スリーオラクル発動!選ばれたのは『○○』
ボート上にいる男女からのタロット攻撃に構える。しかし一向に衝撃は来ない。
「すみません! 私が合わせられなかったばかりに!」
ドレスの女が、慌てふためいて謝り倒している。ローブの男が、女の手を取って両手で包み込んだ。
「大丈夫、落ち着いて? 僕の口の動きをよく見て。今度こそ合わせよう」
この隙を狙って、リオが再び沼に入ろうとする。大勢がそれを慌てて止める。シンもリオの服の裾をしっかり掴む。
「やつらはタロットを発動して、拳銃に詰めてるはずだ」
「お、おかしいだろ! タロットっていうのは体の持ってる気質っていうか。目には見えないものじゃないのか? 銃弾を強化するなら分かるけど、銃弾自体をタロットで作り上げるなんて聞いたことがない」
ハンは、リオの背中を引っ張りながら聞き返してくる。シンは、未だ諦めず沼に入ろうとするリオの裾を掴んだまま続ける。
「普通はできない。つまり向こうにいる奴らは、とてつもなくつよい、化け物みたいな奴って事だ! 分かったか」
最後の一言は、ハンだけでなく、全員にというか、特別リオに聞かせるように大声で念を押した。
「考えてる暇はないだろ! これ逃したら終いだぞ!」
「タロット習ったばっかの俺らじゃ、ろくな技が使えない。どうすんだよ!」
フウが叫ぶ。
「「ツーオラクル!」」
来た。そう思ってシンが顔を上げた頃には、既に男の銃口からは渦巻く風が、女の銃口からは風を纏った水の渦が飛び出していた。
全員が吹き飛ばされる。苔むした土の上を転がる。シンは方向感覚がなくなるまで転がった。
「立ち上がれ! 寝っ転がってたら殺されんぞ!」
「殺す殺す殺す殺す! ぶっ殺してやる!!!!」
リオがふらつきながら立ち上がる。全員が、気合いで立ち上がる。シンはひどい目眩を覚え、体中の痛みに意識をつなぎ止められている状態だった。
シンは体の痛みをこらえながら立ち上がる。目の前でリオが、腕を押さえ足を引きずりながらも歩いて行く。ヒルが後ろから呼ぶ。
「待て、リオ! 俺らも一発かますぞ!」
「っしゃあ!」
リオが振り返り拳を掲げる。
「ツーカードオラクルでいく」
ヒルの言うツーカードオラクルとは、同時に二人にタロットの効果が付与される技だ。
「実戦したことないから、俺どうやったら良いか分かんねえ!」
フウが困ったように言う。
「適当にやればいい。隠れてダチとやったことあるだろ」
適当に返すヒル。
「経験あるわけあるか! どこぞの不良じゃないんだぞ!」
ハンがヒルを睨付けながら言った。
「ツーもスリーも一緒だろ。やるならスリーオラクルだ」
シンはヒルに提案した。
「効率的な方がいいわ」
キョウコが服の泥をしつこく払いながら言う。隣ではヨウが、キョウコの服の泥を払ってあげている。
「キョウコらしいね」
ヨウがキョウコに笑いかけた。
「そんなところも素敵さっ」
やっとの事で立ち上がりながら、シマが言った。当のキョウコは、シマの事をにらみ返している。肩を落とすシマ。
「もっ、って言うのがなんか嫌だよねー。短所の前提で言ってる感じ」
シマの眉毛は八の字になってしまった。
そのやり取りはスルーして、ヒルが支持を出し始める。
「属性を纏ったら、石を全力で投げつける。強化されてたら、上手くいきゃあ殺れる。行くぞお前らあ!」
「かけ声は、いっせーのーせ! だよ!」
ノワが手をメガホンの形にして呼びかける。ヒルが目を丸くしてノワを見た。大勢の「オッケー」という返事が返ってくる。ノワが大きく息を吸う。
「いっせーのーせ!」
「「「「「シャッフル! スリーオラクル!」」」」」
その場にいる全員が、技の発動を確信した。まるで一人が喋ったように揃った詠唱だ。シンは全身が泡立つような興奮を覚える。瞬間、シンは他のクラスメイトと共に一纏めに集まっていた。目の前に選出されたのは、ハン、ノワ、ミカミの三人だ。左から『吊された男』『運命の輪』『死神』。
「震えてる」
シンの隣で、テイが呟いた。ハンが子鹿のように脚を震わせている。隣のノワは背中から張り切っている様子が伝わってくる。ミカミの背中は何も語っていない。誘拐事件が起きて、しれっと何ヶ月かぶりに現れる――彼の脳みそを覗いてみたいものだと、シンは思った。
「何で俺じゃないんだーっ!」
リオが吠える。
「メンツが不安だ」
フウの正直な性格が出た。シンは心の中で同意した。一方は死亡率ナンバーツー。一方は見た目も心も小学生。一方はつい昨日まで引きこもりだったのだから。
そう考えていたのも束の間、シンは異変に気づく。
「まずい、属性を纏ってない!」
ハン、ノワ、ミカミの三人が属性を纏っていない。スリーオラクルは成功したはずだ。
「どうなってんだ!」
ヒルが叫ぶ。三人は当初の作戦通り、石を振りかぶり――投げた。
ノワとミカミの石は沼の凄くて前の方に落ちる。ハンの投球はホームも良かったが、敵方の乗るボートの縁にぶつかって落ちた。属性の補正が掛かっていない、三人の素の投球力だ。
「水、火、水だ」
シンが言うと、テイが「えっ」と聞き返した。
「属性のこと。水と火は、互いを打ち消し合うんだ」
「くそっ」
ヒルが地面を踏みならす。
「次が来る! しゃがんで!」
シマが叫び、全員が屈む。ボートの上で男女二人が、拳銃を構えていた。焦ったノワが敵に背中を見せて逃げ出す。
まずい!
シンは気がつく。自分の体が、目前のヒルとリオを押しのけて前へ飛び出していることに。




