アンタッチャブル
パーシュ=カーニス評議員の反応は、なんだか怪しげ。神がかり行者に近づかないほうがよいとは、どういう意味だろう。
その点を尋ねてみると、パーシュ=カーニス評議員は、一瞬、口ごもり、
「それはですな…… ひと言で言えば、どのような世界にもタブーというものがあるということですな。つまり、この件に関しては……」
パーシュ=カーニス評議員は説明を続けたが、何を言いたいのか、どうにもよく分からない。ただ、とにかく神がかり行者がアンタッチャブル的な扱いを受けていることだけは分かった。
「では、その神がかり行者とは、一体、何者なのでしょう。パーシュ=カーニス評議員はご存知ですか?」
「正体ですか。彼はもともと魔法アカデミーの魔法使いだったのだが、ちょっとね……いや、ただ、あなたが帝国の貴族社会で生きていきたいなら、この件に深入りしない方がよろしいぞ」
ますます怪しさ大爆発の神がかり行者だけど、あまりしつこく尋ねて印象を悪くしても仕方がないので、
「世間的には、知らないほうが幸せということもありますからね」
「そういうこと。あなたは聡明な人だ。出世するためには必要な資質ですぞ」
パーシュ=カーニス評議員は「ハッハッハッ」と笑い声を上げた。わたしは内心では疑問で一杯だけど、とりあえず、その場は適当にお茶を濁して……
パーシュ=カーニス評議員は閲覧室で調べものを済ませると、そそくさと部屋を出た。わたしはその後も書写を続けたが、そのうちやっぱり飽きてきたので、午後の適当な時間に切り上げることにした。
「今日はこのくらいにしましょう」
「うにゅ? マスター…… 終わった?」
プチドラは目をこすりながら顔を上げた。寝転がって居眠りでもしていたのだろう。
「しっかりしてよ。これから神がかり行者の演説を聴きに行くわよ」
「えっ? でも、あれは……」
「いいのよ。あんな調子で『近づくな』と言われれば、へそ曲がりでなくても近づきたくなるものよ。メイド服に着替えていけば、分かりはしないわ」
わたしは大急ぎで屋敷に戻り、質素なメイド服に着替えてプチドラを抱き、馬車で市街地の公園に向かった。公園の手前で馬車を降り、人に見られないように慎重に公園に足を踏み入れると、果して、神がかり行者は、今日もこの前のように、
「愚かな大衆諸君!!!」
ボロボロの衣服を身にまとい、白髪を振り乱し、何やらわけの分からないことをわめいていた。
「偽りの町に住み、偽りの王を戴き、偽りの平和を貪っている大衆諸君、おまえたちは騙されている。しかし、騙されていることに気付かない。そういうやつを馬鹿者と言うのだ!!!」
いきなり「馬鹿者」とは穏やかではないが……
「馬鹿者! あほんだら!! くそったれ!!! 満身の呪詛を込めても言い足りることはない!!!」
激しい罵詈雑言が続いた。一体、なんなんだ???




