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水中戦。美男&美女VS奇襲組

ボートで沼を渡っている誘拐犯の一味を全員で追いかけることで話は纏まった。


沼を泳いでボートに近づき、奇襲を掛けるグループを奇襲組。

泳げない人たちは、沼の周りを歩いて、向こう岸まで向かう徒歩組。


「奇襲組がボートに追いついたら戦闘に入る。徒歩組は時間が掛かっても構わないから、向こう岸にまわって遠方から応戦してくれ」


奇襲組筆頭のヒルが、身軽になろうと派手な上着を脱いで、フウに持たせている。フウは不服そうにしながらも、上着を預かっている。彼はいかにもスポーツマンの見た目をしているが、全く泳げないので徒歩組だ。


肩に怪我を負ったばかりのシンだが、無理矢理、奇襲組に立候補した。

皆には隠しているが、シンには不良だった頃があり、現役不良のヒルに次いでタロット魔法が上手い自信がある。このことは、仲のいいテイやフウ、テンには勿論、クラスメイトの誰にも話したことがない。不良をしていたこと自体が、シンにとっては黒歴史だからだ。


奇襲を仕掛ける相手である、ボートに乗った黒いローブと白いドレスの二人組は、かなり強い。

普通は手から直接タロット魔法を出すものだが、奴らは改造銃を用いて、タロット魔法で形成した『風』や『水』の弾丸を込めて攻撃してきた。


この国では民間人の銃所持は当たり前ながら違法である。その上改造銃を持っていて、シンたちの同級生であるトルカを誘拐した、最低でも六人以上の極悪集団だ。

戦闘になれている大人を相手に戦うのだから、少しでも喧嘩になれている自分は奇襲組に混ざった方がいいと、シンは判断した。


シンも他の奇襲組と同様に、泳ぎやすいように薄着になる。制服のブレザーは、誘拐犯の一味から受けた攻撃によってボロボロになっている。二度と学校には着ていけない。


しかし、貧乏で学費に困っているテンならまだ着そうだとシンは思った。テンが制服のほつれた袖を縫って着ていることをシンは知っている。


痛む左肩が動かせなくて、脱ぐのにモタモタしていると、頼んでもいないのにテイが手をかしてくれた。さらに上着を預かってくれて、丁寧に畳み始めている。


中に着ていたシャツも脱ぎ、テイに手伝ってもらいながら肩の怪我に巻く。すぐに血がしみ出してくるが、直接怪我の部分を圧迫することで痛みが少し和らいだ。


ズボンの裾を膝上まで捲る。

周りを見渡すと、ハンがズボンを思い切り足元まで下ろしている。女子たちが慌てて顔を反らした。


ハンは周りからの視線に気づいたのか「水着だから」と強調している。彼は水泳部だ。部活ですぐに泳げるよう、常に水着を制服の下に履いているそうだ。


蒸れたりしないのだろうか。それだけが、シンは無性に気になった。


同じく奇襲組に手を挙げたヨウは、ブラウスが汗で透けて、スポーツブラが露わになっている。ブラジャーにも体型にも色気はないが、早く泳げそうな感じはある。


その間、シンの制服はテイによって綺麗に畳まれていた。袖や裾を丁寧に折り終わると、「よし」と顔を上げた。


「適当でいいんだけど」

「寒くなったら、また着るでしょ。皺を伸ばしておかないと」


なんだか母親が幼い子供の面倒を見ているようで、シンは情けなくて頭を垂れた。昨日と今日で、かなり、しっかりした部分を見せたつもりだったのだが。


奇襲組の準備が整ったところで、リオが先頭を切って沼に入った。沼の水に頭まで使ったあと、浮き上がってきて一言「重てえ」と愚痴った。かなり服が泥水を吸って重しになるらしい。


次々に沼に入っていく。ヨウが入り際に、キョウコの方を振り返っていた。腕を組んだキョウコは、ヨウと目が合うと顔をそらした。


シンは最後に水に浸かる。沼の底から引っ張られているかのごとく服が重い。

怪我でかなり血を流したこともあり、シンは泳いで去って行くボートに追いつけるか不安になってきた。


奇襲組はリオを筆頭に泳ぎ出す。シンは慌てて息を吸い込み、潜って泳ぎ始める。

沼の水は視界が悪く、目前一センチも見えない。時々そっと顔を上げて、方角を確認した。


ハンの泳ぎには無駄がなく、すぐに先頭に出た。奇襲組の水を掻く音は、敵がボートを漕ぐ音にかき消されている。


忍び寄ったハンが、ボートに手を伸ばす。

黒いローブの男は、裾を翻して振り返った。改造銃を抜いて構えている。発砲音が響いて、白いドレスの女が振り返った。慌ててオールを置くと、ドレスをたくし上げて、太もものベルトから改造銃を引き抜く。


二人から連射される銃撃に、ハンは水中に潜った。

シンも沼の中に身を隠す。


「おりゃあ!」と威勢のいいかけ声に、シンが自ら顔を出すと、リオがボートに飛び乗っている。

木製のボートは大きく傾き、その上に立っていた男女は、バランスを取ることに必死になっている。

リオが男の拳銃を掴む。互いに一歩も譲らず、揉み合いになりながら拳銃を奪い合っている。銃口が上に向けられ、乾いた音とともに上空へ弾が放たれた。


水中に潜伏していたハンも、リオに続いてボートに飛び乗った。

女がリオに向けて構えた銃を手ではたき落とし、銃はボートの中に落ちたが、二人とも気づいていない。シンは銃を拾ってしまおうと、泳いでボートに近づく。


シンと同時に、ヨウが銃を拾おうとボートに手を伸ばす。

白いドレスの女が振り返り、目が合う。銃を奪うことは叶わず、シンの水上から出した頭が、女に蹴り飛ばされる。

沼の水を思い切り飲んでしまい、咳き込みながら顔を上げると、ヨウと女が揉み合いになっていた。拳や蹴りを互いに繰り出し、双方弱りつつある。

ヨウの一瞬の隙を見て、女が拳銃の底で彼女の側頭部を殴りつけた。

そのまま沼に落ちるヨウ。


ヒルがボートに手を掛け飛び上がり、空中で女を蹴り飛ばす。

女は沼に落下。側には先程ボートから落ちたヨウがいた。すぐに拳銃を女から奪い取ろうとするも、女は強い力で握っているようで、奪い取るには至らない。


リオはローブの男を後ろから押さえつけていた。リオが男に蹴りを繰り出すが、躱されて、リオの鳩尾に膝蹴りが入った。


「ごぼっ」リオは胃の中身を吐き出し、くの字に体を折る。

その隙に男の蹴りがリオに直撃し、ボートから蹴り落とされる。


ローブの男は拳銃本体を振り回し、ハンの額にクリティカルヒット。

額から吹き出す血に前方が見えないハンを、男は蹴って沼に蹴落とした。


そしてボートの上に一人になった男は、再び拳銃を連射し始めた。しかし仲間の女を気に掛けているため、女と揉み合いになっているヨウも、男の銃撃の範囲から外れていた。


リオが銃撃を受けながらボートに近づいていく。

そして男のローブから出た脛を拳で殴りつけると、男の整った顔が醜く歪んだ。


リオはボートに乗ると、拳を繰り出す。男からは、リオより数段素早い蹴りが出る。二人の応酬は互角とは成らず、リオはとうとう膝を着いた。


シンの近くに水中を泳ぐ影。頭を出したのはシマだ。二人がかりでボートの片側に全体重を掛けてやる。ボートは立っていられないほど斜めになり、リオ諸共、ローブの男を転げ落とす。


◇◇◇


徒歩組が歩く沼のほとりは、水を含んで柔らかく、また木々が密集していた。

走れないほど不安定な道なき道を、フウを先頭に早歩きで進んでいく。


上から虫でも降ってきそうな、普段のキョウコであれば絶対に通りたくない場所だ。枝葉が体にぶつかる度に、手で払いながら歩く。


「また誰か落ちた」


 列の前の方を歩いているだろうテンが、目を細めながら沼の戦いを見て叫んだ。


「負けちゃうよう」ノワは慌てふためき、足元がおろそかになって転び掛けている。


「くそ、泳げないばっかりに」フウが悔しそうに吐き捨てた。


キョウコは先程から様子のおかしいテイが心配になって後ろを振り返ると、沼の方を手を祈る目で見ている。シンの姿を目で追っているのだろう。離したくなかっただろうに。一緒に沼のほとりを歩くよう、何度も勧めていたのだから。


キョウコ自身も、ヨウを離したくなかった。

ずっと一番仲が良かったはずなのに、ここに来て、キョウコの制止も聞いてくれない。危険な目に遭って欲しくないだけなのに、周りの野郎どもは、シマのやつまで、ヨウの肩を持った。


そんなに叱るなと言われたけれど、命を失っては元も子もないのに。


キョウコも目をこらして沼の様子をうかがう。少しでもヨウの姿がはっきり見えればと、木に掴まって沼のほとりギリギリまで近づいた。ヨウが、女と揉み合いになっている。あれだけ男の人数が多いのに、なんでヨウは一人で女と対峙する事態になっているのか。


「よし」キョウコは自分の太ももを叩いて渇を入れる。そして上着を一枚脱いだ。


「キョウコちゃん?」

 列を外れたからだろう。ノワに心配げに呼びかけられる。


「汚いものが、とても怖いの。だから本当は泳げるのに、嘘ついた。ずるいことしてごめんね」


キョウコはブラウスの袖を捲り、沼に片脚を入れる。


「キョウコちゃん」ノワが叫んでいる。フウにも煩いくらい大きな声で呼び止められる。


皆に呼び止められる中、キョウコは沼に飛び込んだ。

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