祝!!初心者ダンジョン!?
――太陽が真頭に昇った昼過ぎ。
ソラリアの賑やかな街並みを一望できる宿の一階食堂にて、俺たちは再び顔を揃えていた。
「ショウさ~ん、そこのジャム取ってくださいよ~」
「…ハイ」
目の前で、多分さっきの恥ずかしいエピソードをバカにするような笑みを浮かべたミリーが妙にデカイ声で話し掛けてくる。
「ちょっとショウ、パンにジャム塗りすぎて原型なくなってるじゃない」
「…アア」
どん底のテンションでパンをむさぼる俺の横目に、リタが呆れたように溜め息を吐いた。
「まぁいいわ。私たちはギルドに行って、ソラリア市内に紛れ込んでるかもしれない悪党どもの目撃情報や、怪しい噂を洗ってくるわね。手分けした方が効率いいでしょ」
「ええ、街の聞き込みは私たちに任せてください。みなさんも長旅の疲れを癒してくださいね」
セレナさんが上品に微笑み、ナギちゃんも小さく首を縦に振る。
第二部隊の面々は手早く食事を終えると、街の調査へと繰り出していった。
「できることならご一緒したかったが…こうなっちゃあ仕方ねぇ。おし!俺たちも動き出すか!」
ガタッと勢いよく椅子を鳴らして立ち上がったのは我らが隊長だ。相変わらず疲れを知らない男である。
「動き出すって言っても連中の潜伏先もわかってないんだろ?聞き込みはセレナさんたちに任せてるし、俺たちは待機じゃないのか?」
「甘ぇなショウ!本番の悪党狩りの前に、ソラリアのダンジョンってもんの空気感に慣れておく必要があるだろ?いわゆる予行演習ってヤツだ」
「予行演習ぅ?」
「おうよ!連中がダンジョン内部を隠れ家にしてるって推測もあるしな。それに…ひよっこのお前でも大丈夫な初心者ダンジョンを見つけておいたぜ。俺の粋な計らいってヤツだ。感謝しろよ?」
意地悪くニッと笑うテッド。
なるほど、悪党捜索の事前準備であり、俺への配慮でもあるわけか…。
「言っておくがな、俺は絶対戦わんぞ。後ろで高みの見物と応援しとくからな!」
「へーへーそう言うと思ったぜ、俺の勇姿を見てな!」
自分の背中を親指で指差すと、豪快に笑った。
「よぉし…そうと決まれば突撃だぁ!遅れたヤツはケツを蹴り上げてやっからなーー!!」
気付いた頃にはもう既に俺以外の姿が見えなくなっていた。
「…いや案内役いないと到着できないやろがぁあい!」
慌てて宿を飛び出すと、幸いにも街道の少し先でベルトとミリーが俺を待ってくれていた。テッドのバカは一人で地平線の彼方へと爆走していったらしい。
「やれやれ、相変わらず元気そうでなによりだね」
「ショウさん遅いですよぉー!置いていっちゃいますよ!」
「置いていったのはあのアホ隊長だろうが!」
ベルトたちと緩い会話をしながら歩くこと数十分。ソラリア街外れにある岩山エリアへとやってきた。ゴツゴツとした岩肌のあちこちにポッカリと洞窟の穴が開いている。
そのうちの一つ、入り口に『ひよっこの穴蔵(対象レベル:1~5)』という脱力感溢れる手書きの木製看板が立てられた穴の前で、テッドが腕を組んで待っていた。
「おっせぇなぁショウ。待ちくたびれて腕立て二億回終わっちまったじゃねぇか!」
「知るか!というか、こんなわかりやすい初心者ダンジョンあったんだな」
「コレを見てください!ソラリアの冒険者ギルドが観光客や駆け出し用に解放してるお手軽ダンジョンですよ!中も浅くて安心安全!ピクニック気分で行けちゃいます!」
ミリーが取り出してきたパンフレットにも、かわいらしく加工されたダンジョンの入り口が紹介されていた。よし、安全は確保された。
「配置につくぞ。陣形は俺が一番後ろ、ベルトがその前、ミリーが中衛、テッドが先頭な!絶対崩すなよ!」
「えー!?私が一番後ろじゃないんですか!?私魔法職ですよ!」
「やだやだやだ!!その魔法職よりも身体が弱いから後ろがいいの!それから俺の前はベルトが安心するから中衛はお前なの!!いいから俺を守ってくれよぉ!!」
地面に寝そべり、恥も外聞もなく駄々をこねる。
すると、ベルトが困ったように苦笑しながらも、どこまでも爽やかで優しい笑みを浮かべて俺の肩をポンと叩いた。
「ハハハ、まあまあ。ショウ君の身の安全を一番確保するのも大切な目的だからね。僕の後ろで安心して隠れていていいんだよ。ショウ君のガードは僕がしっかり引き受けるから、ミリーも勘弁してあげておくれ」
「むぅ…ベルトさんがそう言うなら仕方ないねですけど~…」
大人な包容力ある神フォローに感謝しつつ、俺はベルトの後ろへとガッチリ陣取った。
満を持して薄暗い洞窟の中へ足を踏み入れる。
じめっとした湿気とほのかな苔のにおいが漂うが、道幅は広く天井も高い。恐怖感はゼロだ。
「ハ!?」
足元にはゼリー状の塊がうごめいていた。これは見間違うハズがない。超メジャーモンスター「スライム」大先生である。
「おい見てくれ!スライムだぞスライム!!」
「あ?スライムごときでそんなはしゃぐことねぇだろ」
コイツらにとってスライムさんは道端のガムと同じ扱いかもしれないが、俺にとっては全ての始まり的存在だ。
近付くと、襲ってくるどころか驚いたように身体を歪め、逃げるように俺から反対方向へ動き出した。スライムというのは案外かわゆいのかもしれない。
(ガタンッ…)
「んー、おぉっと、なんか踏んじまったぜ」
見ると、俺の数歩先でテッドが床のタイルを踏み込んでいた。
「よぉし!俺の経験上これは『罠』だ!!」
「ンナコト言ワナクテモワカッテンネーン!!」
俺のツッコミがこだました瞬間、足元が消え去った。古典的な罠、『落とし穴』。
「わわわちょっと落ちちゃいますってぇえーー!?」
「ベルトさーーん!!お助けくださーーい!」
「うーん、初心者ダンジョンにしては秀逸な仕掛けだね」
「だーーっはっはっは!!大当たりだーー!!」
すぐさまベルトに助けを求めたが、彼は明後日の方向へ思考を巡らせていた関係で、こちらに見向きもしていない様子だ。はい、終わり。
重力に従い、俺たちの身体が穴の底へと叩きつけられる。
「よっ」と軽やかに着地するベルト。
「わっ!?」と可愛らしくしりもちをつくミリー。
「アデッ!?」と顔面から突っ込んだ俺。
そして――「オォォオオオオオン!!」という咆哮と共に、腰まで床に突き刺さるテッド。
それぞれの悲鳴が暗闇に響き渡った。
「ショウ君、怪我はないかい?」
「どの口が言ってんだ!くそ…痛ぇ」
鼻頭をさすりながら毒づいてから、隣を見ると、脚を痙攣させながら沈黙するテッドの情けない姿が確認できる。
「よし、先進もうぜ」
「んーー、んもむももむめもいもーー?(おーい、誰か忘れてないかぁーー?)」
「アハハ、気持ちはわかるけど、ちゃんと引き抜いてあげないとね。ミリー、手伝ってくれるかい?」
「はい!もちろんです!」
足手まとい解雇イベントは不発に終わってしまった。残念で仕方ありゃあせんよわたしゃー。
「プハッ!ぁー生き返ったぜ!おらおらなにボーッとしてんだ!いくぞ!!」
「あーあーわかったよ…」
こうして初心者ダンジョンのゆる~い攻略が始まった。
…結論から言おう。
これは決して攻略などではなく、『俺の耐久テスト』だった。
一から十まで語ると、俺の前が涙で見えなくなるので、ここからはダイジェストでお送りする。
【十分後】
「あ、また落とし穴」という軽いノリで本日五回目の落下。もはや着地の瞬間、俺の膝が「パキッ」と変な音を立てるのも慣れてきた。
【三十分後】
矢が飛んでくるトラップエリア。ベルトが「フィアンセの洗車に良さそうなプレッシャーだね」と優雅に矢を弾き、後ろの俺に全部跳ね返ってくる。俺を守ってくれるんじゃなかったの??
……はぁ、【一時間後】
満身創痍でついに最深部に到着!重々しい扉を開けた先に鎮座していたのは、神々しく輝く豪華な宝箱!
「ついに…ついに報われた…!」
俺が涙を流しながら震える手で宝箱を開くと、中にポツンと入っていたのは金銀財宝ではなく、一枚の紙切れ。
そこには、『ソラリア名物・極楽温泉百ゴールド引きクーポン』と達筆で書かれていた。
あぁ…もうどうにでもなれ!うぇーいう○こう○こww
「おっ、温泉の割引券か!よかったじゃねぇか!」
「わーい!私温泉大好きです!」
「うんうん、ソラリアの温泉ならフィアンセに相応しいね。一緒に湯船に浸からせてあげよう」
「廃車んなっちまうわ!」
俺の正論ツッコミを爽やかな笑顔でスルーするベルト。
結局、宝箱の中身は紙切れ一枚だけ。疲れ果て膝をガクガクさせた俺は、なんとも言えない虚無感を抱えながら、ダンジョンを後にした。
「…まぁ、夜にみんなで入る温泉を楽しみにしとくか…」
手の中の百ゴールド引きクーポンを握りしめ、俺は大きく溜め息を吐いた。ひとまず、怒涛の『予行演習』はこれにて閉幕である。
~続く~
ご一読ありがとうございました!!
普通ならあくびが出るような初心者ダンジョンでも、彼らと行けば高難易度ダンジョンに早変わり。
散々苦労して手に入れたクーポン……。果たして夜の温泉でショウくんは心身ともに癒されるのでしょうか?
では、また来週~。




