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12/12

12通目 待ってあげない!


 卒業式はおごそかな雰囲気で滞りなく終わり、夜の謝恩会となった。

 先生方や両親、学年の違う婚約者なども参加するパーティだ。盛大なサヨナラ会のようなものになっている。


 この制服を着るのも、今日で最後か。


 私の両親も参加し、先生方と会話している。 


 フローラ様も二つ年上の婚約者様といるし、ウェンディとランスロット様も一緒にいる。


 他のみんなも、そうだ。


 私だけが、ポツンと一人いる。

 セドリック様からの返事は、ついになかった。


 みんなの邪魔にならないよう、入り口付近で壁に背を預ける。


「エイミー?」


 ふと、声がかけられた。


 私は、この声を知っている。


「セドリック様!」


 言葉が出る前に身体は駆け出していた。勢いよく、紺色のフォーマルスーツに飛び込む。

 セドリック様の胸板に激突したおでこがちょっと痛い。思っていたより硬かった。


 いや、今はそんな事どうでもいい。


「ずっと心配していたんですよ! お手紙も返してくれないし!」


 見上げたセドリック様は困った顔をしていた。もっと困ればいいのよ。


「すまない、誤報が錯綜さくそうして、対応に手間取っていた。もう卒業式まで時間がなかったから、着たほうが早いと思って……」


 やっぱりお仕事だったのね。


「では、戦争が起きそうというのは……?」

「もちろん誤報だ。どうやら、国境の街の復興で人を集めていたのが、兵を集めているという情報に変わってしまったらしい」


 人騒がせな、とセドリック様はため息をつく。


 でもこれで、セドリック様が戦地に行くことはないのね。


「良かった……」


 涙がこぼれた。ずっと不安だった。


 セドリック様がまた戦地に立つことになるのではないか。


 頬にそっと何かが当たった。白いハンカチ。私がセドリック様へプレゼントしたものだ。

 それを受け取って涙を拭う。


「心配をかけたな。でも約束しただろう? キミを一人にしない、と」


 セドリック様の表情は優しい。

 出会った頃の約束を、今でもちゃんと覚えていてくださった。


「はい」


 上手く笑えただろうか。


「それにしても……」


 セドリック様は言いながら私の後頭部に手を添えた。

 なくなった髪の毛を惜しむように撫でられる。


 でも私は何も気にしていない。


「似合いますか?」


 私の問いに、ちょっと驚いた顔をしたセドリック様だったが、小さく頷いた。


「ああ。短くても可愛い」


 友達に褒められるのとはちょっと違うくすぐったさがあった。


 そこへからかうような声が聞こえてきた。


「あらあら、仲の良いことで」

「ウェンディ!」


 咎めるように呼ぶが、フフフと笑うだけだ。ウェンディめ。


「お初にお目にかかります。ランスロット・オールバーグと申します」

「エイミーの友人のウェンディと申します」


 二人はセドリック様にお辞儀をする。


「セドリック様、この二人が私に協力してくれた友人たちです」


 私は二人をそう紹介した。セドリック様は笑顔を向けた。


「話は聞いている。これからもエイミーのことをよろしく頼む」

「こちらこそ」


 ランスロット様も笑顔を浮かべた。ウェンディも笑みを浮かべた。何か企んでいるそれだったけど。


「それで、セドリック様。羊毛についてちょっとご相談が」

「ウェンディ、そういう話はあとで……」

「商談のチャンスを逃しちゃダメよ!」


 止めようとするランスロット様をウェンディは制す。


 商魂たくましいな。ここまでだったとは思わなかったわ。


 取引の話をするセドリック様とウェンディを、ランスロット様と見守る。


「悪いな、こんな時に商売の話を持ち出して」

「いえ、ウェンディらしいです」


 どうやらいい方向で話はまとまったらしい。二人はがっちり握手を交わしていた。


 いったいどんな取引内容だったのかしら。後で聞こうっと。


 商談がまとまったウェンディはランスロット様と別の方へ歩いて行った。


「セドリックか?」


 年配のしわがれた声が聞こえてきた。この声はセルヴィス校長だ。


「校長! お久しぶりです」


 セドリック様はパッと顔を輝かせてお辞儀をする。私も頭を下げた。


「あの問題児が立派になって。エイミー嬢のような女性は君の相手に良いかもしれんな」


 セルヴィス校長は楽しげに笑う。


 ん? 問題児? どういうこと?


 私は説明を求めるべく、セドリック様を見上げる。セドリック様はこっちを見ようとしない。冷汗をかいている。


 これは、私にまだ話していない"やらかし"をしているな。


「こ、校長。それ以上は、ちょっと……」


 あたふたするセドリック様に校長は笑い声を上げ、背を向けて歩いて行った。


 私はじとりとセドリック様を睨みつける。


「セドリック様ぁ?」

「いや、本当に大したことはしていない」


 セドリック様はコホン、と咳ばらいをした。


「裁判を起こしたキミ以上のことは、な」


 誤魔化された。まあ、裁判沙汰以上の"やらかし"は滅多にないだろうけど、それに準ずることはしたということね。


 むむ、年下だからとあしらわれるのはちょっと悔しいわ。


「なら、先生方に聞いて回ります」


 そうだ。ここで長く教員をされている先生方は多い。十年なんてざらにいる。


 歩き出した私を慌ててセドリック様は追いかけてくる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ちゃんと話すから!」


 待ってあげない。だって、ずっと待たされてたんだから!



 END


これにて、二人の手紙のやり取りは終了となります。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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