第5話 4/16(火)〜4/20(土) それぞれの覚悟 後編
「正記……?」
声をかけられ、正記はようやく母に気づいた。そして起き上がり、無理矢理笑顔を作った。
「お母さん! ごめん、ちょっと寝ちゃったみたい! 夜ご飯作ってあるから、温めて食べて!」
正記はそう言って、母を部屋の外へ出そうとしたが、母は正記の手を掴んだ。
「正記、ちょっと夜ご飯、ご一緒してよ!」
母はそう言って、正記を半ば強引に居間へ連れて行き、夜ご飯を電子レンジで温め、食べ始めた。
「正記、あたしに隠し事してるつもりだろうけど、バレバレだよ? ……それは正記にとって、嫌なこと?」
正記はその言葉を聞き、自然と涙がこぼれ落ちた。明の前でこらえた分まで、溢れ出してくる。
「嫌だよ……明くんの方が、僕よりずっと辛いのに……僕が、明くんを傷つけたから……でも、何て謝ればいいか、わからなくて……」
母は食べる手を止め、正記の頭を優しく撫で始めた。
「正記はその明くんって子が、大切で、大好きなんだね。どうでもいいと思ってたら、そんなこと考えないよ。ただ、傷つけたと思うなら、『ごめん』だけでもちゃんと言うこと! ちゃんと言葉にしないと、伝わらないことはたくさんあるよ!」
すると、母は棚の上にある、正記の父の遺影を見つめた。
「わたしはね、お父さんが急にいなくなるって思わなかったから、伝えたいこと、謝りたいこと、言えなくってすごく後悔した。だからね、正記、言いたいことは言っていいの! 大切な相手なら尚更、ね?」
母の言葉を聞き、正記は涙が止まらなくなった。母は正記が泣き止むまで、ずっと隣にいてくれた。
一方、こちらはHNB施設内の居住スペース。明は部屋の電気を点けず、暗い空間の中で、サッカーボールを抱いたまま、ベッドでうずくまっていた。
すると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「明、入るよ」
声の主は千賀だった。千賀は部屋に入り、照明が点いていないことに驚いたが、そのまま明の方へ車椅子で進む。その手には、シュークリームがのった皿があった。
「最近食欲がなさそうだけど、食べれるかい?」
千賀が明の隣に車椅子で並ぶと、明はシュークリームを手に取り、口にし始めた。千賀はその様子を見て、話を切り出した。
「正記と、ケンカでもしたのか?」
それを聞き、明はシュークリームを食べる手を止めた。千賀はそのまま話続ける。
「やっぱりか。話したかったら話してごらん。1人がいいなら、このまま失礼するよ」
すると、明が口を開いた。
「サッカーには、まだ未練があるんだ。でも、それをわかって、応援しようとしてくれたあいつを、俺は感情任せに拒絶した。せっかくバディになったのに、それを解消されてもおかしくないことをした。俺、嫌われたよ、絶対……」
それを聞いて、千賀は安堵のため息をついた。
「よかった。わたしはてっきり、正記のことが嫌いになったのかと思ったよ」
「バカっ! なんでそんなこと……!」
明はとっさにそう言ったことに、自分でも驚いていた。何で……⁉︎
千賀は明の頭を撫で始めた。
「きっと、明の中で、正記がそれだけ大きな存在になっている証拠だよ。今回は止めないから、思いきり無茶してきなさい」
無茶してこいなんて、初めて言われた……って、そうじゃなくて!
「いつまで頭撫でてんだよ! もうガキじゃねぇんだぞ!」
千賀はそのまま、明の部屋から追い出されたが、明の心境の変化を感じたため、黙ってそのまま部屋から離れた。
そして翌日、今日は土曜日なので学校は休みだ。しかし、正記と明はそれぞれ、出かける準備をしていた。
しかし、正記が家を出てすぐ、持っているカバンが振動しているのを感じた。発生源は、前に千賀からもらった、イヤホン型の無線だった。
スイッチをつけると、千賀の声が聞こえた。
「正記、聞こえるかい? 『ナイトメア』が、来戸町2丁目の児童公園で発生した! 明が先に向かってる! 行けるかい?」
正記は大きく、自信たっぷりな声で返答した。
「すぐに向かいます!」
『ナイトメア』の中では、すでに明がヌシと対峙していた。ヌシは手に扇を持った天狗のような姿をしており、空を素早く飛びながら、明の炎を避けている。
「クソっ! 埒が明かねぇ!」
明が次に火炎弾を放つと、後ろからずっと聞きたかった声が聞こえた。
「『書換』軌道、変換!」
すると、火炎弾がまるで蛇のように軌道を変え、ヌシの足元をかすめた。
もちろん、これをやってのけたのは正記だ。明は正記を見たが、何と言っていいか分からず、すぐに目を背けてしまった。
しかし、その隙にヌシが正記と明の後ろに回り込み、2人を扇で起こした風で吹き飛ばした。
2人は飛ばされた先で、横倒しになっていた。何とか起きあがろうとする明に、正記がこう言った。
「僕、明くんはサッカーが好きなんだって思ってた。僕に当たりそうだったボールを蹴り返した時、明くん、一瞬笑ったように見えたから。でも、お兄さんのことがあったから、明くんの気持ち、簡単に想像できたはずなのに……本当に、ごめんね……」
明はその言葉を聞き、自分も言葉を返す。
「サッカーは好きだ。でも、ずっと『赤城光の弟』として見られてきたから、純粋に楽しめない時もあった。それでも、ボールを蹴って走るあの感覚が、大好きだった。笑ったように見えたのも、気のせいじゃない。感情任せに怒鳴って、本当に悪かった」
そんな話をしている間に、ヌシが再び接近していた。しかし、お互いの気持ちを再確認し、共に立ち上がった2人の目に、敗北の未来は見えていなかった。
「ほぼ確実に倒せる手があるんだ。協力してほしい」
正記のその提案に、明は不敵な笑みを浮かべて賛同した。
「わかった。どうすればいい?」
明は正記から作戦を聞き、右手から炎を放つ。しかし、先程と同様に、空を素早く飛ぶヌシには当たらない。
すると、明は左手からも炎を放ち、右手からの炎を避けて飛んでいたヌシを一瞬足止めした。そこにできた隙を、正記は見逃さなかった。
準備していた自身の異能力を、ヌシに発動する。
「『書換』重量、増加!」
すると、ヌシは急に重たくなった自分の体に耐えきれず、地面に落下した。
混乱するヌシに、明が炎でとどめを刺し、ヌシは灰と化し消え去った。
すると、明が正記の方へ歩いて行き、手をかかげた、正記はそれに応え、明の手を叩く。そのハイタッチの音と共に、『ナイトメア』は消え去った。
「帰ろう、HNBに!」
「帰るか、HNBに!」
児童公園の『ナイトメア』が消え去ってすぐ、正記と明はHNBの施設に帰ってきたが、正記が「付き合ってほしい」と、風見の工房に、共に足を運んだ。
工房の中では、風見が武器の手入れをしていたが、すぐに2人に気づき、作業の手を止めた。
「来たな。で、覚悟は示せるか?」
正記は少し不安だったが、明の顔を見て、大丈夫だと思えた。そして、覚悟を口にする。
「自分も味方も傷つくのは、やっぱり怖いです。でも、それを恐れて、一歩を踏み出せない方が、もっと怖いです! 僕は『守れる』ようになりたい! 明くんと一緒に、手の届く限り、これ以上の傷ができないように!」
風見は正記の言葉を聞き、大笑いした。
「妄言だな! 自分が一歩踏み出せば、全て守れると?」
やっぱり、ダメだったかな……しかし、風見は正記の目を真っ直ぐ見て、予想外の言葉を返した。
「合格だよ、正記の坊主! 理想論ではあるが、語っている時の目が真っ直ぐだった! 俺の武器を扱うのに、ふさわしい覚悟を聞かせてもらった! さぁ、どんな武器がいいんだ?」
正記はその言葉を聞き、武器の要望をすぐに答えた。
「盾をお願いします! 腕に装着できるものを! みんなを守れる、頑丈なものを!」
「盾か……なるほど! お前さんらしいな! すぐに製作に取り掛かる! 時間はかかるが、最上級のものを作るさ!」
2人の間に入った亀裂は、いつの間にか元通りになった。むしろ強固になり、簡単には裂けないだろう。
正記の覚悟は見届けた。次は、明がサッカー、そして過去と向き合い、覚悟を決める番だ。




