第6話 4/22(月) それぞれの覚悟vol.2 後編
サッカー部の見学に、一緒に来てほしいという明の申し出に、正記は喜んで答える。
「もちろんだよ! 一緒に行こう!」
明は安堵したのか、表情が少し緩んだように見えた。正記は明に頼られ、とても嬉しい気持ちが込み上げてきた。
そして2人は、一緒に教室を後にした。
グラウンドでは、サッカー部の生徒たちが、ストレッチを行っていた。ちょうどストレッチが終わったところに、正記と明がやってきた。
磯部が2人に気付き、駆け寄ってきた。
「赤城! 来てくれたんだな! 武井と福沢に感謝だ! じっくり見学してってくれ!」
すると、磯部は正記の方を見た。
「君もサッカー興味ある? よかったら一緒に見学してってよ!」
そういって磯部は、部員たちの元へ戻っていった。まるで嵐のようだ……
そのままサッカー部の生徒たちが練習を始めた。その中でも、やはり磯部はキャプテンだけあって実力があるようで、次々とドリブルで守備をかわしていく。武井と福沢が協力して、磯部に食らいついていく。
明はその様子をしっかりと目で追いかけ、観察している。
すると、福沢がボールをコート外に飛ばした。そのボールが、明の前に転がってくる。
正記は、明はボールをそのまま返すと思っていたが、何と明はボールをドリブルして練習に乱入したのだ。
磯部はそれを見て、心を躍らせた。
「面白い! 赤城、勝負だ!」
磯部が明からボールを奪いにかかる。明はボールをキープしつつ、隙を作って股抜きで磯部を突破した。これにはサッカー部員からも驚きの声が上がる。
明はその後も、立ちはだかる武井と福沢も簡単に突破し、そのままシュートも決めてみせ、やりきった笑みを見せた。
すぐに明は、勝手に練習に参加したことを謝罪しようとしたが、興奮したサッカー部の生徒たちに囲まれた。
「赤城! すごすぎるぜお前!」
「どんな練習してるんだよ⁉︎」
「股抜きのやり方、俺にも教えてください!」
明は困惑していたが、どこか楽しそうな感じもあった。正記はそれを見て、とても微笑ましく思った。
すると、後ろで女子生徒の声が聞こえた。
「どうしよう……? そっち、動きます?」
「うーん……ダメ、無理」
正記が声のする方を見ると、ジャージ姿の女子生徒が2人、サッカーボールの入ったカートを引いているが、何やら困っているようだ。
正記は迷わず、女子生徒の元へ駆けつけた。
「どうしたの?」
大人しそうな女子生徒は、急に声をかけられて驚いてしまった。快活な女子生徒が、状況を説明してくれた。
「カートのタイヤが、溝にはまって動かなくなっちゃってさ……持ち上げようにも、女子2人じゃ重くって……」
正記はカートの下を軽く持って、カートの重さを確かめた。
「僕も手伝うよ! 僕が下から持ち上げるから、2人は持ち手を持ち上げてみて!」
女子生徒は2人共、正記の言う通りに持ち手を持ち、正記の合図で一斉にカートを持ち上げた。
すると、タイヤが溝から持ち上がり、カートが動くようになった。
「すごっ! やっぱ借りるべきは男子の力、って感じ⁉︎」
「あ、ありがとうございます!」
正記はお礼を言われて少し照れたが、ジャージにサッカーボールのカートを見て、その女子生徒たちが、何をしようとしているかは見当がついていた。
「サッカー部のところまで一緒に行こうか? 今、友達と見学中なんだ」
そうして、正記と女子生徒たちは、カートを引いてサッカー部のところへやってきた。彼女たちは、サッカー部のマネージャーだった。正記はなんとなく、そんな気がしていた。
マネージャーたちは、改めて正記にお礼を言い、カートをグラウンドのコートへ引いていった。
サッカー部の生徒たちは休憩に入っていた。そんな中、明は他の生徒たちから少し離れたところで、磯部と会話していた。
2人の会話が聞こえてくる。
「……何でみんなに話さなかったんですか? 俺が赤城光の弟だって」
「なんとなく、話しちゃダメだって思ったんだ。それに、俺が惚れたのは君のプレーだ。そこは、赤城光とは関係ないだろ?」
明は驚いた。兄の光は、明くらいの年代のサッカープレイヤーなら、誰もが憧れる存在だった。今まで誰もが、そんな兄と自分を比べてきたのに……
明の頭の中に、過去に浴びせられた罵声が響く。
『赤城光の弟なのに、そんなプレーしかできないのかよ!』
『正直がっかりだよ。赤城光の弟だから、このチームに迎え入れたのに』
『お兄さんも残念だね。こんな弟を持って』
いつもそうだった。勝手な期待をされて、勝手にがっかりされて……でも、それでも譲れない気持ちがあった。それは……!
磯部が明に語りかける。
「俺はさ、こう考えてる。ここにいるみんなには、共通点があるって。君にもその共通点があるか聞きたい。赤城、君はサッカーが好きか?」
そう、俺が、ボールを蹴る理由は……!
「好きなんかじゃありません。超がつくほど、大好きです……!」
磯部はとびきりの笑顔になり、明にこう伝えた。
「もしサッカー部に入部するにしても、しないとしても、君の同意がなければ、赤城光ってことは内緒にする。返事はいつでもいいから、今日はここまでに……」
「待ってください!」
明はそう言うと、磯部にこんなことを頼んだ。
「みんなを集めてもらえますか? 入部の返事と、伝えたいことがあります」
明は思った。今日一緒にボールを蹴り合ったあいつらを信じたい。正記を信じた時のように……!
磯部が部員たちを集め、明がその前に立った。そして明は、意を決して話し始める。
「今日は、その、ありがとう。磯部先輩や、武井、福沢に誘われて、久しぶりに誰かとボールを蹴り合えて、楽しかった。兄貴……赤城光と一緒にサッカーしてた頃を思い出した」
生徒たちから驚きの声が上がる。磯部と正記も、驚いた顔をした。
明はそれでも話し続ける。
「俺は兄貴みたいな天才じゃないし、性格も悪くて、すぐ感情的になる。でも、サッカーが好きな気持ちは、みんなと同じ、いや、それ以上だ。こんな俺でも、サッカー部の一員になって、いいか?」
グラウンドに沈黙が流れた。しかし、すぐにサッカー部の生徒たちから、歓迎の声が上がった。
「何だよそんなこと! 全然気にしねぇよ!」
「一緒にサッカーできるの、嬉しいです!」
「赤城光としてた練習、今度教えてくれよ!」
明の隣にいた磯部が、明の肩に手を置く。
「ようこそ、夢見沢学園サッカー部へ! それと、勇気を出して話してくれて、ありがとな!」
正記はまたサッカーの世界へ一歩踏み出した明を祝福したかったが、ぐっと我慢していた。今は、僕の出番じゃない。そう思ったからだ。
すると、サッカー部のマネージャー2人が、正記に声をかけた。
「君は入部するの? あの赤城って子と一緒に見学してたんだよね?」
「あ、いや……僕はスポーツ苦手で……」
すると、快活なマネージャーのにこんな提案をされた。
「じゃあ、マネージャーやってみない? 女子2人じゃ、力仕事とか大変でさ! 男子マネージャーも、全力募集中なんだ!」
大人しそうなマネージャーも、正記の気持ちを尊重しながらお願いする。
「も、もちろん、無理強いはしません。でも、入ってくれたら助かります!」
断りづらい雰囲気に押された、というのもあったが、明を支えられるなら……と、正記は思った。
「僕なんかで、いいなら……」
マネージャー2人はとても喜んだ。その後自己紹介をされ、快活なマネージャーは、3年の白石真由美、大人しいマネージャーは、2年の成瀬花凛と名乗った。
正記と明、2人の覚悟と成長が、あらたな出会いと居場所を作った。学生生活も、ヒーローの任務も、これから忙しさを増すだろう。
だが、異世界では、不穏な影があった。
廃墟となった街に怪物たちが蔓延る中、1人、不思議な本を抱えて隠れる人物がいた。
「『天啓の書』だけは、何が何でも守らないと……!」




