祝!!ポッカポカ!ショウ君春のデッドヒート!?
冬が開け、この世界にも春の陽気がやってきた。
新築の警察署の窓からポカポカとした春の光が差し込む中、俺、テッド、ミリーの3人は日当たりの良い床でゴロゴロしていた。
「動きたくね~」
「ふぃ~。日向ぼっこがこれほどいいもんとは初めて気付いたぜ」
「ふふふ…そうそう、こういうのがいいんですよね
ぇ」
失ってしまった物も少なくないが、傷付いた心も太陽の殺菌効果により綺麗さっぱり癒えていた。
「ハハハ、みんなリラックスしているね。僕も混ぜてよ」
春になってからやけに調子の良いベルトは片手を上げてにこやかに微笑んだ。
「よいしょっと…へー、これは良いね」
頭の後ろに手を回して寝っ転がり「ふぅ」と深く息を吐き目を細めている。ミョーに絵になっていて腹立たしい。
「いやぁ~こんな日にはみんなでピクニックにでも行かないかい?」
口数が多いなぁ。俺たちは喉かな日を浴びて光合成してるんだ。あんま話しかけんで欲しい。
「嫌に決まってんだろ!俺はこっから1歩も動かねぇからな!」
大の字になって寝そべるテッドがそのままの体勢で叫ぶ。
「そーだそーだ!ここに『お外出ない宣言』を提示します!」
ミリーはムクリと身体を起こし、拳を振り上げデモ活動を始める。
「ま、そんなことだろうと思ったよ。でも行ってみないとわからないだろう?絶対後悔しないから」
寝心地の良いカーペットごと丸めて持ち上げると、俺たち3人を外へと誘拐する。
「どぅうわぁあ!?強引すぎるだろォ!」
「誰かー!男の人呼んでー!ここに誘拐犯がいまーす!」
「ちょっとあんまり暴れないでください!潰れちゃいます!」
カーペットの中では知られざるデッドヒート―いや、テッドヒートかな?w―が執り行われ、早くも最小個体であるミリーが潰されかけている。
こうしている間にもベルトは止まることを知らない。知るどころか――
(――ゴアアアアア!!)
「ぶっほ!」
「わっぷ!」
凄まじい風切り音と共に、重力がいきなりおかしくなった。ベルトのヤツ、俺たち3人分の重量を無視して爆走し始めやがった!
「待てベルト!コイツらはともかく、俺は1人で移動出来るって!ひたすら暑苦しいんだよぉ!」
「まぁまぁ、これで仲良しさんだね」
「テ↓メェーーー!!」
こんなのピクニックに行く前の楽しい雰囲気じゃない!これは拉致、あるいは新手の絶叫アトラクションだ。
視界はカーペットに埋め尽くされているものの、周囲の景色が驚くべき速度で移り変わるのを肌で感じながらいると――
(――ズザザザア!!)
地球が割れるレベルの衝撃が俺を襲い危うく舌を噛むところだった。
「さぁ到着。みんなのために頑張って準備したんだ」
ゴミを廃棄するような動作で荒っぽく放り出される。
「ぶべ!」
口の中に土が入り大地の豊かなフレーバーが広がる。一言文句を言ってやろうと起き上がり、口を開く。
「やってくれたなベル…ト…」
誘拐された場所は辺りより少し高い丘で、俺たちの警察署や街並みがとても小さく見えた。丘の上にはこれまでずっとこの場所を守ってきたような木が1本どっしりと生えている。木漏れ日を優しく落とすその姿は、自然と安心感を与えた。
だが、なによりも俺たちの目を引いたのは木の下だった。
「こ~れは…ベルト、気が利くじゃねぇか!」
テッドの口からおもちゃコーナーで走り回る子どものような声が出る。
芝生の上には、我が家の床とは比べ物にならない、どっかの王宮から盗んできたんじゃないかと思うくらい上質なピクニックマットが敷かれていた。その上には、見るからに身体を甘やかす形状をしたクッションが人数分、完璧な位置で並んでいる。中央にでかでかと置かれてあるテーブルには、食欲をそそる色鮮やかなサンドイッチがこれでもかと山盛りに積まれていた。
「はむはむ、にゃむにゃむ…おいひぃれす!」
視線をやると、既に特等席に陣取っているミリーがサンドイッチを口いっぱいに頬張って目を輝かせている。さっきまで『お家出ない宣言』をしていた形跡は微塵も存在していない。
「ずりぃぞミリー!俺にも食わせろ!」
「むー!むー!はれはもんも!」
テッドが慌ててマットに入り込み、ミリーとサンドイッチ争奪戦を始めやがった。
口の中の土を吐き出し大きくため息をつく。引きこもりどもの心はベルトの完璧すぎるおもてなしによりあっさり捕まれてしまった。
「そうそう、モンスター避けの結界も張ってあるから襲われる心配もないよ」
「そ、そうか…」
聞こうとしたことを先回りされ、思わず苦笑する。手の込んだサプライズだ。
「裏が…あるな?」
「……フッ」
「おいなんだよその含み笑いは!」
まず疑ってしまう自分の性格は円滑な人間関係を築く中でマイナスになってしまうが、今回はそればかりではなかったようだ。
「アイツらはまぁ幸せそうにしてるしいいとして、実際なにすんだよ?」
「う~ん、ここで言っても良いけどまずご飯にしないかい?みんなにも伝えなくてはならないからね」
前髪を弾き優雅な足取りで木の下へ歩み出す。
「そうかよ…」
俺だって何にも考えずただ目先の幸せに心踊らせていたいものだ。肩をすくめこれから起こるハプニングに怯えながらベルトの後を付いていく。
まぁ正直サンドイッチはバチクソにうまかった。シャキシャキの新鮮な野菜に、絶妙な焼き加減の肉。怯えていたはずの俺の心も、気付けば2人と競い合うようにして胃袋に収めた。
「だぁはー!食った食った!ベルト、お前もう毎日料理当番してくれよ」
「むにゅう…お腹いっぱいで動けませぇん…」
クッションに深く沈み込み文字通り『ダメ』になっているテッドとミリー。俺も水筒の温かいお茶をすする。大自然の中で食う飯はうめぇなー。
全員の心が完璧に緩んだ瞬間を見計らったかのように、ベルトが上品に口元を拭いて微笑んだ。
「満足してくれたようで良かったよ。さて、そろそろ本題に入ろうか」
「だぁー!やっぱりなんかあるんかぁ…」
現実に引き戻され、天を仰ぐ。嫌な予感は見事的中。ベルトは待ってましたと言わんばかりに1通の書面を取り出した。
「肝心の依頼の内容だけど、牧場から逃げ出した『ベヒモス・ゴア』を捕まえてほしい、って内容だね」
「まさか!俺たちをこのうまい飯で騙したってのか!?クソッ!やられた!」
膝から崩れ落ち頭を抱えるテッドは債務者のそれにそっくりだった。
「ベヒモス・ゴアですか…。なんとかなりますよね!」
「ベヒモス・ゴアってなんだよ?」
「ん~、図鑑によると、とても攻撃的で時速80キロで走るみたいだよ」
「ふぅん…」
俺だって学ぶ男だ。なぁに、危険な任務はぜーんぶコイツら脳筋どもに任せておけば良い。一般人の俺は丘の上で優雅に観戦させてもらうとしよう。
「あーでもあれか?何匹もいるってんなら一気に捕まえるには囮役がいるなぁ…チラッ」
3人の視線がソファーでくつろぐ俺へと向けられる。一筋の汗が頬を伝う。
「おいおい、嘘だろ?」
「ブルゥルルルル!!」
「いやぁーー!お助けくださーーーい!!」
あきれ返る程喉かな草原の上で、俺は大地を揺らしながら猛進してくる牛の群れを引き連れ逃走している。
「あと30秒かかるから、それまで頑張ってショウくーん!」
「ナーッハハハ!いいぞぉショウ!走れ走れ!」
「フレー、フレー、ショ・ウ・サ・ン!」
私関係ありません面して漫才でも見ているかのように安全圏から応援やら嘲笑が浴びせられる。
「あいつらコロォス!」
誰に向けた物でもない宣言を掲げ一心不乱に手を振り足を上げたが、時速80キロで走るらしいベヒモス・ゴアさんたちは、さっきまで猫くらいに見えた大きさだったのが今ではヘビー級チャンピオンレベルにまで巨大化していた。今こうしている間にも刻一刻と距離が縮まっているのを感じる。
「30秒、ホントに30秒なんだよな?絶対帳尻合わせろよ!!」
背後から迫る地響きはもはや大型トラックのそれだもう転生している状態でトラックに引かれた場合もう1回転生するんだろうか?いやそもそも――
「ブルモォオオオ!!」
「あぁん♡」
お約束ならギリギリのとこで魔法の準備が完了して「いやぁ、あぶなかったぜ☆」と爽やかに汗を拭うところだろうが、現実は非常なり。容赦の無い衝撃が俺の背中にクリーンヒットする。
身体は重力を無視して派手に宙を舞う。視界が上下逆さまになり、お空がとっても綺麗に見える。痛いって言うか、一瞬息が止まった。いやまぁもちろん痛いんだけどさ?完全に直撃してます。大惨事。
「よし、準備完了!ミリー、サポートを頼むよ」
「あいあいさー!」
いや遅ぇよ!!宙を舞う視界の先で、ベルトの持っている捕縛魔法を発動するための魔道書が光る。
「んー結界展開!」
ちょっと韻踏んだな。
ミリーの声と同時に、俺を吹っ飛ばしてなお突進を続けようとしていたベヒモス・ゴアたちの足元に、眩く光る魔方陣が広がる。闘牛たちが光の檻に閉じ込められ、次々と動きを止められていく。
(――ズザサササササァッ!)
一方その頃、自由落下した俺は、青々とした草原の上をみっともなく5m程滑走してようやく停止した。
「ウゥン…」
痛ぇ。クソ、また口に土が入っちまった。俺は土食の趣味なんてねぇぞ!頭から派手に墜落したにも関わらず衝撃を草花たちが受け止めてくれたらしく、首が折れることはなかった。ま、心は折れちゃったけど。泥まみれの顔をなんとか持ち上げ、安全圏から見下ろす元凶たちに目を向ける。
「貴様ら全員…呪ってやるッ!末代まで…毎晩金縛りになるがいい…ガクッ」
執念だけでなんとか吐き捨てると同時に、俺のHPはゼロになってしまった。「チーン」という清々しい仏壇の鐘の音が鳴り俺の意識は泥の中に沈んだ。
ハッと目が覚めるといつもの天井が出迎えてくれた。窓からは相変わらず春の日差しが舞い込んでいる。
「ハハ、なんだ…夢か」
きっと疲れているんだ、そうに決まってる。疲労からなる悪夢にうなされていただけ。あー良かった。
「…ふぅ、痛ぇな」
背中に『激痛』という名のデバフを背負って起き上がる。自分の服を見下ろすと、新調したての制服がしっかり草と泥を塗りたくられ見事な現代アートチックさを見せてくれた。はっ、現実だったわ。痛む身体をハチの巣にされたゾンビのように引きずりながら自室からオフィスへと向かう。ドアを開け中を見下ろすと、そこには信じられない程眩い笑顔を浮かべた3人の姿があった。
「うっひょー!すっげぇ、これが今回の報酬か!」
「牧場主さん、大奮発してくれましたねぇ!今夜はすき焼きですか!?」
「ショウくんの文字通り命をかけたガッツのお陰だね。これで当分食費には困らないよ」
テーブルの上には報酬金が入った袋と、お高そうな肉がずっしり並べられていた。俺が死の淵で反復横跳びしている間にコイツらは戦利品の山分けに大盛り上がりしていたらしい。
「テメェら…」
泥と怨念にまみれた俺の声に、3人が一斉に振り返る。
「ショウ、ようやく起きたか!ほら見ろよ、良いとこの肉だぜこりゃあ!お前が身体張って勝ち取ったんだぜ?」
テッドが親指を立ててはにかむ。悪気があるのか無いのやら。
「えへへ、私たち仲間ですよね!みんなで平等に分け合うのが仲間ですよね!」
顔の回りに光のエフェクトを出しながらニパァーっと笑うミリーは謎理論を提示して肉を抱き締めている。
「まぁまぁショウくん落ち着いて。たまには活躍するところを見せれたんだ、これはプラスに働くはずだよ」
濁っている俺の表情をなだめるように微笑んでいるが、これはケンカを売っているという認識でいいのかな?身体中を血液ではなく闘志が流れ、俺を突き動かした。
「全員表に出ろ!ブッ飛ばしてやる!!!」
今の俺を止めれるものは誰一人としていねぇ!エセ中国拳法家の構えで奇声を上げながら飛び掛かる。
この後しっかりボコボコ(主にテッドから)にされ危うく今夜の晩飯のメニューが1品増えるところだったというのは言うまでもないだろう。理不尽だ!今回何にも悪いことしてないしむしろ報われるべき酷い扱いを受けた。あぁ神様、これまで全然信じてなかった事を懺悔します。無視が良いこと重々承知で申し上げます。どうか俺に帳尻合わせるような幸せシーンをください…と、何かしらの宗派に入信を検討しながら、オフィスの床へと派手に叩き付けられた。本日2度目の自由落下。理不尽ってレベルじゃねぇぞ!
~続く~
ご一読ありがとうございます!
前回の後書きでショウ君には何かしらのご褒美をプレゼンするような言い回しをしましたが、すいませんボコボコにされてしまいました。そのうち、そのうち今までの不幸が帳消しになる出来事がやってくると思うので、どうか頭の片隅に置いておいて下さい!
では、また来週~。




