祝!!目指せ!完全無欠の身体と警察署!?
「そしたらァ、やっていくヨ――オァアアアアア!!」
「ギャアーーーーー!!?」
俺の骨から鳴っちゃいけない音と共に上半身と下半身を引き裂くような痛みに襲われ、ガチ悲鳴を上げる。
日に日に酷くなる腰痛に苦しんでいると、テッドが今いる整体を紹介してくれたのだが、待ち受けていたのは地獄の痛みだったようだ。
「こんのヤブ医者が!何してくれとんじゃあ!」
「ワタシもォ、びっくりだヨ。どしたらァこんなに骨がずれるんだヨ」
先生が言うには俺の背骨が螺旋階段のごとくネジ曲がってしまっているらしく、それをゴッドハンドにより手直ししようとしているらしい。
それにともなってこの痛みがやって来るっていう算段だ。痛ぇな、でも痛ぇな。
「もいっちょいくヨォ。」
「待て待て、やっぱ大丈夫だから!」
「ホワァアアア!!」
「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ン゛!!」
(――ボキボキボキボキッ!!!)
背骨から腰にかけて、まるでドミノ倒しでも起きたかのような連続音が体内で鳴り響く。あまりの衝撃に今度こそ昇天するかと思った。実際一瞬意識飛んだんじゃねぇか?
「っっつぅー!いってぇー!」
「フフーン、もういけるんじゃないのォ?」
「んー、ん?…お?おぉ…!」
試しに起き上がって身体をねじってみる。驚くことに俺をさんざん苦しめてくれた腰の痛みは吹き飛び、普段の数段増しで腰が回る。
「オニイサン肩こりがヒドイでしョ?ついでにィ解消しといたヨ」
「すっげぇぜ親父!どうやったらこんなに良くなるんだ!?」
親父さんは怪しげなヒゲをチョビチョビいじくり間を空けると、頭で照明の光を反射し微笑んだ。
うーん、見た目は完璧ヤブなんだけどなぁ。
「ワタシの国ではァ、高名なァ整体師としてェ、有名だったんだヨォ」
自慢げに斜め上を向きドヤ顔を決める。
腐っても職人、やることはやるんだなぁ。
「あ、お代は10000ゴールドネ」
「やっぱヤブじゃねぇか!二度と来ねぇからな!」
「ナハハハ、ジョウダンだヨ。簡単な施術だったからァ、お代は無しでいいヨ」
やっぱ最高の整体師だよ、アンタは。クソ痛ぇ以外は…。
外に出て爽やかな空気を思い切り吸い込む。驚く程身体が軽い。いつもなら一歩踏みしめる度ズキズキ痛んだところだが、そんなことなど微塵も感じさせない。
「わはは!今の俺は最強に強い気分だぜ!」
腕をぶんぶん振り回しながら治療院の看板を見上げる。そこには変な形をした文字で『ぜったいなおる』とだけ書かれていて、やっぱし怪しい。
なんにせよ完全無欠の身体を手に入れたんだ。とりあえず帰ろう。
「よ!ショウじゃん、調子どう?」
「やぁやぁお姉さん方。おかげさまで最高っすわぁ!」
俺の輝かしい合格証書授与式という晴れ舞台が、テッドの変動報道により女性人気を地の底に陥れられることとなったのだが、日頃の努力、もといパトロールを誠実に務めていたおかげで今ではこうして声をかけられる程にまで回復した。そう、どうとでもなるんだ。基本的に努力が嫌いな俺だが、努力がいかに大切かを切に感じた。
本当に体が軽い。これなら、あのカツアゲ気味の職務質問で擦り減った精神も、爆発で吹き飛んだ警察署の無残な姿も、笑顔で受け入れられそうな気がしてくる。やっぱり健康って素晴らしい。
そうして、やっすい木の板と釘でガタガタに応急処置された我が警察署が見える角を曲がった、その時だった。
「ああああああああああーーー!!」
「………ハァ」
上機嫌でスキップしていたのもつかの間、聞き覚えのある野太い叫び声が俺の耳をつんざき一気に現実へと引き戻された。
「今度はなんだよ?」
独り言のように呟き扉を開けると、前回の報酬金が入った袋の前でテッドが頭を抱え肩を震わせていた。その周りではベルトが考え込むように腕を組み、ミリーがその場であたふたしている。
「やぁショウくん、腰の調子はどうだい?」
「あぁバッチリだ。…状況を教えてくれ」
「ショウお前ぇえーーー!聞いてくれよぉ!」
俺が問いかけた瞬間、テッドが文字通り怒涛の勢いで掴みかかってきた。
その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ、目は血走り、まるでこの世の終わりを迎えたかのようなガチ泣きっぷりだ。
「俺ぁ、俺ぁ悪くねぇ!悪くねぇんだよ!お前が死ぬ思いで肩車して、俺が無実の民に冤罪をふっかけまくって、ミリーが迷子を見つけて、全員の血と汗と涙で掴み取ったハッピーマネーだろぉ!? なのに、なのにさぁ!」
ものすごい熱量で前後に激しく揺さぶってくるせいで、せっかく治った俺の背骨が早くも悲鳴を上げ始める。
「ベルトとミリーがよぉ!この金貨の山をじーーっと見たと思ったら、『違和感が』どうだの『術式が』どうのって言い出してさぁ!偽もんが混ざってるって言うんだよぉお!領主のオッサン、マックスの額を耳揃えて払ってくれたのに、その中に激ヤバな偽金が紛れ込んでるって、そんなのってないだろぉおおお!!なにが許せないって一部だけなんだ!普通やるなら全部やるってのに姑息にもほぼほぼ本物の金を敷き詰めた中にしれーっと偽金を入れてるってこった!こんなの『ちょっとくらい偽金入れてもバレないよね☆アイツらバカだもぉーんw』って言われてるようなもんあぁああああああああ!!!」
テッドの中でなにかがちぎれたのか頭を抱えながら真上を向いて発狂し始める。なんちゅう口の回転してやがる、お前はラッパーか!
「ちくしょう!あのクソ領主め!殴り込みに行っちゃる!」
泣いたり怒ったり忙しいヤツだ。踵を返して外へと向かうが、その襟をベルトが引っ張り呼び止める。
「ごぶっへぇ!?危ねぇなベルト!死んじまうだろ!」
「おっと、ごめんごめん。でもあの善良なことで有名な領主様がこんなことするとは思えなくてね」
「ベルトよ、この世のなかは正直者が馬鹿を見るんだぜ?領主のヤツも疲れたんだろ。だからこんな悪質な犯行に手ぇ染めやがったんだ!行くぞぉお――グゥエ!?だから死ぬっつってんだろ!」
涙目になり首をおさえ、テッドがようやく冷静さを取り戻したのを火蓋に、ベルトが机上の金貨に注目を集めさせた。
「ショウくん、これを見てどう思うかい?」
渡された金貨をよく見てみる。重さ、色、金属の擦れる音、どれを取っても完璧で、これが偽金なんて言われても信じたりしないだろう。
「どっからどうみても本物だと思うぞ?どこが違うんだ?」
「僕が報酬金の計算をしてた時に違和感を感じてね。一応ミリーに魔力解析してもらったんだ。そしたらね…」
「王国の鋳造院が刻んだ、絶対に偽造出来ないハズの防偽用魔法術式が、ほんの僅かに…例えば髪の毛一本分くらい書き換えられていたんです」
ミリーが不安そうに手元をモゴモゴさせて説明してくれた。
「まぁ話は見えてきたけどなんでこんなことする必要があるんだ?」
「それがちっともわからないんだ。領主様すら気付かない程精巧な作りの偽金を使って何がしたいのか…上にも報告して調査していくつもりだよ。極秘調査になると思うから、今回のことは他言無用。もちろん、街の人たちにもね」
ベルトは人差し指をマフラー越しの唇に当てると悪戯っぽく笑い俺たちを見つめた。
「他言無用って言われてもなぁ」
俺は手の中の金貨をもう一度見つめ直した。
整体の親父のおかげで限界までクリアになった俺の目。それでも、言われなければ絶対に気づけない。それ程までにこの偽金は「完璧」だ。
もしこれが街に出回ったらどうなる? 誰も気づかないまま、パンを買い、服を買い、宿に泊まる。経済が崩壊するのか、それとももっと別の、魔法的な大惨事が起きるのか。専門的なことは俺にはわからないが、背筋に冷たい汗が伝うのだけはハッキリとわかった。
「なぁベルト」
それまで首を押さえて唸っていたテッドが、珍しく神妙な、どこか低く地を這うような声で口を開いた。
「なんだい、テッドくん」
「その、絶対に偽造できねぇ術式ってのを書き換えるってのはどんくらいヤバい奴ならできるんだ?」
テッドの問いに、ベルトは持っていた金貨をコト、と置いた。その音がやけに静かなオフィスに響く。
「そうだね。王国お抱えの最高位の魔術師と同等、あるいはそれ以上の知識や魔力が必要だろうね。しかも、偽金製造を察知されずに、領主様の金庫にまで流通させる組織力や人脈がある。そんじょそこらのこそ泥やちょっと腕の立つ詐欺グループの仕業ではないことは確かだね」
「国家レベルの魔術師、かよ…」
テッドはそう呟くと、手を頭の後ろで組み、椅子の背もたれに体重を預けて天井を見上げた。まぁ一部綺麗な青空が見えるのは黙っておく。
いつになく真剣な横顔を見て、俺は少し意外な気がした。普段は女に目がなく手当たり次第ナンパを仕掛け、その度ボコボコにされて帰ってきたり、ありもしない疑惑をふっかけて逮捕しようとしたりするクセに、こういう目に見えない脅威には野生の勘が働くらしい。
「強大な力を持った組織…。……ッ!」
急にテッドが跳び跳ねるように椅子から降りてベルトに視線を向ける。その様子は、何か本能的な恐怖に突き動かされているような、開けちゃいけない玉手箱を開いたような、うまく言えないけどその時俺はそう感じたんだ。
「心当たりあんのか?」
俺が口を挟むと、ベルトはハッと我に返ったようにいつもの穏やかな笑みを浮かべ直した。
「あ…あぁ昔テッドくんとちょっと手強い詐欺グループと戦ったことがあってね。大丈夫、もういないから」
「んー?」
ベルトはいつものように微笑んでいるものの、どこか平然を装っているようなどこかぎこちないものを感じた。
「ショウ悪い、変に驚かせちまったな。ベルトの言う通り気にすんな。ほら、せっかく金貰えたんだ、まずは飯だ飯!今日は奮発してうめぇもんでも食おうぜ!」
テッドはわざとらしく自分の頭をガシガシと掻きながら、大声で笑って俺の肩を叩いた。完全に空気を切り替えようとしている。
何を聞いても答えてくれなさそうなのでこれ以上深くは聞かないでおく。そもそもさっきの答えだってホントかどうかも怪しいけどな。
しれっとミリーを見てみたけど、相変わらずアホみたいな顔して何がなんだかわからないみたいだった。
「難しい調査は僕が進めておくよ。みんなはお小遣いをあげるから、何かおいしいものでも食べておいで」
ベルトに促され、ミリーは「わぁ、ありがとうございます!」と完全に元気を取り戻した様子で笑顔を見せる。俺も「それじゃお言葉に甘えて」と、引き締まったばかりの軽い身体でオフィスを後にした。
「何かがおかしい!」
「何がですか?」
応急処置だらけの警察署の前にある、木製のベンチ。
夕方前のあたたかい日差しが差し込むそこに、俺とミリーは並んで腰掛け、近くの出店で買った冷たいアイスを口に運んでいた。ちなみにテッドは「パン屋の姉ちゃんに挨拶してくる!」と、文字通りパン屋へ突撃していった。
「だってよぉ、あの二人絶対なんか隠してるぜ?あんな不自然な反応しちゃってさ、あれで誤魔化される方がおかしいってもんだ」
冷たくて甘いアイスが、疲れた脳をじわじわと癒していく。整体のおかげで腰の痛みは皆無だが、精神的な疲労は別腹だ。
だが、スプーンを口に運びながら、俺はどうしても頭の片隅に引っかかっている違和感を拭いきれずにいた。
「ふむふむ、確かに私だってお二方の様子を見て違和感を感じましたよ」
嘘つけ、見事なアホヅラ見せてただろうが。
「まぁでも、誰にだって隠したいことの一つや二つあるものです。言わなくちゃいけないことなら絶対言ってくれます。だったら今私たちが出来ることは気にせず楽しく過ごしていればいいんです!」
「…そういうもんか」
「そういうもんです!」
勢いよくベンチから立ち上がり屈託ない笑顔を向けてくれる。その能天気さが俺を安心させてくれた。
「俺、ようやくわかったよ。ミリー、お前は最高にバカだ」
「ふっふーん♪そうでしょう!……ん?あれ、今何て言いました?」
「あ?最高に最高だって言ったんだよ」
「嘘です!絶対悪口言いましたよね!ねぇー!!」
空になったアイスのカップを持ちながら警察署の前で鬼ごっこを始めた。ハタからみればバカ二人かもしれない。しかし俺はこの鬼ごっこが堪らなく楽しく幸せに感じられた。
~続く~
ご一読誠にありがとうございます!
今回のお話では不穏な影がちらつきましたねぇ。ここからの展開がどうなっていくのか、楽しみなところでございます。しかし、ベースは変わらずショウ君が胃の痛くなる思いをしそうです(笑)。身体のコンディションを一新してショウ撃に備えて欲しいものです。
ではまた来週~。




