♯41 姉妹と引越しの取り決め
「えっと。どういうことですか? なんで俺が王宮に行かなければならないんでしょう」
グレンさんが「王宮に来てくれ」と言ってから四十分。ようやく話が再開した。あの後、レティアさんが朝食を運んできたので話はいったん中断してしまったのだ。
朝食はいつもと一緒でパンとスープだったのだが、最近どうも味噌汁と白米、焼き魚の日本料理が恋しくて仕方がない。
ない物ねだりだと分かっていてもどうしても食べたくなってしまう。今日はグレンさんも一緒に食べたので、いつもはしない話などもいっぱいした。
食事を終ったのが十分くらい前でそこから歯磨きなど朝の用意をして、今さっき話が再開したところなのだ。
朝の用意と言っても学校に持っていくものを確認したりする元の世界のような朝の用意ではなく、歯磨きや荷物の整理整頓などのごく簡単な事だ。
それが終わって食堂に戻ってきた俺がまずはじめに聞いたのは王宮にいかなければならない理由だった。
別に今日これから予定があるわけでもないので、困ることはないが、王宮に呼び出されるほどの事をした覚えもない。
俺が王宮に呼び出される理由として考えられるのはシャルに関することだけだと思うが、シャルを泣かせたりしたことはない。
「王女殿下と婚約するに当たり、いろいろ面倒なことが起こるので、手伝ってくれとの事です」
「手伝い?」
「はい。ですがそれは建前で、本音は王女殿下にお会いしたいのでしょう。後は、大きな家を王都に建てたので、そこにマサト様に住んでほしいとのことです」
凄い、見事な本音と建前の使い分けだ。でもそうだよな。王女と婚約するとなると、結構な反発が予想されるだろうなー。
貴族とかは王女と息子を結婚させて自分は出世をとかを考えてそうだし。そうなると、王女と婚約している俺は邪魔物となるわけか。
シャルとの婚約を公にするためには俺もきちんとした地位が必要なんだろうな。今ここで考えててもしょうがないか。
とりあえず話だけでも聞きに王宮に行くか。
「反対です」
「分かりました、いつ行けばいいですか?」ってグレンさんに返そうとしたところ隣からシャルが「反対です」と、割って入る。別にいいじゃん、話聞くだけだし、宿は心地いけど、一か月約銀貨五枚の出費は正直言って結構つらいし。
「お、王女殿下、それはなぜですか?」
グレンさんもまさかシャルから反対されるとは思っていなかったらしく、急な反応に戸惑っているようだ。平静を装っているが、内心かなり驚いているのだろう。ちょっとだが声が上ずっている。
「私は一般人の生活を体験しにここで暮らしているのです。それでは意味がなくなってしまいます」
おおっと、もっともな正論がきました。確かに一般人の暮らしを体験しに来ているのに王様から俺が貰うかもしれない家に住んだら意味がないからな。グレンさんも正論なので何も言い返す事ができない。
「ふふっ」
すると、隣でリーナと花音が声をあげて笑う。笑いをこらえようとしたのだろうがこらえきれずに笑いが漏れてしまったようだ。何が面白かったのか俺には分からない。ティーナとグレンさんも分からなかったようで三人そろって首をかしげてしまった。
「シャル、嘘はだめだよ」
「そうそう」
リーナと花音がこんなことを言う。嘘? さっきの話でどこかに嘘があったか?
「な、何のことですか? わ、私嘘なんてついてませんわよ」
すらすら言いたかったのだろうが声が震えている。これを聞いたら誰だってシャルが動揺していると、気が付くだろう。でも、どんな嘘をつたんだ?
「だってさー、夜寝言で、マサト様―。とか言ってたし、それにレティアさんとも仲いいもんね」
「だからマサトとの初めての思い出があるプラスレティアさんと離れたくないんだよねー?」
なぜ二人で分けた? それが謎だ。一人ですべていえばいいじゃないか? へー、でもシャルってそんなこと言ってたんだ。婚約者にそう思ってもらっているのは結構嬉しい。それに、レティアさんと仲いいのも初めて知った。レティアさんの年齢は知らないけど結構お姉さんタイプだと思う。前に年齢聞いたら六食くらい俺のご飯が出てこなかった。それからは絶対に年齢を聞かないようにしている。
やはりどこの世界でも女性に年齢を聞くのは駄目らしい。
そういえば俺はシャルの年齢も、ティーナ、リーナの年齢も知らないな。
花音は俺と同じ高校一年生だって言っていたから恐らく十五歳か十六歳だろう。
高校受験失敗していなければだけど。
おっと、話がそれた。
でも、レティアさんと離れるのが嫌だからって、確かにそれを隠してもっとも理由で離れるのを拒否したのならそれを知っている、リーナや花音が笑ってしまうのも納得だ。
「そうなのですか? 王女殿下?」
「い、いいえ、もちろん違いますよ」
口では違うと言っているけど声が震えているのでこの場にいた全員が(あ、これはその通りだな)と思ったに違いない。
皆がシャルの嘘の下手さに呆れているとどこからともなく
「シャルちゃーん」
と、声が聞こえる。声が聞こえた数秒後に人の限界を突破した、もしかしたら車を余裕で抜けるかもしれないそんなスピードでレティアさんがシャルの首に抱きつた。あれ? レティアさんってこんな人だったけ? もっとおとなしい性格だと思っていたがそんな俺の想像がガラガラと、音をたてて崩れ去っていった。
だがどうやらレティアさんとシャルが仲いいのは本当みたいだ。レティアさんは
「シャルちゃん。そんなこと思っていてくれたの。あいがとー」
とか言いながらシャルの頬の自分の頬をくっつけてすりすりしているし、シャルはシャルで
「お姉さま、やめてください」
とか言いながら満更でもなさそうだ。いつの間にこんなに仲のいい姉妹みたいになっていたのだろう。「お姉さま」と、呼ぶあたりシャルはレティアさんを本当の姉みたいに慕っているみたいだ。こんな雰囲気で誰もがなんといえばいいか、わらない様子で互いに顔を見合わせるばかりだ。
「おっほん」
こんな状況が長く続いてはいけないとでも思ったのか、グレンさんがわざとらしく咳払いをする。確かにこの状況を打開するには一番いい方法だと思う。
「では、確認しますが、王女殿下がここを離れたくないのは、マサト様と初めてすんだ場所だからでよろしいですかな? それとレティアさんとせっかく仲良くなったのに離れたくないと」
グレンさんがシャルに確認する。レティアさんがシャルにまた引っ付こうとしたので、俺と花音の二人がかりで強制的に引き離す。
それからまた引っ付こうとしたらいけないという事で一番離れた席をティーナの横に置き、そこに座ってもらう。これで少しはおとなしくなるだろう。
シャルは恥ずかしいのか少しうつむきながら首を縦に振った。
レティアさんがそれを見てまたシャルに抱き着こうとしたので俺と花音それにリーナとティーナ、グレンさんまでもが参戦して、必死に抑え込んだ。
まるで、暴れくるう牛を鎮める。そんな気分だ。
とても力が強くて、最初はティーナとリーナだけで抑えられるかな? と思ったけどどうやら無理そうなので、俺が参戦したのだがそれでもまだ押し負けそうだったので花音にも参戦してもらったのだが、それでも無理そうだったのでしかたなくグレンさんにも参戦してもらった。
俺は筋肉ムキムキとは言わないが普通に筋肉はあるし、力も強いと思う。
それでも押し負けるほどだった。火事場の馬鹿力というやつだろうか。
「人間本気になればここまで力を出せるんだ」と、思い知らされた。
「分かりました。ではこうしましょう」
何が分かったんですか、グレンさん? そして、どうするんですか?
「レティアさんにマサト様のお屋敷のメイド長となってもらいましょう。それでいかがですかな?」
「分かった。それでいい」
どうやら納得はしてくれたようだ。
ちょっと待ってください。さっき聞き捨てならない単語がいくつかあったんですが?
お屋敷。うすうす気づいてたけどやっぱり俺が住むのはお屋敷なんだ。それに、メイド長ってどんだけいい身分なんだよ。
と、まあこんなことを考えていた俺だがここで言えるはずもなく。あれよあれよという間に来週王宮に行くことが決められてしまったのだった。
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次回は十月十一日に投稿します。
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