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11/12

11通目 待つと決めた


 私は婚約解消の時にもお世話になった弁護士さんと相談し、暴行罪でビクターを訴えた。


 髪は半端な長さになってしまったので、裁判が終わったら短くしようと思っている。

 セドリック様、驚くかしら。


 裁判は順調に進んだ。


 私の髪の毛という物的証拠、一致する教室にいた皆の証言。


 対してビクターは終始、根拠なく私に非があるということをつらつらと述べるだけ。

 すべてを自分の良いようにしか解釈しない子供のような言葉に、裁判官たちはため息をついていた。


 こんな子供を法廷に連れ出して申し訳ありません。裁判官はお忙しいのに。

 でも、こんな子供だから勉強させなければいけないのです。


 今回の件は両親も怒り心頭だった。ブライアント伯爵夫妻もカンカンだったそうだ。


 オズボーン家からは示談を持ち掛けられたが、もちろん跳ねのけた。


 示談なんかで終わらせてあげない。


 司法に則り、手続きさせていただきます。

 示談のほうがお金をもぎ取れたかもしれないが、大事なのは金額じゃない。


 私が欲しいのは、ビクターが法的に罰せられたという証明だ。


 判決はすぐに出た。

 初犯だが悪質ということで、罰金刑に課されることとなった。


 懲役刑までは私も無理だと思っていたので駄々はこねない。


 駄々をこねたのはビクターのほうだった。

 俺は悪くない、の一点張り。不当な判決だと喚き散らしたそうだ。


 そんなことを言っても、誰も取り合わなかった。


 学校ではもうその話で持ち切りだ。学生同士が裁判所で争うなど前代未聞。


 先生たちには迷惑をかけたが、暴言だけでなく髪の毛を切られたとなれば黙っていられない。


 私はもう、前例がないなら作ってやる、くらいの気持ちでいた。



 裁判が終わって学校に戻った私たちを待っていたのは正反対の反応だった。


 ビクターは今まで以上に女子から相手にされなくなり、つるんでいた男子生徒たちからも愛想をつかされたようだ。

 学校からも謹慎処分を言い渡され、卒業式まで自宅で謹慎しているように告げられた。


 ちなみに、卒業式も来なくていいのに、と思ったのは私だけではないようだった。


 私は「お疲れさま」とみんなに労われた。


 短くした髪も可愛いと褒めてくれた。首筋がちょっと涼しい。


「ヘアピンでとめてみたら可愛いんじゃない?」

「何色がいいかしら?」


 髪が短くなった私に気を遣ってか、みんながどうしたら可愛くなるか考えてくれて……るんだけど、絶対に私を着せ替え人形みたいにして楽しんでいる節がある。


「エイミーさんは藍色の髪だから、明るい色が映えるんじゃないかしら」

「あ、金色も似合うわ!」

「いいわね!」


 シンプルなゴールドのピンで髪を止めてもらう。手鏡で見たら、なかなかいい塩梅あんばいだ。


「夜空を流れる流れ星みたい」


 誰かがロマンチックな表現をした。


「シルバーとどっちがいいかしら?」

「わあ、悩む」


 そこは私に悩ませてちょうだいよ。着けるのは私よ?


 こんなことしてはしゃいでいる私たちだったが、隣国との戦争がまた始まるのではないかという噂は、学生の間にも広まっていた。


 やはり、軍部に行く予定の生徒たちはそわそわしているし、その婚約者は不安そうにしている。


 セドリック様からの返事は、相変わらずない。

 不安は募っていくばかりだ。


 どうか、ご無事で。


 毎晩、祈ることしか私にはできない。

 もしかしたら、ミランダ様はこんな日々に耐えられなかったのかしら。


 いつ帰るかもわからない、いつ死ぬかもわからない人を待ち続ける。


 それに耐えることは表現しがたいほどに苦しい。


 本当は、阿呆ビクターの相手をして気を紛らわせていないと、気が狂いそうだった。


 もうどこかで争いが始まっているのではないか。

 そこにセドリック様も行っていたら。


 夜になると、考えたらきりがない『たられば』が頭を駆け巡る。


「戦争なんて起こっていません」


 先生はそう言う。


 帰ってこない手紙が、それを信じさせてくれなかった。


 ならどうして、セドリック様からの返事がこないの?


 今まで届いた手紙を何度も読み返す。角ばった丁寧な字が連なっている。


 会いたい。

 セドリック様に、会いたい。


 こんなに人に会いたいと思ったのは初めてだった。


 ポタッと何かがレンズに落ちて視界が歪んだ。眼鏡をはずすと、水滴がついている。頬を冷たい何かが滑り落ちた。


 私の、涙か。


 袖で乱暴にレンズと目元を拭う。


 待たなきゃ。一人にしないって、言ってくれたんだから。

 信じて、待つ。


 私は、耐えてみせる。

 三年間も一人の時間を耐えてきたんだもの。


 今回だって、きっと耐えられる。


 一人は、慣れてるんだから。



 そうしているうちに季節は進み、私たちは卒業の時を迎えた。


お読みいただきありがとうございます。

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