祝!!ハーレム系主人公!?
午前5時。まだ大抵の人間は夢の中で楽しく走り回っている頃、俺たちは警察署前に集められていた。
急すぎる呼び出しのせいで着替える暇など一秒もなかった俺の身を包んでいるのは、お馴染みの蛍光黄緑情熱ジャージだ。
だが、俺とて伊達に修羅場をくぐってきた警察官ではない。このどうみても『早朝に追い出された不審者』な部屋着をカバーし、自分が法執行官であることを周囲へ強力にアピールするため、俺は頭にだけ『制服の帽子』を深々と被っていた。
う~ん完璧だ。下は情熱ジャージ、頭上は格式高き警察帽。この一点のシンボルさえあれば、どこからどう見ても勤務中の警察官に違いなかった。
俺は帽子のアングルを微調整し、心の中で自分の完璧な臨機応変さに深く頷いた。
が、そんな俺のささやかな努力など一瞬で吹き飛ぶ程、目の前にはカオスが凝縮されていた。
「うーしっ。ほんじゃお前ら、バイナラ!」
何が行われてるかって?俺たちがしばらく帰ってこれず、世話ができないというのを口実に、ノイマンとララを放逐する、いわゆる在庫処理をしていた。
「特にノイマン、二度と戻ってくんな!もう何回目だ!」
テッドが手をわなつかせ指を差す。肝心のノイマンは、初見じゃだれも極悪人とは思えないスマイルで応じた。
「心配ナッスィーン!このワタクシ、誠実に生きたいと思っておりマース!」
胡散臭いスマイル親父のすぐ隣。この早朝の空気感をまったく理解していない――あるいはわざと無視している――のが、もう1人の問題児、ララだった。
どこか男を狂わせる魅惑的な雰囲気を纏いながら、彼女は大きなあくびを1つ噛み殺した。
「そうそう、私たち、とってもいい子にしてるわぁ」
首をかしげ、後ろで手を組み微笑んでくる。
このイカれサイコが、いい子にしてるって?
お前らがいい子ちゃんにしてるなんてハシビロコウが百メートル走を二秒で走りきるくらいあり得ない話だ。
見た目は極上の美女、中身はノイマンと同等の危険度を誇る歩く災害。2人が揃った時点で、この早朝の警察署前はすでに警察に捕まるべき危険な不審者集団と化していた。
そんな不審者たちの横で、カオスを完全スルーしながら完璧な手際で準備を進める男がいた。我が第三部隊警察署の唯一の良心、ベルトだ。
「ふぅ、朝からその蛍光黄緑は目にこたえるね。じゃあこの紙にテッド君の名前を書いてくれれば手続きは終了だよ」
爽やかすぎる笑顔に空が少し晴れる。晴れ男とはこのような人のことを言うのだろう。
そいで、太陽のような笑顔を受けてなお、早朝招集のダメージをダイレクトに受けて豪快に船を漕いでいるのがミリーだ。
「うぅ…ねむいですぅ…ムニャムニャ…」
「リアルに『ムニャムニャ』っつぅヤツはいねぇぜ?ミリー」
いつになく冷静なツッコミを放つテッドの相手すらできない様子で、ミリーは自分との戦いに没頭している。
ゴシゴシと目を擦りながらウトウト揺れる姿は、警戒心ゼロの小動物そのもの。
「はいはいはーい、名前書いたんで、お前らはもう釈放!ほら、行った行った!シッシッ!」
「シャッチョサン!涙のオワカレではないのですカ?なにかできることは…そうだ!ここで一曲――」
「うっせっ!さっさと失せろ!」
ギターを取り出した辺りで無情にもテッドのドロップキックが炸裂し、ノイマンが遥か彼方へ吹き飛ばされる。
「それじゃあ私もノイちゃんに付いていくわねぇ。バイバーイ♡」
去り際、ララは今にもぶっ倒れそうなミリーへ近付くと、ミリーの頬をムニムニし始めた。
「ミリーちゃんもバイバイ♡」
「むゆぅ…もうきちゃダメでしゅよ…」
一通りコネ終わると、ノイマンが飛ばされた方向へと歩き出す。
街へと放たれた歩く災害の2人…大丈夫だろうか。
俺はもう一度帽子のアングルを微調整し、嵐の去った青空を静かに仰いだ…(笑)
――おい誰だ(笑)なんて付け足したヤツ!!
ノイマンが彼方へ吹き飛び、ララが去った後の署前で、ベルトがパンと手を叩いて爽やかな音を立てた。
「よし、それじゃあ本題に入ろうか。実を言うと今回は第二部隊と合同任務なんだ」
「な、ナニィ!?」
条件反射的な速度でテッドが反応し、目をギラリと光らせる。
なんだなんだ、弱みでも握られてるのだろうか。
「喜べショウ。お前ははじめましてだが、第二部隊っていやぁ…まぁ1人いけすかねぇヤツがいるが、それ以外は全員女で構成された部隊なんだぜ!しかも特A級のな!」
「嘘……だろっ!」
俺の頭の中では、夢にまでみたハーレム主人公として両手に花な俺の姿が。
――(※以下ショウくんのハッピー脳内シミュレーション)――
「ショウく~ん、こっち来てぇん♡」
「ダメよ!ショウくんは私と遊ぶもん!ねえー♡」
「おいおい2人共、俺はみんなの『ショウくん』、だぜ?(イケボ)」
「「キャーー♡♡!!」」
――(※シミュレーション終了)――
「あは、あははははは」
「どした?」
「は……」
おっと危ない。妄想という名の大海に頭を埋めてしまったようだ。
そんな妄想の大海から這い上がった俺の視界に飛んできたのは、凄まじい密度の暗黒オーラを放ち始めたミリーだった。
あれー?さっきまでおねむだったじゃん、どした?
「…スタイル……抜群?……特A級……?」
ブツブツと地獄の底から響くような声で呟きながら、ミリーは己のささやかな胸元を見下ろし、静かに拳を握りしめた。
「許せません…!何が出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでるんですか…!たかが何センチか余分にお肉が付いてるだけじゃないですかぁ…っ!」
「えぇう、どうしたミリー、急に怨霊みたいな圧出して…」
「騙されちゃダメです!あの人たちは全員、スタイルという暴力で世界を支配しようとしている悪の集団なのです!!」
ゴゴゴ…と効果音が聞こえてきそうな程、メラメラと嫉妬の炎を燃やすミリー。
「あんま触れてやるな。あれだ、コンプレックスってヤツだ」
テッドはどこから取り出したのか、ハンカチで自分の目元を押さえ涙を拭いながら呟いた。
全てを理解した上で思った。可哀想に。
「ハハ、みんなやる気十分だね。いいことだ」
後方腕組みベルトは満足そうに頷いた。完全に参観日のお父さんだ。
いやいや違う、そうじゃない。やる気十分…あー十分か…やっぱ無し。うん、やる気十分だ。
「――お待たせしました、第三部隊の皆さん」
参観日パパと化したベルトが満足そうに頷いていたその時、朝日を背に受けて歩み寄ってくる3つの影があった。
現れたのは、見事なまでにスタイリッシュで華やかな――そして我が部隊のカオスさとは対極にある面々だった。
「あらあら~、皆さん朝早くからお揃いで。今回の合同任務、よろしくお願いしますねぇ~」
先頭に立っているのは、スラリとした高身長の超絶美女。黒の制服を着こなした凛々しい佇まいとは裏腹に、ふわりとした包容力のある笑顔を浮かべている。腰まで伸びた艶やかなストレートの黒髪を風にたなびかせる姿は、女神様のように思える程だ。何より目元のほくろが強烈な色気を放っている。
まさに理想のお姉さんといった雰囲気だ。
マジに特A級だ!俺の脳内シミュレーションが現実に……!
だが、そんな女神様の後ろから、不機嫌さを隠そうともしない小柄な人影がヌッと現れた。
鋭いツリ目をさらに険しく吊り上げ、腰に腕を当てた姿勢のまま俺の全身をねめ回している。
小悪魔的な可愛らしさのある顔立ちだが、醸し出す雰囲気は完全に「夜の裏路地で絡んでくる不良」のそれだ。
「ふ~ん。アンタがショウ?ずいぶん弱そうじゃない」
グサッ。
怒涛の勢いで噛みついてきたツリ目ちゃんの後ろへ隠れるようにもう1人、恐る恐る顔を出したのは――制服に着られている感満載の、小動物系美少女だった。
「ひ、ひぃぃっ…!す、すごい色のジャージを着た不審者さんが警察署を占拠してますぅ…っ!」
グサグサッ。
涙目になりながらツリ目ちゃんの服の袖をぎゅっと掴み、プルプルと震えている。ミリーと似通うところが…いや無いな。小柄な体躯にしては立派なモノをお持ちだ。それに、この子に関しては守ってあげたくなるような可憐さだ。俺を見る目は完全に「本物の危険人物を見る目」だったが…。
「弱そうなだけならまだしも、何よその格好。バカまるだしじゃない」
腕組みしたまま鼻で笑い、さらに追い討ちをかけてくるツリ目ちゃん。言ってくれるじゃねぇか。
俺から言わせてみれば、その制服を魔改造して身体の節々からリボンが生えてきているような格好の方がよっぽどバカまるだしだね。何かのプレゼントか、お前は。
頭上でコンパクトにハーフお団子にまとめられた、眩しい金髪。そこから肩の辺りまで伸びた赤リボンが、彼女の身じろぎに合わせてヒラヒラと揺れる。顔の横に落とした後れ毛がツリ目を絶妙に引き立てているが、そんなものよりも俺はもう片方の姿に目が釘付けだった。
いちごミルクのような淡いピンク色の髪を、片側の胸元へゆるりと流したサイドスロー。ふわふわ波打つ毛先が、彼女が怯え震えるたびに可愛く揺れている。明らかにサイズの合っていないブカブカの制服に身を包み、長すぎる袖からちょこんと出た指先で、ツリ目ちゃんの袖をつまんでいた。
小柄な体躯に対して隠しきれていない胸元の主張に、俺の眼球が固定されてしまっているのは男の性として許して欲しい。
「…何よ、人の顔ジロジロ見て。文句あるなら言えば?」
「いや、全身リボンまみれで真っ赤なプレゼント包装みたいになってるヤツにバカ呼ばわりされる筋合いは無いと思ってな。リボン結びの英才教育でも受けたか?」
「誰がプレゼント包装よ!これは私のこだわり仕様!一緒にするんじゃないわよ蛍光黄緑!」
俺が半目で言い返すと、ツリ目ちゃんは額に青筋を浮かべて声を荒げた。ハーフお団子から流れる赤リボンが、彼女の怒りに合わせて生き物のように跳ねる。
「こらこらリタ、初対面の相手に噛みつかないの。…お久しぶりですね、ベルトさんにテッドくん、ミリーちゃんも。それに…あなたが噂の新人さんかしら?」
見かねたように助け船を出したのは、圧倒的女神感を醸し出す黒髪の美女だった。その包容力溢れる声に、ツリ目ちゃん――リタは「ちぇっ」とあからさまに不機嫌そうな顔でそっぽを向く。
「はじめまして。第二部隊隊長のセレナです。うちの子たちが失礼しちゃってごめんなさいね?ほら、あなたたちも」
「……リタよ。足引っ張ったら置いてくからね!」
「は、はいぃっ!あ、あのっ…第二部隊所属のナギです…。不審者さん、どうか命だけは助けてくださいぃ…っ!」
「不審者じゃねぇよ!俺は立派な法執行官だ!」
ブカブカの袖口からでた手で胸元のおさげをぎゅっと抱え、涙目で怯えるナギちゃんの訴えに、俺は頭の帽子を指差して主張した。
「うふふ、うちの2人も、もうショウくんと打ち解けたみたいね?」
目元のほくろを深めて優しく微笑むセレナさんに対し、リタが即座に「どこが!?」と噛みついた。
俺はといえば、深々と被り直した帽子の庇を指でいじりながら、半目で静かに溜め息をついた。
「隊長さん、一度眼科の受診をおすすめします」
「くぅらぁショウ!隊長さんに向かってなんて物言いだ!…いやぁセレナさん、相変わらずお美しゅうございます!やっぱり第二部隊さんは最高の癒しですねぇ!」
すかさずテッドが俺の頭にポンと手を置き、鼻の下を伸ばしながら割り込んでくる。実に現金なヤツだ。だから話が合うんだが…。
そんなやり取りの横で、ふとナギちゃんがブカブカの袖口から顔を覗かせた。その潤んだ瞳は、俺たちの後ろに立っていたミリーへと注がれている。
「あ、見て見てリタちゃん!ミリーちゃんだよ!可愛い…!」
おさげをギューっと抱え、パアアっと目を輝かせるナギちゃん。可愛い物好きの心が刺激されたのか、本心からの憧れといった様子でおずおずと距離を詰めようとしたのだが…。
「へぇ?可愛い?そのスタイルでそれを言うのは、高度なマウントですかぁ…!?」
ミリーの目が怪しく光った。ピキリと眉を引きつらせ、全身から黒い怨念オーラをドバドバ放出させ始める。ナギちゃんの恵まれた身体と自分の貧相な身体とを瞬時に比較し、毛を逆立てた威嚇モードに突入した。
「ひ、ひぇえええ!?ごごごごめんなさぃいーー!!」
あまりの迫力に、ナギちゃんは悲鳴を上げてリタの背後へ全力退避した。
「ちょっと!うちのナギをいじめないで欲しいんですけど!」
「いじめてません!むしろいじめてきたのはそっちの方です!そしてこれは私の危機管理能力ですぅ!」
キャンキャン叫ぶリタと、地獄のオーラを纏ったままジト目で睨むミリー。早くも勃発した女子たちの謎の小競り合いを前に、ベルトはにこやかに笑う。
「ハハハ、相変わらず賑やかでいいね。それではセレナ隊長、立ち話もなんだし、中に入って今回の合同任務について、温かいものでも飲みながら詳しく話そうか」
「そうですね。ではお言葉に甘えて。ほらみんな、行きましょう」
リタナギコンビはセレナさんに背中を押されて渋々署に入っていく。なんだこれ、引率の先生?
「あーそうだったな。忘れるところだったぜぃ」
テッドも正気を取り戻し、頭をガシガシ掻きながら玄関へと向かう。『忘れるところだった』じゃなくて『忘れてた』と言うのが正しい答えだと伝える気力も俺には無かった。
全員が自動ドアに吸い込まれていく中、俺は1人不安を抱えていた。
「やっていける気がしねぇ~…」
~続く~
ご一読ありがとうございます!!
ノイマンさんとララさんという爆弾処理を終えた矢先、第二部隊さんの濃い面々が新たに参戦ッ!
ショウ君が少しでも良い思いをしてくれれば幸いなのですが、運命は神のみぞ知ると言ったところでショウ。
ではまた来週~。




