↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/33

祝!!最強の無敗伝説開幕!?

 目の前に君臨する巨大な鋼色の塊。裂けた口から垂れる粘着質のよだれが、足元の雑草をジュッと音を立てて溶かしていく。

 普通なら失禁ものの絶望的な状況だが、俺にはある『秘策』があった。

「ひ、ひぃい…!ショウさん、危ないですよっ!」

 後ろでナギちゃんが怯えた悲鳴を上げる。

「そうよ、アンタみたいな雑魚がしゃしゃんじゃないわよ!」

 んぎぎっ!…ンまぁ要らんヤジが入ったが、お膳立てとしては申し分ないだろう。

 俺は「やれやれ、俺がやるしかないか」と言わんばかりの余裕に満ちた笑みを浮かべ、ナギちゃんたちに背を向けた。そして、背中に回した右手で、後ろにいるミリーへ必死に小刻みなサインを送る。

「(おいミリー…聞こえるか?)」

「(ふぇ?なんですかショウさん、そんな小声で――)」

「(シッ!声がデカイ!ナギちゃんたちに聞こえるだろ!いいか、今すぐ俺にありとあらゆるバフをかけろ。目立たないようにいつもみたいに必要の無い技名を叫ぶのは無しだ!)」

「(えぇっ!?技名言っちゃダメなんですか!?っじゃなくて、ショウさんみたいな人にバフかけたってムダだと思うんですが…)」

「(黙ってかけろ!俺は今『素手で巨大モンスターを粉砕する素のスペックがバグってるカッコいい男』を演出中なんだよ!)」

「(うぅ~わかりましたよぉ、技名言わずに『サイレント・オールバフフルバースト』ですっ!)」

「(結局言ってんじゃねぇか!!)」

 ミリーが背後で魔道書をペラペラとめくり小さく腕を振る。

 瞬間、俺の体内に見えない膨大な魔力が駆け巡り、全身の細胞が活性化していく感覚が走った――気がした。

「フッ、みんな下がりな。こんなデカブツ、俺の手にかかれば一捻りだ(キラーン☆)」

 俺は颯爽と振り返り、完璧なドヤ顔を決める。

「あ?ショウってそんな出来るヤツだったか…?」

 クソっ、テッドのヤツ、毎度要らんことを言いやがってっ!テメェが裏でへそくり貯め込んでんの暴露してやってもいいんだぞ!

「グルアアアアッ!」

 痺れを切らした熊型モンスターが、丸太のような腕を振り上げ、暴風を巻き起こしながら俺に向かって振り下ろされた!

 もう少し格好をつけて起きたかったが、まぁいいだろう。

「フッ、見切った…!」

 フルバフ状態の俺は、堂々と右拳を突き出す!

「喰らえ!…ショウ様アルティメットフルバーストパンチィィィ!!!」

(ペチッ)

 静寂。

 俺の拳は、熊の巨大な鼻頭に優しくタッチしていた。

 公園でハトを突っつくくらいの、実にハートフルなショウ撃音である。

「…」

「…」

 熊が、不思議そうに自分の鼻先を見つめる。痛くも痒くもないらしい。

 そう、俺は失念していたのだ。数学において、いくらミリオンクラスのバフを掛けられようと、もともとの値が「0.000001」ならば、掛け算の答えは微々たるものにしかならないという、無情すぎるリアルを…!

「…あ」

 熊の血走った赤目が、ゆっくりと俺を捉える。

 その瞳に宿っていたのは、威嚇ではなく「なんだこのゴミは」という純粋な蔑みだった。

(ドッカァアアン!!)

「ノォオオオオーーー!!」

「ショウさーーーーん!!」

 熊の適当なデコピン一発で、俺は風船のように弾け飛び、森の木々に激突しながら地を転がった。

 勝てへん。煙の中を悠然と歩く熊と目が合い確信する。

 思考時間、0.5秒。俺の脳からの信号は、攻撃から逃げに転じていた。

「バァフゥのォせェいィでェ足だきゃあ速ぇえんだよぉおお!!」

 ガバッと体制を立て直し、見事なクラウチングスタートを決める。

(ドォン!)

 地面を削る勢いで跳ね起きた瞬間、俺の体は疾風と化していた。脚力バフだけは掛け算が適用されているらしい。素晴らしい疾走感!無駄の無いフォーム!逃げるためだけの完璧なスペック!

「ダッハハハハハ!!おいショウ!逃げ足だけは一級品だなぁおい!」

「なーにがアルティメットパンチよ!俊足の無駄遣いにも程があるわよバカ!」

 後ろから飛んでくるテッドとリタの容赦ない爆笑と、ヤジ。

「うるへぇー!勝てない戦いから迅速に撤退するのは戦略の基本だろぉ!」

 横目を走らせると、青ざめた表情で固まっているセレナさんの姿が目に入った。

 普段の優雅なお姉さんからは想像もつかない冷ややかな目と、開いた口が塞がらないといった様子で絶句している。完全に引かれている。マズぅうい!!

「おや、ショウ君。その馬力ならハニーの牽引も任せられそうだね」

 その横では、非常時だというのにベルトがドライバーやスパナを手に、ボンネットの煙を優しく吹き払いながら修理にいそしんでいた。

「今それどころじゃないだろ!車より先に俺を助けてくれ!」

「ハハ、大丈夫だよショウ君。その調子ならあと三時間は逃げ切れるさ」

「そういう問題じゃねぇよ!!」

「ひゃあ!?ショウさん!うしろ、うしろ届いてますっ!追い付かれちゃいますぅ!」

 逃げ回る俺の背後で、自分の装備なのか、ナギちゃんが弓を握りしめたまま、泣きそうな顔でピョンピョン跳ねて叫んでいる。

「あ、あのっ…っ!ショウさん、これ使ってください!」

 必死の思いといった様子で、彼女はその辺に落ちてる太めの木の枝を拾い、俺に向かって差し出そうとしてくれた。

「気持ちは嬉しいけど木切れ一本じゃどーにもならんのよ!ってかテッド!笑ってねぇでなんとかしろ!隊長だろ!?」

「あ~?そうだな、頼れる先輩風吹かせる時が来たかぁ?」

 逃げ惑う俺の横を、テッドがあくびをしながらぬるりと追い抜いていく。

「早くぅ!早くなんとかしてくださいテッド様ぁあーー!!」

「わーかったわかったって!んじゃサクッとやっちゃいますかね」

 テッドが立ち止まり、指の関節を鳴らした――その直後。

「――遅い」

 静かだが凛とした声が、森の空気を一変させた。

 次の瞬間、空間が歪むような感覚とともに、鮮烈な風が俺の頬を吹き抜ける。

「ちょっとそこどきなさい、ヘラヘラ隊長!」

 赤いリボンをはためかせ、疾風のごとき速さで跳躍したのはリタだった。

 身の丈程もある巨大なハサミを刹那(せつな)の動作で二つに切り離し、双刃(そうじん)の剣として両手に閃(ひらめ)かせる。

(ガキンッ!ギンッ!)

 目にも留まらぬ刃の連続閃撃!熊の強靭な鋼色の皮膚が、まるで紙やすりでも切り裂くかのように火花を散らして弾けた。

「グルァアアアア!?」

 思わぬ急襲に体制を崩し、巨体がグラリと揺れる。

「ナギ、今よ!」

「は、はいっ…!」

 返事とともに、ナギちゃんが長弓を引き絞る。さっきまで怯えていた瞳は一変し、冷徹なハンターのそれに冴え渡っていた。

(ズバァアアンッ!)

 無言で解き放たれた一矢が、空気を切り裂く重低音を響かせ、熊の巨腕の関節を正確無比に穿ち抜く。

「グガアァアア!?」

 両腕の自由が奪われ、完全に隙だらけになった巨大熊。

 そこへ、揺らぎない足取りで悠然と歩み出たのはセレナさんだ。

 手にしているのは、細身でありながら精緻な装飾が施された、一目で業物とわかる長杖。

「あらあら、ずいぶんと行儀の悪いお出迎えですね」

 言葉もなく、ただ静かにその美麗な杖が振り下ろされた。――ズン、と空気の重さが変わる。

 魔力なんて小難しいことは俺にはサッパリわからん。だが、一瞬で吐く息が白くなり、肌に刺さるような冷気が走った。本能が「あ、これ触ったら死ぬヤツだ」と理解する。うちのなんちゃって魔法使いとは次元が違う。

(ドォォォォォォオンッ!!)

 杖の先端が空を割ると同時に、熊の足元から巨大な氷柱の結晶が爆発するように、突き立ち、一瞬にしてその巨体を完全凍結させた。

(パキィン……ッ)

 綺麗な音とともに氷の結晶が砕け散り、巨大なモンスターは跡形もなくショウ滅。静寂だけが深い森に残された。

「……あ」

 口をポカーンと開けたまま、俺はその場にヘタリ込んだ。

 戦闘開始から、わずか数十秒。

 第二部隊の、無駄のない完璧すぎる連携。誰一人として技名を叫ぶことなく、ただ当然のように圧倒的な武を見せつける姿に、俺は息を飲むことしかできない。

「ふぅ…。大丈夫ですか、ショウさん?」

 先程の冷徹な射手から一転、弓を納めたナギちゃんが、いつものおどおどした表情に戻って俺へと駆け寄ってくる。

「あ、あの…怪我、してませんか…?ショウさん、私を守ろうとして…前に出てくれたんですよね…?ありがとうございます…っ」

 潤んだ瞳で、心から感謝するように俺を見つめてくる。ヤメテ。

 そのあまりの眩しさと綺麗すぎる心に、俺の胸からドッと黒い罪悪感が押し寄せてくる。

 俺は裏でコソバフ頼んでカッコつけてモテたかっただけで…守るどころかペチッとして逃げ回ってただけで…。

 そこへ、リタがニヤニヤとイジワルな笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

「それにしてもさー、ショウ弱くなぁい?『アルティメットパンチ(笑)』とかイキッといて、ペチッだもんね!ほんっとダサ――」

「うっ…うわぁぁあんっ!!」

「えぇ!?」

 デコピン一発の激痛、下心モリモリだった羞恥心、己の圧倒的無力さ、そしてナギちゃんの純粋すぎる感謝への罪悪感。あらゆる感情が決壊し、俺は地べたに座り込んだまま大粒の涙と鼻水を撒き散らして号泣した。

「俺…っ!すっごい怖くて…っ!本当は戦うのめちゃくちゃ怖くてぇええ!!」

「え、ちょ、ショウ…!?」

「カッコつけたかっただけなんだよぉお!ナギちゃんやセレナさんにイイトコ見せたくてミリーにコソバフ頼んだのに全然効かねぇし!鼻タッチしたら蔑んだ目で見られるし!デコピンクソ痛ぇし死ぬかと思ったんだよぉおおおお!!」

「えっと…あの…ごめんね?」

 さっきまでの煽り顔を一瞬で吹き飛ばし、リタが派手に動揺し始める。まさか目の前で全力のガチ泣き&全白状をかましてくるとは思わなかったらしい。

「わ、私…そんな、そこまで言うつもりじゃ…っ」

「ウヒョウォッハハハ!!あーあ!リタがショウ泣かせたぞーー!!」

「笑ってないでどうにかしなさいよヘラヘラ隊長!!ち、違うのショウ、私そんなつもりじゃ…っ!」

「ひゃあぁあ!?ショウさん泣かないでくださいぃい!わ、私が代わりにお手当てしますからっ!」

 慌てふためくリタと、おろおろしながらハンカチを取り出すナギちゃん。

 それを見て大爆笑するテッドと、直ったばかりのフィアンセを愛おしそうに撫で回すベルト。

「も、もう~!ショウさん、泣かないでくださいよ~!私だって技名言わずに頑張ってバフかけたのに全然効いてないですし…あはは、ショウさんらしくて最高でしたよ!」

 遅れてやってきたミリーが、くすくすと楽しそうに笑いながら参戦してくる。…フォローのつもりなのかバカにしてるのか、もうどうだっていい。

「ち、違うのよミリー!私がちょっと煽っちゃったから泣いちゃったみたいで…って、ちょっとショウ!本当に泣くことないじゃない!冗談よ冗談!」

 あたふたと手を差しのべたり引っ込めたりするリタの横で、ナギちゃんは必死にハンカチで俺の涙と鼻水を拭ってくれようとしている。天使か?天使なのか?心が余計に痛い。

「ふふ、良いではないですか。自分の無力を素直に認められるのは、ある意味で勇気がある証拠ですよ」

 優雅な足取りで近づいてきたセレナさんが、風のように微笑む。多分これはフォローだ。ありがとうございます。

「まあまあ、ショウ君だって頑張ったんだし結果オーライだよ。さ、フィアンセの機嫌も戻ったことだし、出発しようか」

 イカれたエンジンをピカピカに磨き上げたベルトがボンネットを撫でながら告げる。

「ほーらショウ、お前の好きな車の時間だぜ?次はコイツの牽引係として走ってみるか?」

「断る!!」

 テッドの心底楽しそうな煽りに怒鳴り返したものの、一度切れたテンションは二度と戻らない。

 おでこの激痛に耐えながら、俺は膝についた砂を力なく払い、重い足取りで立ち上がる。

「…はぁ。乗らせていただきますよぉ、はいはい…」

 カッコつけてあの世に逝きかけ、見事に泣きじゃくり、挙げ句の果てに女性陣に生暖かい目で見送られるという、男として最低最悪のコンボを決めた俺。

 トボトボと情けない背中を丸めながら、修復されたフィアンセの後部座席へと、地を這うように進んだ。

 バタン、とドアを閉め、シートに沈み込む感覚に身を委ねる。

 俺は膝を抱えて車内の隅っこで小さくなり、外界との遮断を試みる。早くこの黒歴史ごと時空の歪みに飲み込まれて消えてしまいたい。グスンっ。

 そこへ、隣のドアが軽快な音を立てて開き、ミリーが車内へ乗り込んでくる。

「ふぅ~、お疲れ様でしたぁ~!」

 パタパタと手で顔を仰ぎながらシートに腰を下ろした彼女は、沈み込んでいる俺の顔を覗き込むと、心配そうに眉を下げた。

「ショウさぁん、まだ落ち込んでるんですか?そんなにシュンとしないでくださいよぉ…」

「…頼むからほっといてくれ…」

「ダメですよ!ショウさんの元気がないとみなさん困っちゃいます!そうだっ、私、ショウさんを元気づける良い方法を思い付きました!」

 ポンと手を叩き、世紀の大発見級のピュアな笑顔を向けてくるミリー。嫌な予感しかしない。

「私、ショウさんのこと全力で励ましてあげますね!」

「…は?」

「聞いてくださいショウさん!確かに今日の『アルティメットパンチ』はモンスターにペチッと当たっただけで、虫を払うみたいにデコピン一発で飛ばされちゃいましたけど、でも、ショウさんの技名、すっごくカッコよかったですよ!物語の主人公みたいでした!」

 グサッ。

 純粋無垢な瞳で語られる、あまりにも痛烈な戦闘の振り返り。1ミリも悪意がないだけに、刃となって俺の心をえぐる。

「それに、あの逃げ足の速さも本当にすごかったです!私、ショウさんがあんなに速く走れるなんて、知らなかったので感動しました!やっぱりショウさんは逃げる才能ならうちで一番ですね!」

「…もう、もう黙っていてくれ」

「えぇっ!?なんでですか!?ショウさんの良いところいっぱい褒めて励ましてあげてるのにぃ~!」

 本気で不思議そうに首をかしげるミリー。この子、一切バカにしていない。百パーセント善意と優しさだけで俺の死体蹴りをかましてきているのだ。時に優しさは人を傷つける…。

「ふっ…クク…おいおいミリー…ククッ…あんまりショウを追撃するもんじゃねぇぞぉ~?…クハハ!」

 助手席からテッドが、バックミラー越しにニヤニヤしながら俺たちを見下ろしてきた。本人は笑いを堪えて平然を装っているが、全然堪えてきれてないし、最終的に笑っている。○す。

「ショウ君の傷ついたメンタルはね、フィアンセのスパークプラグを交換するのと同じだよ。前の馬車で牽引してあげれば、きっとショウ君の心も火花を散らせて再始動するハズさ」

「俺は別にエンジントラブル起こした訳じゃねぇよ!あと人を馬車で牽引しようとすんな!」

「あははっ!なんだぁ、ショウさん牽引されたかったんですねぇー!可愛いじゃないですかぁ~」

「だぁあぁああい!全員揃って俺のHP削ろうとしてくんじゃねぇえーー!!」

 我慢の限界に達し腹を抱えて爆笑するテッドと、良かれと思ってぎゅっと腕を絡めて慰めようとしてくるミリーの無自覚な追い討ちに、俺は車内で絶望の悲鳴を上げた。

「よーしみんな、出発進行!」

(バツンッ…キュルキュル、ガラガラガラ…!)

 車体底部から、何かが弾け飛ぶような異音が響き渡った。

 それは修復されたばかりの車が悲鳴を上げた機械音だったのか、それとも度重なる追い討ちによって俺の中で何かが完全に切れ、崩れ去った音だったのか…それを知る者は誰もいない。



 ~続く~

ご一読ありがとうございます!!

気になるショウくんの『秘策』、魔法使いとして『は』(※ここ重要)優秀なミリーちゃんからコソバフを貰うという内容でしたね。なんと野蛮でゴリ押しチックな作成なのでしょうか…。

ま~あ予想通り情けない結果に終わってしまい、心に大きな傷を負ってしまいましたね(笑)。

さ、立ち上がり前を向いて欲しいものですね!(すっとぼけ)

では、また来週~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。