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祝!!みんなでお小遣い稼ぎ!?

 日本の警察組織には『職務質問のガイドライン』というものがある。不審な点がある人物に声をかけ、犯罪を未然に防ぐ高度な技術だ。

 決して、爆発で開いた壁の修理費を稼ぐために、街中で通行人をカツアゲまがいに脅す技術ではない。

「おいコラそこのお前!ホシは割れてんだよ!」

 ホシと言うのは犯人を表す隠語のことだ。やっぱりテッドに職務質問をさせるべきではないな。

「な、なんですか一体!?」

「あーすみません、コイツイカれてるんです。テッド、やたらめったらに暴れまわるなよな」

「なーに言ってんだ!コイツが持ってる黒い袋、いかにも怪しいじゃねぇか!違法魔道具でも詰め込んでんじゃねぇだろぅなぁ?」

「失敬な!これは私が愛情込めて作った今日売るためのパンたちです!」

 服装見りゃわかる。真っ白な長帽子に真っ白いエプロンを着けてりゃなに作るかまではわからんが、食いもん関係者なのは一目瞭然だ。

「ンなら中身見せてみろやァ!!…マジにパンかよ…」

 テッドは、空気の抜けたような声をだし1歩引いた。袋からは焼きたての香ばしい香りが漏れだし、胃袋を刺激する。

「ほらな、わかっただろ?勘違いも甚だしいぞ。さ、すいませんでした。どうぞ行って下さい」

「そうさせてもらうよ、テッドさんと違ってキミは話がわかるようだね」

「……」

 小馬鹿にされてもぐうの音もでないテッドは沸騰したヤカンのような音を出して震えている。ったくよぉ、怒るならこの状況を作り出した元凶に怒ってくれよな。

 そもそも、なぜ俺たちがこんな平日の真昼間から、街頭で通行人に当たり散らすような真似をしているのか。

 理由は、やっすい木の板と釘で応急処置された、我が警察署の無惨な姿にある。

 昨日、仕分け中だった押収品のせいで、新築だった警察署は派手に大爆発を遂げた。窓ガラスは全て吹き飛び、壁には通気性がよすぎる穴が空くという現代アートが完成した。

 そして今朝、煤まみれのオフィスでベルトが爽やかに言い放ったのだ。

『やれやれ、これじゃあ最近の稼ぎでもまかないきれないよ。というわけで僕たちみんなの給料から修繕費を引いてみたけど足りないから、その分今日のパトロールで不審者を検挙して、保安官事務所としての実績ボーナスで稼いでいこう』

 つまり、カツアゲならぬ合法的な点数稼ぎを強いられたのだ。

 ちなみにミリーは「私は可愛い迷子を探してきます!」と、実績になりそうな依頼を求めて別のエリアへ行ってしまった。ついでに最高戦力のベルトも連れて、ずるい。

「おいショウ、あの男を見ろ!こんな真っ昼間から『魔道書』を熱心に読んでやがるぜ…あれは絶対に、街を滅ぼすための黒魔術に違いねぇ!検挙して死刑だ!」

 視線の先にはベンチに座りニヤニヤしている青年がいた。

「よぉよぉ兄ちゃん、こんな昼間からなに読んでんだ?」

「あぁこれですか?恋愛小説です。面白いですよ」

 そう言って青年が差し出した本の表紙はハートで埋め尽くされておりいかにもラブリーな内容なのが読み取れる。

「誤魔化そうったってそうはいかねぇぜ!恋愛小説に見せかけたヤベェ魔道書に決まってらぁ!」

「もういいだろテッド。ごめんねお兄さん、本の続きを楽しんで…」

「はぁ…どうも…?」

 俺はテッドを引きずって、逃げるように頭の上で?マークを大量に出しながら首をかしげる青年の前を後にした。

 それからもテッドの壊滅的な選球眼のせいで俺は右往左往することになった。

「見ろ、あのババァ財布から金を出す手が震えてやがる。きっとあの金は裏金か偽金みたいな汚ぇ金を出す前の緊張に違いねぇ!払った瞬間現行犯逮捕だ!」

 単にちょうどいい硬貨がなくてあたふたしていただけだ。

「あいつ、ポケットからなんか落としやがったぞ!きっと時限式の爆弾だ!伏せろ!!」

「違ぇよただのゴミだ!注意だけにしとけ」

 そんな感じであらぬ容疑をかけられた人たちに対して土下座して回り疲れはて始めた頃、

「ショウさーーん! テッドさーーんっ!」

 平和な街の青空に、やたらと澄んだ、聞き覚えのある能天気な声が響き渡った。

 疲れ果てて膝に手を突いていた俺が顔を上げると、大通りの向こうから、まるでピクニックにでも行くかのような足取りで歩いてくるミリーの姿があった。

 その隣には、相変わらず仕立ての良い制服のシワ一つ乱さず、優雅に微笑んでいるベルト。

 どんだけ動き回ったのか、俺たちの制服は煤と泥で薄汚れているというのに、あの最高戦力は涼しい顔で周囲に手を振り返している。なんなんだあの溢れ出る王族感は。

「2人とも随分熱心にパトロールをしていたようだね。成果はどうだい?」

「いやあ惜しかった!3人くらい容疑者を見つけたんだかなぁ。すんでのところで逃げられちまったぜ!」

 大ホラ吹きじゃねぇか!無実の民に冤罪ふっかけて自分の財布を潤そうとしてたゲス野郎だったのになぜそんな嘘がつけるのか。

「それは残念です! でも見てください、私たちはさっそく『大物』を見つけちゃいました!」

 ミリーがふんす、と鼻を鳴らして胸を張る。

 そのミリーの背後から、ひょこっと顔を出したのは――。

 眩しいほどの金髪をツインテールに結わえた、絵に描いたようなお貴族様のお嬢様だった。

 年齢は八歳か九歳といったところか。仕立ての良い豪華なフリルのドレスを着ているのだが、あちこちに草の種(ひっつき虫っぽいヤツ)がついており、裾にはうっすら泥の跳ねた跡がある。お前それ、絶対に迷子じゃなくて大脱走を楽しんでただろ。

「セリアお嬢様、こちらが私の頼れる同僚のショウさんとテッドさんです!」

 ミリーが紹介すると、お嬢様はサッと俺の前に歩み寄り、じっとその澄んだ青い瞳で俺の顔を見上げてきた。

 なんだ。煤まみれのアフロの名残を見て笑いに来たのか? 

「へー、面白い顔ですわね!」

「は?」

「合格ですわ!ほら、しゃがみなさい。肩車を要求しますわ!」

 躊躇なく両手を広げ、満面の笑みで無茶振りをかましてきた。なんで俺なんだ、横にいる無駄に筋肉のついた男か、王子様みたいなイケメン隊長にでも頼めばいいのに…。

「肩車なら俺でも出来るぜ?なんなら乗り心地だって最高の性能を誇って――」

「嫌ですわ!貴方はお顔がモンスターみたいで怖いですもの、夢に出てきてしまいますわ!」

「…な、ちょ…モンス……ゥゥン…」

 思わぬ罵倒に意気消沈したテッドを無視して、ベルトは、

「ショウくん、セリアお嬢様はロードリーの街を治める大貴族の1人娘なんだ。お屋敷まで無事に送り届ければ、壁の修理費はおろか、我が警察署の数ヶ月分の運営費がボーナスとして出るかもね」

 ベルトが爽やかな笑顔のまま、俺の耳元でゲスなことを囁いてきた。

「……お嬢様、どうぞ俺の肩をお使いください」

 背に腹は変えられん。俺は膝をつき、最高級のドレスを纏った小さな体を肩へと乗せた。

「ニョホホホホ、これは愉快ですわ!ほらほら、あっちに進みなさい!」

「イテテ、あいあい…」

 俺の髪をレバーのように前後にぐいぐい引っ張りながら、セリアお嬢様は我が物顔で指令を出した。

 ちなみに、俺の頭に載っていたはずの警察の制帽は、いつの間にかお嬢様の小さな頭の上にちょこんと乗っかっている。金髪ツインテールに、大人のサイズだからブカブカな警察帽、そして豪華なドレス。完全に「ちびっこ一日警察署長」のビジュアルだが、やっていることはただの暴君である。

「は、はは…俺の顔が…モンスターだってよ…ハハハ」

「いつまでも引きずってねぇで行くぞ。お嬢様を待たせるわけにもいかないしな」

 ブツブツとゾンビのように呟いているテッドを促し、俺たちは大通りを進み始めた。

「ところでベルトさん、セリアお嬢様のお屋敷ってどこなんですか?」

「ここから大通りを抜けた先にある高台のエリアだね。普段なら馬車で一瞬なんだけど、今日のセリアお嬢様は『歩いて冒険したい気分』だそうだよ」

 ベルトが相変わらずの爽やかスマイルでとんでもない補足を口にした。

 つまり、このレバー操作に耐えながら、徒歩でお屋敷まで警護しろということか。俺の首の骨がもつかどうか、非常に怪しくなってきた。

「ほら! あっちに怪しくて面白そうな路地裏がありますわ! 突撃ですわ!」

「いやお嬢様、そっちは治安がよろしくないというか、ただのゴミ置き場――」

「突撃ぃぃぃーーー!!」

「あいあいサーぁああああ!!」

(――バシャアアン!!)

 もうどーにでもなれだ。やけくそになりゴミの山に突っ込んだ。生ゴミが放つ激臭に意識が持ってかれるところだったが、なんとか持ちこたえる。

「わぁー!くちゃいですわ!」

 俺のすぐ頭上で手を叩き高笑いするお嬢様に苦笑する。人を何だと思っているんだか…。

 なんとかゴミの山を脱出した俺たちだったが、目の前に現れたのは、街の名物でもある高台へと続く心臓破りの大階段だった。

 見上げるような段数に、俺の足がガクガクと恐怖に震え出す。

「さぁもうすぐわたくしのお屋敷ですわ!突撃ぃい!!」

「お待ちくださいお嬢様、流石にこの階段を肩車をしたまま上がるというのは…あまりにも酷です」

 半泣きで訴えかけるも、聞く耳を持たない様子でキラキラ輝く目を遥か頭上である階段を越えた先へと向けられていた。

「…やるしかねぇ。全く、とんだ小遣い稼ぎだぜ」

 俺は腹をくくり、生ゴミの臭いを周囲に撒き散らしながら、一歩一歩階段を踏みしめた。

 太ももは破裂しそうに熱く、腰からはメキメキと不穏な音が鳴り響く。お嬢様は俺の髪を掴んで「行けー!進めー!」と容赦なくレバー操作を続けている。痛い、やめろ……そろそろ投げ飛ばすぞ!

 ――そして、限界を超えて白目を剥きかけたその時。

 ようやく辿り着いた階段の頂上、お屋敷の立派な門の前には、仕立ての良いスーツを着た、いかにも威厳のある壮年の男性が血相を変えて立っていた。セリアお嬢様の父親であり、この街の領主様なのだろう。

「セリア!あぁよかった、無事だったか…っ!?む、この臭いは…!?」

 駆け寄ろうとした領主様が、俺たちから漂う凄まじい生ゴミの激臭に思わず足を止め、顔をしかめる。

「お父様、この者とっても優秀ですわ!わたくしのお帽子も貸してあげましたの!」

 ブカブカの警察帽をパタパタさせながら自慢げに話す娘を見て、領主様は状況を察したのか、優雅に先回りしていたベルトへと視線を向けた。

「ベルトくん、娘を保護してくれたことには感謝する、感謝してもしきれないくらいだ。しかしなぜこんなにも…芳ばしいのかね?」

「ハハハ、我が部隊の精鋭たちが、お嬢様の大冒険にお付き合いした結果ですよ」

 ベルトは相変わらずの爽やかスマイルで、汚れた俺たちを指し示した。ちゃっかり手柄を自分のものにしやがって、許さん!

「まぁ深くは聞かないでおこう、報酬はたんまり払おう。だから…頼むから早くお風呂に入ってくれ」

 領主様は鼻をつまみながら、苦笑いで執事の方へと指示を出した。

 報酬確定の瞬間、俺の肩からようやく力が抜けた。お嬢様が俺の頭から降り、ブカブカの警察帽を俺の頭にポンと戻してくれる。

「今日はとっても楽しかったですわ!貴方なら毎日わたくしのお屋敷に遊びに来てもいいですわよ?」

「…ご容赦ください」

 若いからぎっくり腰になんてなりゃしないと思っている人がいるなら、それは大きな間違いだ。なるんだよ、うかつな行動をしてたらな。これ、アドバイスね。

 今後しばらくはまともに動けないだろうから、ベルトにはテッドたちがバカをやらないように注意してもらうことにしよう。限界を超え軋む腰を擦りながらこの街に整体はあったかなぁと想いを馳せた。



                  ~続く~

 

ここまでお付き合いしていただきありがとうございます!

今回は平和な街でのパトロール回でしたが…結果的にショウ君の腰が一番の被害者になってしまいました。生ゴミまみれで超ロング階段を登るなんて、いくらボーナスが出るからとはいえ、私なら絶対に有給を取ります(笑)。

ではまた来週~。

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