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祝!!乗り越えろ!激動の冬!?

 翌日、ノイマンとララが一晩中騒ぎ立てやがったので、俺たち全員が目の下に(くま)を作りゾンビのように起き上がった。

 そう、俺たちの睡眠時間はノイマンの『ソウル』とやらに奪われたのだ。朝一番、我が家を直すため建築家さんたちがやってきた。

「あぁあ、追加予算ならいくらでも払う!1秒でも早く直してくれ…頼むッ!」

 テッドは凶悪犯にでも脅されているような切羽詰まった顔で泣きながら訴えた。

「でもなぁ、大火事だったから基礎からやり直さねぇと…」

 建築家さん側も困ったように顎を撫でながら言葉を発したが、テッドのただならぬ殺気に気圧され「わ、わかった。突貫工事だ!」と色々な手順をすっ飛ばして早めに取り掛かってくれることになった。

 しかし最短でも生活できるレベルまで直るのには冬中掛かるらしい。冬中?あと何ヵ月あると思っているんだ?あと何回ノイマンの歌を聴けばいい?それまで俺は果たして平常を保っていられるのだろうか…。

 絶望に打ちひしがれていると、ミリーが隣でボロボロと涙を流し、俺の情熱ジャージの袖を握ってきた。

「ショウさぁん、私、怖いです…。毎晩あの歌と光にうなされたら、お肌は荒れちゃいますし精神だって持ちません…」

「あー、よしよし。大丈夫だミリー、なんとかしてやる」

 いまだ建築家さんたちにまとわりついているテッドを引き剥がし作戦会議に入る。

「どうするテッド、今安定した情緒を保っているのは俺とお前だけだ。それもいつまで続くかわからん。対策を打つべきだ」

「へへ、さっすがショウだ。俺様もちょーどそれを考えてたとこだぜ」

 鼻の下を擦りニヤリと笑うと、膝を叩いて立ち上がる。

「まずは、地下まで行かねぇとな」

 2人で意気消沈しているミリーを担ぎ上げ、再び地獄の扉の先へと進みだした。


 地下は相変わらず不気味な雰囲気で包まれていた。

 まず目に入るのは完全に沈黙しているベルトの独房だ。本格的に冬眠へ移行したのか、もはや息をしているのかも謎だった。前までギリお供え物判定を免れていたパンたちも、薄暗い部屋も相まって、完全にお供え物と化した。

「…なぁ、一応拝んどくか?」

「りょーかい」

「「南無」」

「生きてますから拝まないでください!」

 ミリーの鋭いツッコミを背中に受けながら、俺とテッドは静かに手を合わせ目を閉じた。

「余興は終わった。ショウ、やるぞ」

「おう、ミリーはここで待機だ」

「えっえ?何ですか?何をするんですか?」

 降ろされてすぐその場で足踏みしてオロオロしているミリーを無視して男2人は顔を見合わせ頷いた。

 ターゲットはすぐ奥の部屋だ。今もなお、ノイマンは愛用のギターを磨き上げ、次のリサイタルの構想を「照明はどういたしますカ?」と話し合いながら練っていた。

 アイツらがその気になる前に元凶を…断つ!

「やぁノイマン。綺麗なギターだなぁ。ちょっと見せてくれよ」

 テッドが極めて不自然な笑顔で鉄格子に歩み寄る。

「オゥ!シャッチョサン!ワターシの相棒に興味を持ちましたか!」

 人を疑うことを知らないノイマンはあっさりとギターを差し出した。勝機は今、この一瞬!

「いやぁ~綺麗だなぁオラショウやれぇええええええ!!」

「オラシネェエエエエエエ!!」

 素早い動作で渡ってきたギターを渾身の力で叩き付けた。

(バッキィイイイン!!)

 爽快で破壊的な重低音が地下中に鳴り響く。

「ノォオオオオ!!ワタシのソウルがーー!!?」

 頭を抱え絶叫するノイマンと、それを見て「あら、激しいわねぇ」とパチパチ拍手するララ。自分が楽しけりゃなんでもいいらしい。

 とりあえず、これで俺たちの安眠は約束された。

「ハ…ハハ…!ククク、フッハハハハ!!どーだノイマン!これでお前のリサイタルもお預けだぜぇ!ヒャッハー!!」

 悪魔のように腕を広げ高笑いするテッドの後ろで、俺も肩で息をしながら手のひらに残る衝撃の余韻に浸りながらニヤリと笑った。勝った。俺たちの勝ちだ!

「ちょっと2人とも!何てことするんですか!いくらなんでも過激すぎます!」

 両手をバタバタ振って抗議するミリーにテッドが対抗する。

「あ~~?そんじゃあお前はあの爆音と光の中で過ごしてたいって~?」

「ムグゥ、でも、ノイマンさんかわいそうです…」

 確かにバラバラになったネックの破片をいとおしそうに集めるノイマンの背中は哀愁が漂っていたが、ここで同情しては元の木阿弥(もとのもくあみ)だ。ここは、心を鬼にしてそれぞれのスペースへと帰っていった。

 ギターを破壊され絶望しているハズのノイマンが、昼食の時間になっても妙に静かだった。様子を見に行くと、壊れた破片を撫でながら、虚空を見つめてブツブツと呟いている。

「…ハッ、そうか…。形あるものはいつしか壊れる…。しかしワタシのソウルは形なきもの…。寂しいですがギターはただの飾りに過ぎなかったのデスネ…!」

「うぇ~、何か変なスイッチ入ってねぇか…?」

「ケッ、負け惜しみ言ってやがるぜ」

「やっぱり相当ショックだったんですよ。ごめんなさいした方がいいですって」

 そう言って、ノイマンに同情したミリーが自分のカチカチパンを分けてあげた。しかし、ノイマンはそれを食べるのではなく、パンをギターに見立てて構え、指を激しく動かすイメージトレーニングを始めている。

「ジャカジャカ…。フム、このコードは…」

「ひぇぇっ…!パンでギターの練習してますっ!」

「ほっとけ、音が出なけりゃただのイカれたパントレーニングだ」

 手も足も出ないとはこのこと。壁に掛けてある時計の針は夕方を示しており、昨日の疲れもろとも消し去るべく俺たちは早めに寝ることにした。


 その日の夜のこと。

「ジャンジャカジャカジャン…」

「……?」

 ギターの音で目が覚め、ノソノソと起き上がり辺りを見渡す。ギターの音だって?いやいや、ギターなら壊したハズだ!この手でッ!必ずッ!

「おいショウ、どうなってやがる?」

 同じく不穏な音で目が覚めたテッドが鉄格子の間から顔を出して尋ねてくる。その顔には恐怖の色がハッキリ見受けられた。

「確認、しに行くぞ」

「…ゴクッ。りょーかい」

 唾を飲み込み抜き足差し足忍び足で曰く付きの牢獄へ向かう。

 そこにはエアギターを弾いているノイマンの姿が確かにあった。エアギターならこのギターの音はなんだ?

「おいおい…嘘だろ…!?」

 俺の耳がおかしくなかったら間違いなく()()はノイマンの口から発せられていた。隣のテッドも驚愕で顎が外れんばかりに開かれている。

 そう、ノイマンは限界を超えて『口ギター』なるチート能力に目覚めたのだ。

「夜は…ワタシの夜は…ッ!これ、からっデーーース!!ラッラァアーー♪」

「あっはははは!!最っ高ーー!」

 これまで以上のサイケデリックな魔法の光がチカチカ光を放ち始めた。

「グッゾォ!アダマガッ!」

 何より俺を驚かせたのはギターの音を出しながら歌を歌っていることである。今この瞬間ノイマンは『人間』を超えたのだ。

 不協和音により、またしてものたうち回りそうになったとき、いつの間にか起きているミリーが鉄格子を握りガタガタ震えているのが見えた。

「ミ、ミリーー!お前の聖なる美声でアイツの歌を掻き消すんだぁ!」

「えっ?ふぅぇえー!?私がですかぁ?嫌ですよぅ、あんな変なお歌と混ざりたくないですぅ…!」

「ワガママ言ってんじゃねぇーーー!お嫁に行くんじゃねぇのか!!ここでやらなきゃテメェは一生寝不足で肌がガッサガサの大化け物になんだよぉお!!」

 テッド渾身の激励が背中を押したのか、一瞬下を向きポロポロと光る雫を落とし、すぐに前に視線を戻すと、

「う…うぅ、ぐす。う、うわぁあああん!!もうどうにでもなれですーーー!」

 自分の中で吹っ切れたのだろう。ボロボロ涙を落としながら独房の鉄格子を掴んで大口を開けた。

「うにゃあーー!ららーーッッ♪」

 こんなの歌でもなんでもない絶叫だが、ノイマンの爆音の口ギターと歌声、ミリーの絶叫が正面からぶつかり合い、地下はカオスな音響兵器の実験場のようになった。

「ハッハー!ミリー女史のソウルフルな乱入デース!」

 ノイマンは怒るどころかテンションぶち上げパーリナイ。さらに口ギターの回転数を上げる。

「負けんじゃねぇミリー!声量で押しきれ!」

「お前の喉に明日が懸かってるんだ!」

 テッドと俺は、ミリーの後ろで泥臭い声援を送り続けた。静寂とは程遠いうるささだったが、不思議とノイマン単体の時のような精神汚染は和らいでいた。


 翌朝。

 全てを出しきったミリーは、喉を押さえ真っ白に燃え尽き椅子に座り込んでいた。

「勝った…のか?」

「あぁ、俺たちの、ハァ、勝ちだ…」

 ガサゴソと布団から這い出たベルトが、「う~ん、なんだか昨日は良く眠れたよ」と陽気に呟く横で、どこからか差し込む光に照らされているミリーに、そっとカチカチパンをお供えした。


 ――こうして、俺たちの『地下生存戦記』が幕を開けたのである。建築家さんが言った「冬中掛かる」という言葉は絶望以外の何物でもなかったが、人間、極限状態に置かれると適応するものらしい。

 まず、ノイマンたちのライブに唯一対抗できる存在であるミリーは、今や俺とテッドにとって絶対的な守護神として崇められることになった。

「ミリー閣下、本日の調子はいかがでしょうか。こちら、カチカチパンを1時間煮込んだ特製ドロドロスープにございます」

「………ッ!」

 喉が完全に潰れて声が出ないらしく、無理な騎士風の演出をするテッドを、ミリーは無言で睨み付ける。しっかしベルト1人だけ冬眠という無敵状態でいるのが気に食わない。自分が哺乳類であることをこれ程恨んだことはないだろう。毎日供えてあるカチカチパンが次の日には消えているホラー演出を、ベルトの生存確認として利用している。

 喉を枯らし、精神を削り、カチカチのパンで顎を鍛え直す日々が、さらに数週間、数ヶ月と流れていき――。

 地下の時計の針が、何度目かもわからない朝を指したとき。

「えぇ~テッドさん。とりあえず住める程度には直りましたので、戻っていただいてもよろしいですよ」

 しわがれたオッサンボイスでも、建築家さんの声は天使の囁きのように聞こえた。

「帰ってきたんだ…!俺たち、生きて帰ってきたんだ!いやったぁあああ!!」

「うぅ、よがっだッ!俺もう何度ダメかと思ったか!」

 テッドはそう泣き叫びながら、背中に背負っているベルトを揺すってやった。

「ほらベルト、太陽の光だぞ」

「ハハ、本当に綺麗だね」

 冬眠明けのベルトは眩しそうにしながらうっとりと太陽を見つめた。ミリーはというと完全に脱力し、俺の肩に担がれている。確かな感動を胸に、俺たちは朝日を存分に浴びた。

「…ご苦労さん。ヒーロー」

 一瞬身体をピクッと動かしたのは返事なのだろうか?今回のMVPであるミリーを労うように背中を叩いてやると、安心したかのように吐息を吐くとまた動かなくなった。

 新築の匂いがする警察署の扉を開けた。しかし、中に入った瞬間、俺たちの感動の涙は一瞬で別の涙へと変わることになる。入り口入ってすぐ左の所長室を真っ先に開けたテッドは、部屋の中身を見て動きを止める。

「……あ。あ、あああああああ!! 俺の、俺様のゲーム機があぁあ!! 隠してた限定版のエロ本が全滅してやがるぅうううう!!!」

 前まで沢山のゲーム機に囲まれていた部屋は、なんということでしょう。綺麗さっぱり必要最低限の設備しか残っていませんでした。テッドが頭を抱えてその場に崩れ落ち、まるで子供のように大号泣し始めた。そう、建物は直っても、中にあった俺たちの私物まで元通りになるわけではないのだ。

 テッドのその絶叫が特効薬になったのか、俺の肩でぐったりしていたミリーが「はっ!」と目を見開いて飛び起きた。

「て、テッドさん……今、なんて……。ま、まさか、私の部屋のコレクションも……っ!?」

 声がまだカスカスなのも忘れて、ミリーは自分の部屋へと猛ダッシュしていく。数秒後、奥からこの世の終わりかのような悲鳴が響き渡った。

「うわぁあーー!?私が頑張って集めたテッドさんの骨と血がぁあー!あっ!実験で産まれたお花のモンスターも!ぬいぐるみも!全部ぜーんぶ無くなっちゃってますぅぅうーーー!!」

「あれに関しては燃えて良かったな」

 ところで部屋にほとんど物を置いていない俺はともかく重要そうな書類と本が沢山置いてあったベルトが涼しい顔をしているのは何故だろうか?

「コレクションとして置いておきたいという目線では残念だけど、本の内容は一言一句覚えちゃったし、大事な書類はあらかじめバックアップを取ってあるからね。ほとんどノーダメージと言っても過言ではないよ」

「おっふぅ…」

 さすがは我が隊の頭脳、抜け目無い。

 全焼した警察署、カチカチの石パン、深夜のビカビカ大リサイタル、そしてミリーのやけくそ絶叫。激動の冬を越した俺たちの日常が、ようやく地上へ帰ってきたのだ。



 ~続く~

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます!

いや~、ようやく地上に戻ってこれましたね(笑)!ノイマンがまさかの『口ギター』というチート能力に目覚め、しかもそのまま歌い出す人間超越シーンは書いてて絶望を感じたものの1つです。

次回はいつも通りの生活が帰ってきて、ショウ君たちはのびのび暮らせることでしょう。そろそろご褒美が必要そうですねぇ(意味深)。

それではまた次回お会いしましょう!

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