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祝!!運命の選択!?

 俺は今、人生の岐路に直面している。

 というのも、作戦会議とは名ばかりで、ベルトとセレナさんが「僕、私こうします」と二言発言しただけで終わってしまった。

「よし、じゃあみんなの分のコーヒーでも淹れようかな」

 作戦会議開始からわずか一分。ベルトの爽やかな一言と手際により、場は一気にティータイムへと移行する。

 湯気を立てるマグカップを横目に、俺の脳内演算回路は限界突破の加熱を引き起こしていた。選択肢は二つ。苦味を我慢してブラックで大人の男を演出するか、砂糖を山盛りにしてお子様認定されるか。

 後者はもちろん却下だ。せっかくのアピールポイントだというのにカッコ悪い姿は見せたくない。

 ふと見れば、ナギちゃんは完全に視線を落とし込み、リタの服の袖をぎゅっと掴んでもじもじ縮こまっている。怯えているのか人見知りなのか、どちらにせよ、すっかり自分の世界へ閉じこもってしまっているようだ。

 だが、俺の都合のよすぎる脳内フィルターは違った。その伏せられたまつ毛の奥に「ブラックを飲む大人の男の人、素敵かも…」という無言の期待を受信したのだ。言ってなくとも俺には聞こえた、うんうん。

「ショウくんは砂糖とミルクどっちにする?」

 完璧な手際でポットを傾けるベルトが、眩しい笑顔で尋ねてくる。

 今だ。ここでナギちゃんとセレナさんに向けて、男の生き様を見せつける!!

「あ、お茶で」

(ドーーン!!)

 渾身の一言が会議室に響き渡る。

「アハハ、お茶ね。急須はあったかな」

 そんなベルトの呟きが落ちた直後、案の定、爆速のツッコミが鼓膜を突き破ってきた。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 額に青筋を浮かべたリタが、バシッと机を叩いて身を乗り出してくる。ハーフお団子から伸びる赤いリボンが怒りでピコピコ跳ねていた。

「アンタさっきまで『大人の男を見せてやる』みたいな顔でドヤってたわよね!?なんで土壇場で『お茶』なのよ!さては苦いのが飲めないお子様ね!?」

「いちゃもん付けてきてんじゃねぇぞこの金髪プレゼント女が!格式高い俺にはコーヒーの苦味よりお茶の渋みの方がふさわしいと判断しただけだ!」

「苦しいのよ言い訳が!格式高いってのも下が蛍光黄緑で説得力皆無よ!」

 あー言えばこーゆーとはこのことだ。ギャンギャン噛みついてくるリタに俺が机に足を上げ応戦していると、その背後から恐る恐る小さな声が上がった。「あ…あのっ…」

 袖口からちょこんと指先を覗かせ、涙目でおずおずと手を上げたのはナギちゃんだった。

「わ、私も…お茶が、いいです……。コーヒー、苦くて…飲めなくて…」

「「…」」

 一瞬で会議室に静寂が訪れる。

 俺はベルトから手渡された湯呑みを指先でつまみ上げ、勝利を確信したドヤ顔でリタを見つめ返した。

 ほら見ろ、俺の土壇場の気遣いがナギちゃんを救ったのだ。多分…。

「…チッ。ナギが言うなら別だけど…」

 実に不服そうな顔でそっぽを向くと、急須を持ったベルトが「はーい、お茶組1人追加ね~」とニコニコ顔で湯気を立て始めた。

「ナギちゃん、そこの蛍光黄緑を警戒するのは間違っちゃいねぇが、根はただの格好付けのチキンやろうだから安心していいぜ」

 不意に、横からずずっとお茶をすする音が響いた。いつの間にかマグカップと湯呑みを手にしたテッドが、どこか落ち着いた、しかし見透かしたような眼差しで俺とナギちゃんを見ている。

「なっ…!誰がチキンやろうだテッド!」

「図星だろ。何が言いたいかっつーと、そこまで怯える必要無ぇーってこった。…まぁ、一番警戒すべきなのは、そのジャージじゃなくて俺の熱い視線なんだがな」

 最悪である。緊張をほぐすための言葉を掛けるかと思いきやセクハラである。

 ナギちゃんがひぃっと悲鳴を上げて再びリタの後ろに隠れる。

「テッドさん…」

 それまで静かにメラメラと怨念を燃やしていたミリーが、冷ややかなジト目でテッドを睨み付けた。

「さっきから急に『頼れる先輩風』を吹かせて、第二部隊の皆さんに良い顔をしようと――」

「あーーーはいはい!ミリーちゃんは黙ろうねー!!」

「むー!むー!」

 テッドが強引にミリーの口を塞ぎ、都合の悪いことはシャットアウトする。構図は兄弟喧嘩のそれになんら遜色無いな。

 口をバタバタと手で押さえられながら、まんまるい目を怒らせて抗議する姿は全く緊迫感を与えない。

「ちょっとテッド!アンタと違って優秀な人材になんて口塞ぎしてんのよ!」

 すかさずリタが身を乗り出し、バシッとテッドの手を叩き落とす。

 解放されたミリーは、ポンと音が出そうな程勢いよく頬を膨らませると、テッドへ指を突きつけた。

「ぷぅー!ホントのこと言おうとしただけなのにヒドイです!私にも自由に発言する権利があるんですよ!」

「ちょちょちょ、悪かったって。ほら、後で飯でも奢ってやるからさ」

「え!ホントですか!仲直りですね!」

 怒りの炎が鎮火し、ぱぁぁっと花が咲いたような笑顔に変わる。あまりの早さに、彼女の指はまだ空を切ったまま止まっていた。

「くく…今『飯』の一言で買収されたぞ、この優秀(笑)人材…フッ」

「ミリー!アンタにはプライドってもんが無いの!?」

 リタの絶叫も今のミリーには届かない。

 多分今アイツの頭ん中では『何を食べさせてもらうか』のメニュー表で満たされているだろう。

「じゃ、じゃあ…デザートにドリンクバーも付けてくれますか……っ?」

「おう、好きなだけ飲め!」

「えへへ、やっぱりテッドさんはうちの隊長さんですね!!」

 ンチョロい。チョロすぎる。「頼れる先輩風」と冷酷に切り捨てていた男を、たった一回の奢りが彼を英雄に仕立て上げたのだ。

「ふふ、仲直りできたみたいで良かったですね」

 それまで自分の子どもを見守るような温かい目で俺たちの会話を聞いていたセレナさんが、マグカップをそっと置いた。

「でも、お祝いの宴会は作戦を無事終えてからにしましょうね。…そろそろ、出張の時間ですから」

「んあ?…あーっと、もうそんな時間か」

 テッドが何もない手首を見つめて頷く。

 何が見えているんだ。

「おら、準備してこい」

「はーい!」

「よし、じゃあ冷めないうちに湯呑みを下げて、現場に向かおうか」

 ベルトが爽やかに立ち上がり、手際よく片付けを始める。

 お茶会モードから一転して、これから仕事モードの雰囲気を感じとり、俺も立ち上がった。

「ほらナギ、行くよ」

「う、うんっ」

 リタに手を引かれ、ナギちゃんはカバンに付いたキーホルダーのように後を追う。

 蛍光黄緑のジャージの裾を軽く整え、現場への第一歩を踏み出――

「あ、着替えてきまーす」

(ドーーン!!)

 俺がドアに向かって爽やかに一歩を踏み出した瞬間、背後から盛大なバカにするような溜め息が降ってきた。

「ハァ…コイツもう置いてかない?」

「まぁまぁリタっち、そうカリカリしなぁいの♡」

「うわキモッ!流石の隊長でもそれは許されないわよ!」

「へーへー、すまへんなぁ」

 テッドが見るもの全てをイラつかせるヘラヘラで気を引いてくれているうちに俺は自室へ脱兎のごとく駆け出した。



 俺は今、人生の岐路に直面している。

 というのも、今俺が抱えている問題が『何か頑張ればセレナさんやナギちゃんと一緒に連れてってくれるかも?』問題だ。

 第二部隊のみなさんは優雅な高級馬車なのに対し、俺たちのは馬車なんて上品な物ではなくベルトのフィアンセことオンボロ車だ。

 馬車の大きさや荷物の配置を鑑みて俺は考えた。

 ワンチャンもう一人乗れるくらいのスペースあるんじゃね?頑張ればセレナさんやナギちゃんと夢の相乗りが実現するかもしれん!

「うーし、俺はセレナさんとこに行っちゃうもんね~」

 マズい!

 いそいそと高級馬車の方へと、下心満載の足取りで乗り込もうとするテッド。

「おっと、テッド君は助手席だよ?」

 彼の肩に魔の手が差し掛かる。いや、俺にとっては天の手か。

 いつの間にか背後に回り込んでいたベルトが、万力の力でズルズルとテッドを車内へ連れ去って行く。

「おい待て!い、嫌だ!俺の大きなお友だちの夢がぁあーーー!!」

 ナイスだベルト!これで馬車の席は一つ確保された…!

 ピースは揃った。いざ行かん…!

(ピキーーン!!)

 なぜか脳内の危険察知アラートが反応した。どうした?なにがあったんだ?

『ちょっと待てよショウ。このまま行けばリタにお茶とジャージをいじられてナギちゃんの前で恥じかくことになるゾ!』

 なるほどな。冷や汗が背中を伝う。

 自ら罠に飛び込む程バカじゃない。ここは「大人の余裕」を見せて撤退するのが最適解だ。別にチキった訳ではないのでそこは勘違いしないで欲しい。

「やっぱり慣れ親しんだ車が一番だよな!」

「おや!ショウ君もわかってきたみたいだね」

 自分を守るためなら、訳わかんねぇ話にも付き合ってやるし共感もしてやる。

 ミリーを押しやって後部座席へ滑り込み一段落。オンボロ車に乗ってしまうこととなったが、これでいいんだ。

 後は出発を待つのみ…と、その時。すっと馬車の窓が開き、ナギちゃんがこちらへ不安そうに顔を覗かせた。

 見ろ!この俺の凛々しい判断を…!

「あ…ショウさん…っ」

 ナギちゃんはどこか寂しそうに眉を下げると、ぎゅっと胸の前で手を握りしめて、言った。

「私…ショウさんと同じお茶組だったから…馬車で一緒に……お茶のお話、したかったです…」

「~??????????」

 パタン、と静かに閉まる馬車の扉。

「ほーん、よかったじゃねぇかショウ。デートのお誘いだ(・)っ(・)た(・)ぜ?アッヒャッヒャ!」

「みんなシートベルトは付けたかい?出ぱーつ!」

 爽やかなベルトの笑顔と、鬱陶しいテッドの爆笑に見送られ、オンボロ車はガタガタと揺れながら発進した。

 クソっ!!



 激後悔中なう。

 後悔してもしきれないとはこのこと。後悔、悔しい、これらを因数分解すると後悔の二乗。ということは後悔=悔しい。そんな意味の無い方程式を解く程後悔している。

 俺が人知れず後部座席で手を組みお通夜状態に陥っている隣で、まだ出発して数十分しか経っていないのに寝息を立ててミリーが眠っている。

 寝付きの悪い俺からすれば羨ましい限りだが、俺の心は先程自ら破り捨てた「夢の馬車チケット」の破片を回収する作業でそれどころではない。どこかの誰かに損害賠償を請求したくても、請求書の宛先欄に自分の名前を書くハメになることくらい俺にもわかっているんだから、どうしようもない。

「オラっ」

「ふわぁ!?な、なんですか!?」

 腹いせに幸せそうに眠る彼女の顔を突っつくイタズラを遂行する。

「ショウさん!なにするんですか!」

「おんやぁ?なんのことやら」

「白々しいですよショウさん!絶対私のほっぺつつきましたよね!」

 ぽかぽかと不満そうに腕を叩いてくるミリーの手を華麗に捌く。

「アハハ、喧嘩する程仲が良いってね」

「俺たちは喧嘩しなくても仲が良いけどな!」

「テッド君…」

「ベルト…」

 俺はなにを見せられているのだろうか。目の前でうちのツートップがイチャイチャしている光景のどこに需要が?

「ところでベルト、一個言いたいことがあるんだけど…」

「なんだい、ショウ君」

「この車…」

 一呼吸置いて、

「遅くね?」

「それな。俺も思ったぜ」

 お↑そい。とにかくお↑そいのだ。この前乗ったときより明らかに遅くなっている。

「ちょっと前に入った収入で改造したんじゃなかったのか?」

「あーそれが…改造していったら燃費が悪くなっちゃってね。これ以上スピードを出すとエンストしちゃうんだ」

「……」

 俺は待てる男だ。少々遅くたって全く問題無い。たとえ観光と思われる馬車に後からバカスカ追い越されようと…。

 それより俺が感じたのは第二部隊さんへの申し訳なさだ。時折こちらを待つように馬車の速度を落としたり、停止したりしている。その姿を見るたび猛烈に申し訳なくなり、心の中で手を合わせる。すみません。

「もしかしてずっとこの調子か?現場に着く頃には寿命が尽きちまうぞ」

「ハハ、それは言い過ぎだよショウ君。明日のお昼には着くから安心してよ」

 能天気な返答にツッコむ気力も失い、俺はシートの振動に身を任せてぐったりと背もたれに頭を預けた。

(ガタガタ、ガタガタ)

 尻に伝わる絶え間ない衝撃と、相変わらずの亀スピード。

 最初はあれこれ後悔を巡らせていた脳みそも、あまりの退屈と揺れによって徐々に思考が停止へと追い込まれていく。座席の隣では、すっかり目を覚ましたミリーが暇を持て余してシートの縫い目をいじくり回していた。

「…あ、ショウさん。外、なんかくらくなってきましたよ」

 ミリーの声に引き戻されるように目をみやると、いつの間にか木漏れ日の差し込むのどかな街道は終わりを告げ、うっそうとした木々が視界を遮る深い森の中へと足を踏み入れていた。

 その時だった。

(プス…スス……プツン)

「…ん?」

 嫌な音とともにエンジンが沈黙し、車体がゆるゆると減速して完全に停止する。

「おっと、みんな一度降りてくれるかい?」

 ベルトの指示通り、俺たち全員車から降りてエンジン前へ集まる。

「…困ったな。ここじゃあロードサービスは圏外だよ」

「真っ先に心配すんのがそれかよ!フィアンセのこと心配しろよ!」

「フフ、大丈夫。ハニーと僕の心は圏外でも繋がっているからね」

「車体の心配しろっつってんだよ!」

 どこまでも能天気なベルトに呆れつつボンネットを開き中を覗き込む。エンジンはチリチリと音を出しながら火の粉を吹き出している。さながら泣いているようだ。

「うっへぇ~、完全にイカれちまってんな。どうすんだ?」

「こんな暗い森で立ち往生ですか?そんなの嫌ですよぅ!」

 テッドとミリーがエンジンの惨状を見てリアクションしていると、薄暗い森の奥からバタバタと力強い蹄(ひずめ)の音が響いてきた。

「…ん?なんか戻ってきてる?」

 木々の隙間から姿を現したのは、先を行っていたハズのあの優雅な高級馬車だった。

 俺たちのオンボロ車の前でピタリと停車すると、窓からセレナさんが心配そうに身を乗り出してくる。

「あまりにも姿が見えなくなったので戻ってきたのですが…大丈夫ですか?」

「あ~セレナさん、ちょうどよかったぜ。見てもらう通りベルトのフィアンセがイカれちまってな」

 馬車の扉がバシッと開き、ハーフお団子の赤いリボンをピコピコ跳ねさせたリタが呆れ顔で降りてくる。

「急に気配が消えたと思ったら、なにやってんのよこんな森の真ん中で!」

「み、皆さんお怪我はありませんか…っ?」

 リタの後ろからオドオドした様子でナギちゃんが駆け寄ってきた。その健気な姿を見るだけで、俺のあらゆる疲れが吹き飛んだ。

「うーん、ロードサービスが来れない以上、僕の手で直すしかなさそうだね。少し時間が掛かりそうだよ」

「はぁ…手が掛かる部隊ね」

 リタが深々と溜め息をつき、ナギちゃんが「あの…私に手伝えることがあれば…」とおずおずと俺たちの近くへ歩み寄ってきた時、

(ガサガサガサッ!)

「ひぃ…!」

 ナギちゃんが短い悲鳴を上げてその場にすくみ上がる。

 次の瞬間、木々をなぎ倒しながら姿を現したのは、人の背丈を遥かに超える巨大な熊型モンスターだった。その全身は、鉄のように硬質な鋼色の毛並みで覆われ、丸太のように太い腕の先端には、鈍い銀光を放つナイフのような巨大な爪。

 ガチガチと鋭い牙を鳴らす裂けた口からは、ポタポタと地面を溶かすような粘着質のよだれが垂れ落ちていた。

「グル…ゴルル…」

 胸の奥を直接揺さぶるような低い唸り声を上げ、血のように赤い目を光らせる。お食事モードに入っているらしい。

「うーん、ロードサービスの人じゃなさそうだね」

「あたりめぇだろ!!」

 ショウ直な話、その圧倒的な威圧感とビジュアルにビビリ散らかして漏らしそうではある。

 だが――俺の脳内高速演算回路は、同時に解を導き出していた。

 ここでナギちゃんやセレナさんの前でコイツを撃退すれば、俺の評価が爆上がりなのでは?

 恐怖で震える膝を抑え込み、俺は強情な笑みを浮かべる。

 ピンチはチャンス。ここでビシッと決めて、土壇場でのお茶選択から始まった今日のダサい俺を上書きしてやる…!



 ~続く~


ご一読ありがとうございました!!

今回はショウくんにとってとても重要な取捨選択が迫られました。大人ぶった判断が、裏目に出てしまいましたね(笑)。

ラストでは巨大熊型モンスターへ挑むような意気込みを語ってくれましたが、どうするつもりなんでしょうか?果たしていいとこ見せて好感度爆上げできるのか!?

では、また来週~。

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