第6話 4/22(月) それぞれの覚悟vol.2 前編
日曜日までの休みが終わり、再び月曜日がやってきた。先週は波乱の1週間だった。しかし、正記と明にとっては、大事な1週間と言えただろう。
そんな2人は、朝から仲良く登校中だ。出会ってまだ2週間だが、誰から見ても、仲の良い友達に見えるだろう。
すると、明がグラウンドを見て、足を止めた。そこでは、サッカー部が朝練をしていた。
「気になるの?」
正記の問いに、明は穏やかに答える。
「気にならない、っていったら嘘だな。サッカーをやりたい気持ちはあるけど、兄貴の名前を目当てに勧誘されるのが、怖いっていうか、嫌だっていうか……」
明の兄・光は、サッカーU-20日本代表に選出された天才だ。その弟となれば、同じように期待されても仕方ない。
しかし、正記はわかっている。お兄さんがどうであれ、明は明だ。ちょっと怖い時もあるけど、根はとても優しい、頼れるバディだ。だから……
「サッカー部に入っても入らなくても、僕は明くんを応援するよ!」
「何だよ急に……まぁ、でも、ありがとう」
明は少し照れているようだ。正記は思ったことをつい口に出してしまったが、自分でも恥ずかしいと思った。
すると、グラウンドの方から誰かが駆け寄ってくるのが見えた。サッカー部キャプテンの磯部だ。
「君! よかった! もうサッカー部に興味ないのかと思ってたよ!」
そういえば、前に会った時は、明くんが感情任せに突っぱねたんだっけ……磯部先輩も、だいぶ粘り強いな、と、正記は思った。
磯部は熱のこもった勧誘を続ける。
「前の君のトラップ、それとシュート、あれを見て痺れたんだ! 相当努力しないとできないプレーだよ、あれは! この前はお兄さんがなんとか、って言ってたけど、有名人か何か?」
最後の一言を聞き、明の表情が少し曇った。磯部はそれに気づいたのか、話題を変えた。
「そういえばさ、名前、まだ聞いてなかったよね? 学年も」
明は磯部に目線を合わせずに答えた。
「2年の赤城明、です」
「赤城……って、もしかして、赤城光の……!」
磯部のその言葉を聞き、明は校舎の方へ走り去ってしまった。正記は慌ててその後を追いかける。
何かこの感じ、デジャヴだ……
そして2年A組、正記たちのクラスまで一緒に来た2人だが、明は机に座った瞬間、突っ伏せてしまった。
「あ、明くん? 大丈夫?」
正記は心配だった。こんな明を初めて見るから。すると、明は顔を少しだけ上げ、小さな声でつぶやいた。
「やっちまった……」
明はそのまま、正記に胸の内を話した。
「俺は兄貴みたいにサッカーの才能はなかったから、少しでも追いつけるようにって、たくさん練習してたんだ。その努力を褒められたのは嬉しい。けど……」
明の表情が再び曇った。
「兄貴の名前を出されると、比べられるのが嫌で、どうしても逃げちまう。大人もチームメイトも、『赤城光の弟』ってだけで勝手に期待して、がっかりして……努力してきたのは何だったんだ、って思うんだ」
そうなんだ……明のサッカーへの想いが複雑なことを知った正記は、どんな言葉をかければいいかわからなかった。
そんな気持ちを抱えながら、1時限目後の休み時間を迎えた。
すると、男子生徒が2人、明の席までものすごい勢いで来た。
「赤城! お前、サッカー上手いんだって⁉︎」
「キャプテンから聞いたよ! サッカー部、入らないの?」
キャプテンの次は、クラスメイトからの勧誘だ。
この2人、確かサッカー部の……
「俺、武井亮介!」
「福沢芳樹。よろしく!」
勢いのすごい2人だが、明は怯まず、他人への態度で話す。
「お前らのキャプテン、何でそんなに俺に入部してほしいんだよ……」
武井と福沢は、顔を見合わせ、首を傾げた。
「何でって、単純に一緒にサッカーしたいからじゃね?」
「キャプテン、『あいつとサッカーがしたい!』って、子どもみたいに駄々こねてたし」
その言葉を聞いて、明は驚いた。正記も同様だ。
磯部は、明の兄のことを、部員に話していないようだからだ。
すると、2時限目の予鈴が鳴った。武井と福沢は席に戻ろうとする時、明にこう告げた。
「放課後、よかったらグラウンドに来いよ!」
「キャプテンもみんなも、絶対歓迎するよ!」
何だか、拍子抜けだ。明は思った。ここのサッカー部なら、きっと……!
そして放課後、正記は明の気持ちが気になりながら、帰る支度をしていた。
すると、明から声をかけられた。
「正記、お前、時間あるか?」
正記は「うん」と頷いて返事した。ん? 明くん、もしかして……!
「サッカー部に見学に行く。でも、1人だといろいろ不安だから、その……一緒に来てくれないか?」




