の外には、明だけではなく、名取もいた。
「よっ、正記。我が情報収集班の班長が君と明をお呼びなんだー。疲れてるとこ悪いけど、一緒に来れるー?」
正記と明は、紗良にお礼を告げて別れ、名取に連れられ、情報収集班の拠点、コンピュータルームにやってきた。
情報収集班の班長……名取がそうでないってことは、名取よりも実力者がいることになるが、一体どんな人なのだろうか?
名取が奥の椅子に腰掛ける人物に声をかけた。
「柚葉ー。お待たせー」
めっちゃフランク! だが、その理由はすぐにわかった。
名取に呼ばれて振り向いた人物は、名取より、いや、正記や明より年下の少女だったからだ。
この子が、情報収集班の班長……?
「よっす、明。学校での問題行動、減ってるみたいだな。そっちの、正記ってやつのおかげか?」
明はため息をつきながら返答する。
「余計なお世話だ。監視するなって、いつもいってるだろ?」
「監視じゃないもーん! 確かな情報ルートで聞いてるもーん!」
少女はそう言うと、正記に目を向けた。
「初めましてだな、阿久津正記。わたしは名取柚葉。一応情報収集班の班長をやってる。柚葉でいいぞ。年功序列はわきまえてるからな」
何だか、個性的な子だな……ん? でも、名取って……
正記は名取に目を向けた。
「お察しの通り、柚葉は俺の妹だよー。悔しいけど、ハッキングとかのスキルは、俺よりすごいからねー」
柚葉はそれを聞き、ドヤ顔をしたままコンピュータに向かった。
兄妹2人共、すごく優秀なんだな……! 正記は1人っ子のため、名取と柚葉をとても羨ましく思った。
あ、でも……
「名取さんのこと、下の名前で呼んだ方がいいですか?」
名取は首を振った。
「今のままでだいじょーぶ。基本柚葉は下の名前で呼ばれた時にしか反応しないからー」
正記は少し不思議に思った。兄妹って、そういうものなのだろうか?
そして、柚葉がコンピュータを操作しながら話し始めた。
「そろそろ本題に入るぞ。最近『ナイトメア』に入った隊員からの報告なんだが、発生してから10年、平原しかなかった『ナイトメア』に、森林や河川が現れるようになったらしい」
柚葉が液晶画面に、森林と河川の図を映した。
「これは隊員たちの話を元に、CGで作ったものなんだが、もしかしたら、『ナイトメア』に何か変化が起きてる可能性がある。明たちは出動の頻度が高いから、気づいたことがあれば、即報告してくれ」
確かに、正記が今まで入った『ナイトメア』の風景は、全て平原だった。なぜ今になって、森林や河川が……? 『ナイトメア』の中で、一体なにが起きているんだ?
ただでさえ不可解な『ナイトメア』だが、さらに謎は深まっていく。




