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9/12

9通目 羊毛のひざ掛け


『親愛なるエイミー


 ひざ掛けが好評だったようでなによりだ。

 王都辺りだと、タイラー商会のお店で取り扱ってくれているはずだ。


 みんなに紹介しておいてくれ。ただし、学生が買うには少し値段が高いかもしれない。


 だが、品質は保証する。ぜひ使ってほしい。


 こちらではもう初雪が降った。と言っても、積もるほどじゃない。一度消えた頃に、また降り始める。

 冬支度を急がないといけないな。


 王都もだいぶ気温が下がってきた頃だろう。

 ひざ掛けを存分に使って体調には気を付けてくれ。


 期末テストは気を抜かずに受けるように。


 セドリック』



 ふむふむ、タイラー商会か。


 それを伝えたら、ウェンディたちは肩を落としていた。


 タイラー商会は品質の良い物を取り扱っており、その分、私たち学生では手が出しにくい価格になっている。


「でも品質は保証するとのことだったわ」

「そりゃあ、タイラー商会なら良い物でしょうよ。その分、お高いのよね~」


 ウェンディが茶髪の頭を抱える。彼女が自由に使えるお金では手を出しにくいようだ。

 私だってタイラー商会で扱う物と聞いたら自分で買うのはためらう。


「じゃあ、プレゼントだと思ったら?」


 そう声をかけてきたのはフローラ様だった。亜麻色の髪がさらりとなびく。

 ウェンディは首を傾げる。


「誰への?」

「自分への」


 ふふっと楽しそうにフローラ様が笑った。

 なるほど、プレゼントだと考えたら多少値段の張るものでも買える。


「期末テストを頑張った自分へのご褒美とか、どうかしら?」


 それなら、と周りの女子たちが納得し始める。テストを頑張る原動力にもなるだろう。

 ウェンディもやる気が出たようだ。


 そうだ。期末テスト。

 気を抜かないようにとセドリック様から言われていたんだった。


 相変わらず、その辺りはしっかりチェックしておられる。



 こうして、私たちはテスト期間に突入していった。

 自室での勉強も、温かいひざ掛けのおかげで寒さ対策はばっちりだ。


 羊さんと職人さんに、本当に感謝しかない。温かく過ごしています。


 おかげでテストの結果は上々……とはいかず、いつも通り鳴かず飛ばずの中の上。

 頑張ったのになあ。みんなも頑張ったからか。


 何はともあれ、テストは終わった。

 ひざ掛けを買いに行くウェンディと一緒に私もお店に行った。


「すごいわね」

「さすがタイラー商会」


 一目で高級品とわかる品々がずらりと並んでいる。様々な地域から取り寄せているんだろう。

 タイラー商会はこの国でも一二を争う規模の商会だから当然かもしれない。


 お値段の高さに気圧されてしまいそうだわ。


 この綺麗なランプもうっかり落として壊さないようにしないと。

 色とりどりのステンドグラス風に作られたランプは、ランプではなく美術品のよう。

 一点物のようで、一つひとつ色が異なる。どれも素敵だわ。


 あっちにはピカピカに磨かれた置時計がある。大きな振り子がゆっくりと時間を刻んでいた。


 素敵なものがたくさんあって、本来の目的を忘れそうになる。


 私たちはお目当てのひざ掛けを探した。


 見つけた棚には『ブライアント産』と明記され、丁寧にたたまれたひざ掛けが並んでいた。

 絵柄がない無地のものから、模様の入ったものまで様々だ。色は暖色よりも、冬に合いそうな寒色系が多い。


 お値段は――。


 見なかったことにしたい。ギリギリ手が届く範囲だけど、すごくためらう。

 ウェンディの様子をうかがうと、同じことを思っているようだった。すごく、悩んでいる。


 そうよね。いくら自分へのプレゼントだと思っても、なかなかのお値段よね。


 意を決したようにウェンディは無地の紺色のひざ掛けを手にした。


「このためにテスト頑張ったんだから」


 自分に言い聞かせるようにつぶやいている。そうだよ、ウェンディは頑張ったよ!


 購入したウェンディの顔は満足げだった。このために頑張ったんだからいいと思う。


 ただ、温かくて授業中に眠りそうになったのは、よくないことかもしれない。


 睡魔を誘う悪魔のひざ掛けとささやかれているとか、いないとか。



『親愛なるセドリック様


 期末テストはつつがなく終わりました。

 やはり相変わらず中の上の成績です。なかなか伸びません。


 友人たちはテストを頑張ったご褒美にと、ひざ掛けを購入していました。

 みんな、温かくて満足しています。手触りも良いと言っていました。


 ただ、心地よすぎて授業中に居眠りをしそうになっていました。


 それだけ温かいのでしょうけどね。


 タイラー商会のお店に初めて行きましたが、本当に素敵なものがたくさんありました。

 お値段もその通りでしたけれど、いつかそれが似合う大人になりたいものです。


 それと、羊毛のお手入れのコツなどがあったら教えていただきたいです。

 良い物は長く使いたいですから。


 こちらも年末に向けて冷えてきました。

 温かくして過ごしたいと思います。


 エイミー』



 この手紙を送ったあと、セドリック様からお手紙が届くことはなかった。


お読みいただきありがとうございます。

身体を冷やさない。大事です。

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