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目に見えぬ弾丸が掠めるのは『戦車』

「この沼を渡らないと向こうへは行けないのだろう? なら渡るしかないね」


 シマは人差し指を立てて言った。沼のほとりには数隻の木製ボートが停められている。フウがボートの側にしゃがみ込む。


「見た感じ三人はボートに乗れそうだよな」

「このボート、ひっくり返ったりしないかしら」


 キョウコはボートの縁を掴み、押したり引いたり、揺すったりして耐久性を確認している。そこにシマが近寄り、彼女の肩に手を置く。


「心配性のキョウコちゃんは僕と同じボートに乗ろう。僕が漕ぐからね。君は安心して乗っているといいさ」


 キョウコはシマの手を払いのけ、「不潔」と言ってそっぽを向いた。シマは思い切り項垂れる。


「だからキョウコは男の人嫌いだって言ってるのに。毎回話しかけるんだから」


 ヨウがシマをバシバシと叩きながら慰めている。


「野郎なんて菌よ、き・ん!」


 キョウコは念を押すように言った。シマ以外の男連中も居心地悪さに目を反らした。

 一方シンは、ボートの組み分けが終わるのを待っていた。隣でヒルが人数を数えている。その数えている指が止まり、そのまま沼の方を指した。目を細めるヒル。


「誰か来る! 昨日とは別の奴らだ!」


 シンもそちらを見ると、小さなシルエットが少しずつ近づいてくるのが見える。黒い服と、白い服だ。そのうち、黒い方はボートの上に立っている様に見える。


「ボートに乗り込むぞ!」


 そう言ってボートに足を掛けるのはリオ。


「来るの待てば良いだろ?」


 フウがリオの服を引っ張る。


「待てっかよ!」


 制止を振り切り、リオが両足をボートに乗せたとき。


 パァン!


 沼地に響き渡る乾いた音。


「リオ! 血ぃ!」


 シンは叫ぶ。リオの頬肉が削げ、血が噴き出している。


「逃げろ!」


 叫んだのはヒル。音がした方を振り返ることもなく、一斉に走る。一番前を逃げているのはハンだ。駐車している車の影に転がり込む。大人数が、車の影に隠れようと押し合う。


「縦に並べ!」


 ヒルが呼びかける。車の影の両脇からはみ出さないよう、縦に並んで隠れる。


「後ろ、這いつくばれ! 頭撃たれるぞ!」


 ヒルが後ろを振り返って叫ぶ。


 パリィン!


 後部の窓ガラスを銃弾が貫通する。


「奴ら近づいて来てる。このまま隠れてる訳にはいかないよ」


 シンより後ろの方で、テンが言った。


「弾を込めてるところを狙う」


 銃弾を装填しているとき。この短時間に反撃するというのだ。

 その後は全員が頭を覆い、銃声が止むのを待った。十発、十五発、二十発――――


「そろそろ弾が途切れるころじゃないのかよぉ!」


 ハンが叫んだ。


「この車耐えきれるの?」


 キョウコが心配している。

 テイ、テイはどこだ。シンが見回すと、真後ろで体を縮こまらせて怯えていた。


「薬莢が落ちてねぇ。空砲か?」


 地面を探りながらヒルが言った。


「俺が撃たれたんだよ! 弾は込められてるはずだ! ほら!」


 そう言ってリオは頬の傷口を指さす。


「もう岸に着きそうだ!」


 ハンが車の隙間から向こう側を覗いて叫んだ。

 尽きない銃弾。薬莢が落ちていない。しかし殺傷能力がある――――


「もしかしたら、あの銃!」


 シンは閃く。全員の視線が、シンに集まった。

 弾丸を受け止めていた自動車は、穴だらけのチーズのような有様だ。シンは耳を塞いで、止まぬ銃声を過ごした。シンの他にいる十一人のクラスメイトたちも、縮こまって恐怖と戦っている。

 ヒルは、銃声が止んだら向こうに攻撃を仕掛けようと言っていた。しかし彼の予想とは違い、切れ間無く飛んでくる弾丸。なぜだ。シンは自分の持っている知識から、答えを見つけようと試みる。強く目をつぶる。シンの心に一生の傷を残した記憶。あの時をさらに更に遡り――。


「分かったぞ! 奴らはタロットの術を、銃弾の代わりに詰めてるんだ!」


 シンの声が聞こえた数人が振り向く。ほぼ同時に、自動車が弾幕に耐えきれず大破した。


「もう隠れるところが無い、突っ込むぞ!」


 コンマ一秒。ヒルが先頭を、敵へ真っ直ぐ走っていく。次いでリオが地面を蹴る。シンは、周りの動きに付いていくように沼の岸へ走る。


 パン! 一隻目。

 パン、パン! 二隻目、三隻目。

 四隻、五隻、六隻――――。岸辺にずらっと浮かべてあった木製ボートが、敵の手によって一隻残らず木片と化す。


「くそっ!」


 リオは一瞬立ち止まったが、すぐに沼へ片脚を突っ込んだ。敵は目の前。少し泳げば届きそうだ。敵の銃声が突如止まり、静寂が走る。ボートを漕いでいた白い服の女が、黒いローブの男を見上げる。


「流石ですぅ! うっとりしちゃいましたわ」


 女はオペラ歌手の様に腹の底から声を出していて、ローブの男は、これまた高らかに笑う。


「ありがとう。次はツーカードオラクルを出そうか」


 男の声があまりに綺麗で驚く。沼に入ることに気を取られていた何人もが、一瞬驚いて顔を上げた。シンも顔を上げたが、はっきり男の顔が見えるほど近くはなかった。それより目の前でリオが、沼に足を入れたきり抜けなくなっている方が問題だ。沼は想像より浅いが、柔らかい泥に足を取られる。底なし沼のようだ。少し離れたボートの上で、女は男の方にしなだれ掛かっている。


「二人で共同作業ができるなんて、きゃーっ! 光栄ですぅ!」


 向こうの船がガタガタと揺れている。女が立ち上がったことで、纏っていた服がドレスであると判る。目の前ではヒルが、沼に片脚が嵌まったリオを引っ張り挙げている。


「「ツーカードオラクル」」


 男女二人組の歌うような詠唱が沼地に響き渡る。同時にリオが沼から這い上がる。大勢が、次の攻撃に備えて逃げ場を探す。来た道を引き戻そうにも、道はしばらく真っ直ぐ延びている。狙撃されたら隠れようが無い。

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