9通目 羊毛のひざ掛け
『親愛なるエイミー
ひざ掛けが好評だったようでなによりだ。
王都辺りだと、タイラー商会のお店で取り扱ってくれているはずだ。
みんなに紹介しておいてくれ。ただし、学生が買うには少し値段が高いかもしれない。
だが、品質は保証する。ぜひ使ってほしい。
こちらではもう初雪が降った。と言っても、積もるほどじゃない。一度消えた頃に、また降り始める。
冬支度を急がないといけないな。
王都もだいぶ気温が下がってきた頃だろう。
ひざ掛けを存分に使って体調には気を付けてくれ。
期末テストは気を抜かずに受けるように。
セドリック』
ふむふむ、タイラー商会か。
それを伝えたら、ウェンディたちは肩を落としていた。
タイラー商会は品質の良い物を取り扱っており、その分、私たち学生では手が出しにくい価格になっている。
「でも品質は保証するとのことだったわ」
「そりゃあ、タイラー商会なら良い物でしょうよ。その分、お高いのよね~」
ウェンディが茶髪の頭を抱える。彼女が自由に使えるお金では手を出しにくいようだ。
私だってタイラー商会で扱う物と聞いたら自分で買うのはためらう。
「じゃあ、プレゼントだと思ったら?」
そう声をかけてきたのはフローラ様だった。亜麻色の髪がさらりとなびく。
ウェンディは首を傾げる。
「誰への?」
「自分への」
ふふっと楽しそうにフローラ様が笑った。
なるほど、プレゼントだと考えたら多少値段の張るものでも買える。
「期末テストを頑張った自分へのご褒美とか、どうかしら?」
それなら、と周りの女子たちが納得し始める。テストを頑張る原動力にもなるだろう。
ウェンディもやる気が出たようだ。
そうだ。期末テスト。
気を抜かないようにとセドリック様から言われていたんだった。
相変わらず、その辺りはしっかりチェックしておられる。
こうして、私たちはテスト期間に突入していった。
自室での勉強も、温かいひざ掛けのおかげで寒さ対策はばっちりだ。
羊さんと職人さんに、本当に感謝しかない。温かく過ごしています。
おかげでテストの結果は上々……とはいかず、いつも通り鳴かず飛ばずの中の上。
頑張ったのになあ。みんなも頑張ったからか。
何はともあれ、テストは終わった。
ひざ掛けを買いに行くウェンディと一緒に私もお店に行った。
「すごいわね」
「さすがタイラー商会」
一目で高級品とわかる品々がずらりと並んでいる。様々な地域から取り寄せているんだろう。
タイラー商会はこの国でも一二を争う規模の商会だから当然かもしれない。
お値段の高さに気圧されてしまいそうだわ。
この綺麗なランプもうっかり落として壊さないようにしないと。
色とりどりのステンドグラス風に作られたランプは、ランプではなく美術品のよう。
一点物のようで、一つひとつ色が異なる。どれも素敵だわ。
あっちにはピカピカに磨かれた置時計がある。大きな振り子がゆっくりと時間を刻んでいた。
素敵なものがたくさんあって、本来の目的を忘れそうになる。
私たちはお目当てのひざ掛けを探した。
見つけた棚には『ブライアント産』と明記され、丁寧にたたまれたひざ掛けが並んでいた。
絵柄がない無地のものから、模様の入ったものまで様々だ。色は暖色よりも、冬に合いそうな寒色系が多い。
お値段は――。
見なかったことにしたい。ギリギリ手が届く範囲だけど、すごくためらう。
ウェンディの様子をうかがうと、同じことを思っているようだった。すごく、悩んでいる。
そうよね。いくら自分へのプレゼントだと思っても、なかなかのお値段よね。
意を決したようにウェンディは無地の紺色のひざ掛けを手にした。
「このためにテスト頑張ったんだから」
自分に言い聞かせるようにつぶやいている。そうだよ、ウェンディは頑張ったよ!
購入したウェンディの顔は満足げだった。このために頑張ったんだからいいと思う。
ただ、温かくて授業中に眠りそうになったのは、よくないことかもしれない。
睡魔を誘う悪魔のひざ掛けと囁かれているとか、いないとか。
『親愛なるセドリック様
期末テストはつつがなく終わりました。
やはり相変わらず中の上の成績です。なかなか伸びません。
友人たちはテストを頑張ったご褒美にと、ひざ掛けを購入していました。
みんな、温かくて満足しています。手触りも良いと言っていました。
ただ、心地よすぎて授業中に居眠りをしそうになっていました。
それだけ温かいのでしょうけどね。
タイラー商会のお店に初めて行きましたが、本当に素敵なものがたくさんありました。
お値段もその通りでしたけれど、いつかそれが似合う大人になりたいものです。
それと、羊毛のお手入れのコツなどがあったら教えていただきたいです。
良い物は長く使いたいですから。
こちらも年末に向けて冷えてきました。
温かくして過ごしたいと思います。
エイミー』
この手紙を送ったあと、セドリック様からお手紙が届くことはなかった。
お読みいただきありがとうございます。
身体を冷やさない。大事です。
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