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祝!!ショウ君初めてのお休み!?

 昨日の目眩のするような初任務を終え、気絶するように眠りについた。

 唐突ではあるが俺は風呂が好きだ。前から好きではあったのだが、第三部隊の連中(ベルトを除く)から解放され落ち着ける環境になったせいか、より入り浸るようになっていた。

(このままだと風呂の入りすぎで風呂アレルギーになりそうだぜ…)

 そんなことを考えながら次の日の朝俺は朝風呂に入っていた。外でガヤガヤ言い出したのでそろそろ仕事の時間なのだろうと思い、服を着替えて風呂から出る。もう全員準備ができてるものと決めつけでてきたのだが…。ミリーはやけにモコモコのパジャマ姿でクマのぬいぐるみを抱えてリビングのソファーでうとうとしており、ベルトは服装こそピシッとしているものの眼鏡をかけて読書をしており、テッドに至っては起きてきてすらいなかった。

「あれ?まだ朝早かったかな?」

 そう聞くとベルトが本から目をはずしこっちを向く。

「そうか、ショウ君には言ってなかったっけ。僕らみたいな下請けは仕事がなくってね、毎週一回のパトロール以外は基本的に休みなんだよ。」

「…マジか。」

 備え付けのカレンダーに目をやると週始め以外の日は休みの念を込められた赤に染め上げられていた。そんな毎日が日曜日スタイルでやっているとは…正直なめていた。しかし俺は順応能力が高いので不測の事態にも対応可能だ。

「ふぅうん、ほいたら俺は散歩でもしてくらぁ。」

「うん、行ってらっしゃい。」

「ショウさぁ~ん、ついでにプリン買ってきてぇ。」

「…ヘイヘイ。」

 街に一人で出ていくのは何気に初めての経験だ。割とウキウキで自動ドアを抜けて歩いていこうとすると一人の気配を感じた。

「…で、何の用だ?」

「げげっ!バレた…だとッ!」

 わざとらしく両手を挙げて降伏のポーズをとるテッドを睨む。

「いやね、おめぇ一人で行かせると死にかねんからな。保護者だよホゴシャ。」

「保護者って俺もう保護される年齢じゃねぇんだが…。」

 あれこれ言ったってテッドが聞く耳を持たないのはこれまで共にしてきた時間で理解するには十分すぎたのでこれ以上追及しないことにした。まぁ、これといって妨害してくる様子もないので放っておいても問題ないだろう。少し歩くと今までは急ぎすぎて見えてこなかった街の風景が見えてくる。楽しそうに話をする住民、商店街から香る美味しそうな匂い。昨日のバカ騒ぎが嘘のように普通に「いい街」がそこにはあった。こういうときはゆっくりみて回りたい派なので自然と周りを見渡し歩幅が小さくなる。そんな様子を見てテッドがなにか察したらく、ニヤリと笑い俺の前に出た。

「ンなるほど、まだ満足に街のこと紹介できてなかったな。ショウの目的地に行くついでに教えてやるよ。」

「そいつぁー助かる。」

 たまには気が利くじゃないか。軽く感心しながら隣に騒がしいヤツを連れて前から行ってみたかった街の外へ向かうべく商店街に歩みを進める。じっくりと見る風景は新鮮でどれも興味をそそられるものばかりだった。ところどころテッドが「あそこの飯屋がウメェんだ。」やら「服屋のお姉さんがカワイイんだよなぁ。」と、要らない情報と必須な情報とを混ぜて発言するので無駄に気を張る羽目になったが後悔はしていない。商店街を抜けしばらく歩くと地面がさっきまで石畳だったのがいつの間にか未舗装(みほそう)で土がむき出しの道になり、正面にでっかい門が俺たちを待ち構えていた。

「これが目的地か?やっぱりついてきて正解だったな。」

「どういうことだ?」

「へへっ、まぁそのうち解るさ。」

 不安にさせるような意味深発言をするテッドだが適当に聞き流す。門をくぐった先はだだっ広い草原でデコボコした地面に青々とした草花が色鮮やかに散りばめられていた。

「なんだ、綺麗じゃねぇか。こんなとこで昼寝でもすりゃー気持ちぃだろうな。」

 日向ぼっこも趣味のうちであったのでこれは嬉しい収穫だ。もっといいポジションを見つけるべく奥へと進んでいく。ずいぶん進んできたようで、街はもう豆粒のように小さくなっていた。するとさっきまで一定のスピードで隣を歩いていたテッドがピタリと止まり上空に指を差す。

「来たぜ。俺がついてくるべきだったと言わしめる理由がな。」

 テッドの指の先端から真っ直ぐ視線を傾けると真っ青の空に黒い点ができていることに気付く。

「ん~?」

 なんだかわからず目を凝らしていると()()はこちらに向かってきており、どんどん黒点が大きくなっている。

「なぁテッド?ヤバくね?」

「あぁ、ヤバいぜ?」

 全貌を目視する頃には黒点だったものは大型トラック並みのサイズになっていた。大きな翼が左右に二つずつ付いておりそのバカデカイ体を力強く羽ばたかせている。禍々しく曲がった角を向け猛烈なスピードで距離を詰める。大型トラックでも十分な巨体なのだが遠近法は止まることを知らずどんどん大きくなる。

「ピィイイイイイ!!(超高音)」

 小鳥の鳴くような声で叫びテッドの後ろに隠れる。超巨大飛行物体が目の前に到着したときには少なくとも18メートルはあるだろう。爆発的な羽音を響かせ降り立ち六つある目を敵意いっぱいでこちらに向けた。

「グルゥルルゥエエエ!!」

 周囲の草花が嵐に見舞われたように激しく揺れる。本能的な恐怖に足が竦み上がりその場から動けなくなる。

「ほらな?言ったろ?ついてきたほうがいいって。」

「今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」

 怪物を指差しながら自慢気な顔を向けるテッドにそう喚く。

「大丈夫だって、見てな。」

 自信たっぷりにそう言うと怪物の方に向かってズンズン進んでいく。身長はあまり変わらないのだがその背中は妙に大きく見えた。

「グルルルルルル…」

 鋭い牙を剥き出しにして威嚇するのを無視して両者の距離はどんどん縮まって行く。

「ガアアァア!」

 限界に達したのか怪物が全体重をのせた右フックをかましてくる。

「そうらよ!」

 テッドも負けじと右ストレートを放つがウェイトが違いすぎる。終わった…誰しもがそう思った次の瞬間。

「ギャウ!」

 犬のような悲鳴を上げて怪物が大きく吹き飛ばされ漆黒の鱗が辺りに弾けとんだ。

「ふぇ?」

 府抜けた声が喉から漏れる。一撃で戦意喪失したようで逃げるように羽ばたいて何処かへ飛んでいってしまった。

「ショウ、まだこんなとこで日向ぼっこしてぇか?」

「すみませんでした…」

 狂ってるッ!こんな平和そのものな平原にあんなでかいのが出るなんて!狂ってるッ!


 避難するように街へ戻るとミリーの要望通りプリンを買って帰ることにした。今日の出来事はまた俺のトラウマを増やしたことだろう。頭のなかで整理しているとひとつの疑問が浮かんでくる。

「なぁテッド、あんだけ強ぇのになんで第三部隊なんかで燻ってんだ?」

「あ~それには深い訳があってだなぁ。」

「どんな訳なんだ?」

 俺はそんな疑問を投げ掛けたことをこのあと深く、深く後悔した。

「前まで第一部隊でやってたんだけどよぉ。俺って素行が悪くてなぁ、セクハラに食い逃げ、冒険者とのケンカ、本来は冒険者の討伐クエストだったのに乗りと勢いで全員ぶっ殺したりな?そしたらひでぇもんで上の方から「あっクビです~」って言われたんだよ。んでも一緒にコンビ組んでるベルトが「テッド君をクビにするなら僕も辞めるよ。」って庇ってくれてだな?上の方も優秀なベルトを手放したくなかったんだろうな。根っからの悪人じゃねぇから一番低い第三部隊にするのが丸いよねってことで今の俺があるって訳よぉ。」

 何故か自分がすごいヤツのように喋るテッドはとても惨めに見えた。あれだけの実力をもってしても余りある素行の悪さを光らせクビにまで持っていくとは…。もはや天晴れとも思わせるクソエピソードに掛ける言葉が見つからなかった。

 無事にプリンを買い終え帰路に着くと後ろから怒鳴り声が聞こえる。

「うぉおいテッドォオオ!!」

「やべぇ!テッド被害者の会のメンバーだ!」

 テッドが俺を盾にして走り出す。結局こうなるのかよ!街の外も中も危険がいっぱいらしい。

「俺を盾にすんじゃねぇえー!」

 プリンの箱を抱えテッドの背中を追う。後ろから罵声とともにものを投げられ、時々頭に当たる。

「イデ!イデデ!っておい誰だレンガ投げてきてんのは!」

 なんでこんな目に合わなくてはならないのか、この世の理不尽さに打ちのめされながら走り続けた。



 ボロボロになりながらなんとか警察署まで帰ってくるとベルトがいつもの笑顔で出迎えてくれた。

「やぁショウ君。テッド君とのお散歩は楽しかったかい?」

「この姿を見てそう思うかよ!テッド被害者の会とかいうイカれたメンバーのヤツらに巻き添え食らったんだぞ!」

 ベルトのマイペースさに遅れをとっているとミリーが俺の持っていたプリンの箱を受け取る。

「うわぁ~!ありがとうございます!…あれ?テッドさん、服に黒破片が付いてますけど。また「ヘキサアイズ・ドラゴン」をいじめたんですか?めっ!ですよ?」

「悪かったって、もうしねぇから許してくれよぉ…。」

 なんとなくマズい雰囲気を感じ取ったテッドが自分に話を振られていないのを見計らって少しずつ自分の部屋に逃げ帰ろうとしていたところをミリーに捕捉されてしまう。

「ショウ君を連れてそんな危険なモンスターのとこへ行っていたのかい?一見平和そうだけどあそこは危険だから危ないじゃないか。ショウ君、大丈夫だったかい?」

「ちょっと待ってくれよぉ!ショウが外行くっつぅから行っただけだぜ?ショウは無傷で帰ってきたんだからいいじゃねぇかよぉ!」

「おっ俺だってあんなバケモンがいるって知ってたなら行くわけねぇだろ!何で教えてくれなかったんだよ!」

「そっそれは…逃げろ!!」

 健闘虚しく自室に逃げ込んでいくテッドに一同呆れの溜め息をついた。

「はぁ、まあいいや。ミリー、プリン分けてくれ。」

「じゃあ僕からも頼もうかな。」

「…あ。」

 さっきまで幸せそうにプリンを頬張るミリーの顔がみるみる青くなる。まさか!と思いプリンの箱を見ると六つ入りだったプリンは無惨に食い荒らされていた。

「だってぇー皆さんがプリン欲しいって言ってくれなかったんですもぉおん!」

「普通分けるだろ!なんで六つ全部一気に食っちまうんだよ!このバカが!」

「うわぁあん!ショウさんがいじめる~!」

「まぁまぁショウ君、よくあることだ。許してあげてよ。」

 許されてたまるか!俺のこの傷ついた心はプリンの優しい甘さでしか癒されないと言うのにッ!

「ふぇえ、だったらテッドさんの部屋にあるすっごく高いチョコケーキがあるのでそれを分ければ良いじゃないですかぁ!」

 リビングが静まり返る。ベルトもこの事実を知らなかったようで唖然とした表情をしている。

「そっそれだけはヤメロォオオ!」

 テッドにも聞こえたらしい。ドア越しに悲痛な叫びが聞こえるがもう俺たちには「容赦」という二文字はとうのとっくに無かった。

「よし、ミリー突撃だ。」

「アイアイサー!」

「おっと、僕の分も取ってきてよ?」

「了解ぃ。」

 結局、その日我が家から最も手痛い被害者(自業自得)が出たのはまた別のお話。



 ~続く~










ここまで読んでくださりありがとうございます!

今回はバタバタ初任務としてのパトロールとはうって変わって休日のゆったりした日常…のハズだったのですがやはりそう人生うまくいかないものです。

街の外も中も危険だらけな上に心の支えであるプリンまで食い散らかされることになってしうショウ君にとても同情しています(笑)。

強奪したチョコケーキで彼の心が癒されることを願いつつ、また次回のエピソードでお会いしましょう!

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