基地外演説
物陰に隠れ、神がかり行者を遠巻きに眺めていると、
「偽りの国、偽りの王、偽りの都、偽りの……」
誰も(わたしを除いて)聞いていないのも構わずに、神がかり行者は杖を振り回して喋りまくっていた。自分の弁舌に陶酔しているようにも見える。
「すべて偽りばかりだ。誰もが偽りを望み、居心地のよい偽りの世界での安逸をむさぼっている! そうだ、偽りだ! ウソだ!! 虚妄だ!!!」
ウソとか偽りとか、穏やかな表現ではないが、早い話、この世界はすべてウソ偽りで満たされているということらしい。その偽りに気付いているのは自分だけと言いたいのだろうか。面白そうなので、神がかり行者と直接話をしてみようと物陰から身を乗り出した。
すると、プチドラは後ろからスカートの裾を引っ張り、
「あの、マスター、あまり怪しげなものには、近づかない方が……」
「どうして? 気になるじゃない。あの人、世界がウソや偽りで一杯だと言ってるでしょ。だったら彼の信じる真実とやらを……そんなものがあればだけど、聞かせてもらいましょうよ」
「う~ん、でも、今はちょっと……」
プチドラはあまり気乗りがしないようだ。でも、わたし的には(確たる理由があるわけではないが)非常に興味のあるところ。わたしはプチドラを抱き上げ、神がかり行者のところに歩きかけた。ところが……
「あ、あれ???」
その時には既に、神がかり行者はその場にいなかった。文字通り、忽然と姿を消していたのだった。
わたしはプチドラと公園内を捜し回ったが、結局、発見できなかった。神がかり行者の立っていた辺りには足跡が残っている。確かにその場にいたはず、いなければおかしい。
プチドラは足跡を一瞥し、
「今日の演説はお終いということで、瞬間移動で家に帰ったのかもしれないよ」
もともと魔法アカデミーの魔法使いだったということだから、そういうこともあるだろう。ちょっぴり残念だけど、何度か足を運べば、そのうち話くらいはできるだろう。今日のところは引き揚げることにしよう。
わたしはプチドラを抱き上げ、待たせてあった馬車に乗り込み、屋敷に戻った。
そして、屋敷でわたしたちを迎えたのは、
「カトリーナ様! たっ、大変なことに!!」
それは目の周りに殴られたような青あざをこしらえた執事だった。
「大変って…… ひょっとして、『開かずの間』から、モンスターでも現れた?」
「違うんです。ツンドラ候が突然おいでになって!」
あらら…… それは、モンスターより少なくも100倍は危険だ。




