祝!!阿鼻叫喚の初任務!?
暖かい朝日を受け爽やかに起床する…
「ギャオオォオン!!」
はずだったのだが…ミリーの部屋から例の植物の咆哮が聞こえ跳ね起きる。
「クソ…最悪の朝だぜ…」
軽く毒ずきながら準備を始める。貰った制服に初めて袖を通し、備え付けの鏡の前に立ち自分の姿を見てみる。
思いの外似合っており改めて自分が警察官になったのだという自覚が芽生える。
歯を磨いて下の階に下りるとベルトが持っている剣の手入れをしていた。
「おはようショウ君、今日はいい天気だね。」
「んぁーおはよう。もちっと寝たい気分だけどな。」
まだ開ききらない瞼により一部暗くなっている視界を気にしながら顔を洗いに洗面所に歩みを進める。洗面所には先程起きたばかりなのだろう、今にもぶっ倒れそうなテッドが歯を磨いていた。
「よう、調子どうだ?」
「んがまべらべら(?)」
「………?」
人は眠すぎるとこうなるらしい。挨拶を済ました判定にしてテッドの隣で顔を洗い出す。
「そうだショウ、初任務ってことでパトロールすっからな~。」
「なんだ、てっきり最初だから雑用でもこなさせられるのかと思ったけど…」
「別に掃除は分担してるし単刀直入に言うと暇なのが現実、最初っから仕事できんだ、ありがてぇだろ?」
俺としても始めから実際に仕事が出きる方が良いのでテッドの気が変わらないうちにさっさと洗顔を終えるのが賢明だろう。俺たち二人は朝のルーティンを終えて一緒にリビングまで出ていくと、もう他のメンバーも準備は完了していた。
「なんでぇ、もう準備できてんのか…んじゃ、いきますかな。」
警察署の入り口である魔道式自動ドアが開きイカれたメンツが街に解き放たれる。気分的には後ろの背景では爆発が起きているが実際にそんなことになれば少なくとも俺は死ぬだろう。
「パトロールっつっても具体的にどの辺歩けばいいんだ?」
「あぁ、いつもはギルドの前と商店街、時間があれば街の外まで出ることもあるよ。」
街の外…ろくな思い出しかないがまた違った場所もあるのかもしれんな。将来的に街の外へ出ていこうという計画を立てている間に商店街に到着するとテッドが「情報収集してくる。」というやいなやパンやら串焼きやらを頬張りながら帰ってきた。
「テッドさん、私にも分けて下さいよ。」
「あ~?しゃーねぇーなーほらよ。」
「やったぁ!」
兄妹のような会話をしながら奥へと進んでいく。商店街はたくさんの人が行き交い、たしかにコトが起こるならここだろうという騒がしさが感じられる。
「ねぇショウ君、アレに興味あるかい?」
ベルトに肩をつつかれ指を指された方に視線を向けると危なっかしい武器や防具が売られている店にゴツイ親父さんが佇んでいる。ベルトは自分と同じ様に剣を握ってほしいようで、ワクワクした様子を見せている。
「カッコいいけど俺にはとても扱えそうにないな。」
「そんなことないよ!僕が見た感じ剣を使うのに適切な筋肉をしているよ。」
「適当言ってんじゃねぇだろうな…」
怪しい勧誘を当たり障りない答え方で拒否しながら辺りを見回すとさっきまで食べ歩きをしていたテッドとミリーが居なくなっていた。
「あれ?さっきまで一緒に居たのになぁ?」
「あぁ、あの二人は自由奔放だからね。よく自分の気になるものがあれば知らない間に居なくなることがよくあるんだ。」
あまりの締まりの無さに俺が朝あれほど気合いをいれたのが馬鹿馬鹿しくなってくる。しかしここでアイツらのようにバカをやるとベルトの仕事が増えることは明らかなので俺ぐらいは良い子にしておかなくてはと邪念を退散させ、仕事に集中することにした。
「んでも特に何もなさそうだな。」
「そうだね。ロードリーはこの国で一番と言っていいほど平和だから、パトロールだってホントは何週間に一回くらいでもいいんだよ。」
なんだ、荒くれ者たちに囲まれてデカイケンカでも始まるもんかと思ったが案外穏やかに過ごせそうだ。
「…にしても本当に平和だな。」
ベルトと肩を並べて歩きながら、俺はつい本音を漏らした。だが、ギルドが店を構える通りに差し掛かった瞬間、鼻を突くような鉄の匂いと酒のような匂いが同時に俺の鼻腔を襲い、危うく声が出るところだった。至るところではいかつい男たちが地面を震わせるほどの怒号を放ち俺の鼓膜を叩く。
前言撤回、やっぱヤバイとこかも。
そんないかにも柄の悪い雰囲気を感じていると、
「おらぁあ!全員まとめてかかってこいやぁああああああ!!」
聞いたことありすぎる声が周囲の喧騒を全てかき消した。声のする方を見ると多くの人間が円を囲むなかで真ん中にテッドが仁王立ちで立っており後ろでミリーがなにやら叫び応援するような仕草を見せる。
「おいおい、大丈夫かよあれ…」
「あはは、まあ見てなよ。僕たちの頼れるリーダー『テッド』の実力をね。」
普段は「テッド君」呼びなのに今回は呼び捨てにしたのには何かメッセージがあるのだろう。言われた通り俺はテッドの様子を見守ることにした。
「テッドォ!いつもはやられてるが今回は一味も二味もちげェぜ!今の俺たちはまさに『下味のつけられたじゃがいも』だあーー!!」
なんだよその例え!そんな突っ込みを飲み込み飛びかかる冒険者風の男三人をどう対処するのか前のめりになって観察した。
「くたばれクソやろーーーー!」
おおよそ警察官が言うべきではないセリフを吐き捨てテッドが突きを放つ。その瞬間俺は目を疑う光景を目の当たりにした。
「ぎゃああぁあ!!?」
「どわぁ!?」
「ぐわぁあー!またかよぉお!」
思い思い断末魔を上げ三人が遥か彼方へ吹き飛んでいった。
「シャア!雑魚どもがぁ!おとといきやがれ!」
ガッツポーズをとりそう言うと、歓声が上がる。
衝撃でポカーンと口を開けているとテッドと目が合い、テッドがニカッと笑う。
「だーっはっはっは!見たかショウ!これが俺様の実力よぉ!」
歓声を受け完全に調子に乗っているテッドにこんなに騒がしいなか小さい声ながらはっきり通る氷のように冷たい声が掛けられる。
「テッドさん、またうちの備品を壊しましたね。修理費は警察署の方に回しておきますから。」
声の主はこんなむさ苦しい所とは到底似つかわしくない、、月光を銀糸にして編み込んだような髪を持つ絶世の美女だった。
透き通るような白い肌に、すべてを見透かすような鋭い碧眼。その美しさは、騒がしい冒険者たちが一瞬で息を呑み、静まり返ってしまうほどだ。
だが、彼女が手に持っているのは、テッドが破壊したテーブルの無惨な脚。それをピキピキと音を立てて握りしめる彼女の背後には、物理的な「冷気」すら漂っている気がする。
「こここここれはこれはルナリアさん。違うんスよ!俺はただ皆と遊びたいなぁって思ってぇ!」
「それで?それが物を壊すのと何の関係があるのですか?」
みるみる顔を青ざめさせるテッドを見て、さっきまでカッコよく見えたテッドの評価があり得ない速度で暴落する。
「こりゃあマズい…ベルト!ミリー!ショウ!逃げンぞー!」
ガバッと振り向きいつの間にか腕を捕まれとんでもないスピードで逃げ出した。
「待ちなさい!今度という今度は許しませんよ!ミリーさん、あなたなら解ってくれるでしょう!?」
「びええぇえ、ごめんなさぁああい!」
変なところはあるが割と素直で話の通じるミリーだが、よほど怖かったのだろう、大声で泣き叫びながら逃げていたので、ルナリアの声が届くことはなかった……
どれだけ走っただろうか、なんとか署に帰還し床に倒れこむやいなやテッドが大声で笑い出す。
「イーヒヒヒヒ!逃げきってやったぁーい!どうだ見たか参ったか!」
「笑ってる場合か!!こっちは殺されるんじゃねぇかって気が気じゃなかったんだぞ!」
本当にコイツの破天荒さには頭がいたい。様々なストレスで頭を抱えているとパタンッという音が玄関から聞こえてきた。
「ん?なんだこの音?」
「多分誰かがポストにお手紙を入れてくれたんだよ。」
なんとも夢のある答え方をするベルトを横目にポストの中を見てみる。中には一通の紙が入っており、本当に手紙がきたのか!コアなファンもいたもんだと驚きつつ手紙をテッドに回す。
「えーっとなになに?『ギルド備品破壊弁償代:金50000ゴールド。即時給与から天引きいたします。 ルナリア』…んなぁあああ!?」
「うわぁあん!今月のお小遣いがぁあ!!」
ようやく落ち着きを取り戻しつつあったミリーが再び泣き崩れる。
「なんだよこのスピード!あの人瞬間移動なんて使えるのか!」
「あーあ、やっちゃったねテッド君。」
「クソがぁああ!」
絵画のように膝から崩れ落ち空に向かい叫ぶテッドの肩を持ちベルトが慰め、その横で喚き散らかすミリー。一瞬にしてカオスと化した警察署――
俺はそっと、今日初めて袖を通したばかりの、すっかりシワの寄った制服の襟元に目をやった。鏡の前で「今日から警察官だ」なんて一人で勝手に身を引き締めていた数時間前の自分が、急に遠い過去のように思えてくる。
「……俺、本当にこの部署でやっていけるのか?」
遠い目をして呟いた俺の声は、二人の悲痛な叫び声にかき消されて誰にも届かなかった。
荒くれ者だらけの街より、まずはこの身内の心配をした方が良さそうだ。俺の記念すべき初任務は、こうして盛大な大赤字と共に幕を閉じた。
総評、やっぱりクソ!!
~続く~
ご一読いただきありがとうございました!
爽やかな朝(?)から一転、とんでもない初陣になってしまったショウ君。鏡の前でビシッと制服を決めていた初々しい彼の姿はどこへやらわずか数時間でどこかへ消え去ってしまいました……。
荒くれ者の冒険者より、身内のほうが圧倒的に危険という第三部隊警察署。果たしてショウ君のお給料がまともに支給される日は来るのでしょうか?
クソまみれ(笑)の彼の新生活を、ぜひ一緒に見守っていただけると嬉しいです!




